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よいどれ聖女は今日も楽しくワインを開ける

作者: 楽市

 記念すべき、王立学園卒業記念パーティーでのことであった。


「デュオニシア公爵家令嬢ルクレッタ・フォン・デュオニシア! 公爵家令嬢にして大聖霊より癒しの御業を授かりし聖女の身にありながら、常日頃より見せるおまえの身勝手なる振る舞いもはや見逃しがたい! 婚約者たる僕、王太子デュセルもこれ以上は放っておけない! よって、今この場で婚約を破棄させてもらう!」


 和やかだったパーティー会場の空気が、これによって一変する。

 集まっていた他の貴族子息や令嬢も、何事かと思ったことだろう。


 宣言をしたのは、卒業生代表の王太子デュセル。

 白い礼服が誰の目にも鮮やかな、金髪碧眼の貴公子だ。


 いつも柔和な笑みで同級生と接する、物腰柔らかな大人の彼。

 しかし今は、自らの婚約者に対して厳しい顔つきを浮かべ、臨んでいる。


 ――まさかあの殿下が、あのようなことを。

 ――何せ、お相手があのデュオニシア家のご令嬢ですもの。

 ――デュオニシア家というと、あの放蕩娘か。ついに愛想を尽かされたか。


 ざわめく会場内で、ひそやかにそんな言葉が囁かれる。

 そして、たった今デュセルより婚約破棄を突きつけられたルクレッタは――、


「ん、んしょ、よいしょ」


 一心不乱にワインオープナーでコルク栓を抜こうと躍起になっていた。

 真っ赤なドレスに身を包んだ、艶のある黒い髪を長く伸ばした美しい女性だ。


「んんんんんんんんんんんんん~、そ~れっ!」


 キュッポン。

 コルク栓がやっと抜けた。


「はぅ~、やぁ~っと抜けましたわ~。グラス♪ グラス♪」


 皆が固まっている中で、ルクレッタは一人陽気にワイングラスを持ち出す。

 その右手には、栓が開けられたばかりのワイン瓶。


 グラスにそっとそれを傾けて、トクトクと注がれる鮮烈に赤い液体。

 香る甘い匂いに、ルクレッタは「ん~♪」と声を弾ませて期待を露わにする。


「赤いですわ~、新鮮な赤ですわ~。けれどそこはかとなく深みがあって、こうして光にかざしてみるとルビーみたいにキラキラしてますわ~! なんて美しい!」


 グラスを上に掲げ、満足げにそう言う。

 そして、その整った鼻梁をそっとグラスに近づけて、もう一度匂いを確認。


「ただ甘いだけでなく、その奥に様々な匂いが複雑に絡まり合っていますわね。こうして嗅ぐだけで、醸造の景色がまぶたの裏に浮かんでくるようですわ……。さすがは名門ワイン蔵アルルテンのワインですわ~。これはそそりますわね~!」


 興奮も新たに、ルクレッタはついにアインを一口。

 軽く味わったのち「ん~!」と、歓喜と驚きをないまぜにした声を出す。


「美味しいですわ~! 何と鮮烈かつ奥深い味わいなのでしょうか! そしてこの風味、口から立ちのぼって鼻へと通り抜けると共に、飲み込むことで全身へと広がっていく、甘く爽やかで心地よい、この感覚! グラスに注がれたほんの少しのワインに、ワイン蔵の皆様のあくなき味への探求と天の恵み、地の幸いが凝縮されている、まさに至高の一口ですわ~! ありがとう、ワイン職人の皆様! ありがとう、天と地よ、ですわ~っ!」


 ――何か、ものすごい幸せそうだぞ、デュオニシアの御令嬢。

 ――完全にワイン開けるのに必死になって殿下の話聞いてなかったわよね。

 ――それはそれとして、ワイン飲みたくなってきたな……。


 ルクレッタの反応を見ているうちに、別の意味でざわめき始める参加者達。


「コラァ――――ッ! ルクレッタァ――――ッ!」


 宙ぶらりん状態になっていたデュセルが、顔を赤くして大声で怒鳴った。

 ワインを楽しんでいたルクレッタも、ようやくそれに気づいた。


「あら、殿下。ご機嫌麗しゅう。どうしましたの、お顔が真っ赤でしてよ。もうお酒に酔われてらっしゃいますの? いけませんわ、王太子ともあろう方が!」

「何で、僕が叱られる立場になってるんだ!? 逆だろう、逆!」


「逆ですの? まだまだ僕はこれからだ! ということですの!? いけませんわ、殿下! そういった無礼講は私的な宴のときだけになさってくださいまし!」

「そうじゃない! 君と一緒にするな、この酔っ払い!」

「んふふ~、お酒を上手に嗜める淑女は誰が見ても美しいんですのよ~♪」


 朗らかに笑って、ルクレッタはワイングラスに口をつける。

 そんな彼女を見たデュセルが、額に手を当てて疲れたようにため息をついた。


「ルクレッタ、頼むから話を聞いてくれ。大事な話なんだ」

「はい、もちろんお伺いいたしますわ。どのようなお話しでございますの?」


「……婚約破棄だ」

「まぁ、それは悲しいですわね。一体どなた様が?」


「僕と君だ」

「まぁ、そうなんですのね。殿下とわたくしが婚約破棄ですの……、にゅ?」


 ――変な声出したな。

 ――そして固まりましたわね。

 ――でもグラスにワイン注ぎ直してるぞ。


 口々に囁き合う参加者達。

 そして固まるルクレッタのことを、苦々しい顔つきで見つめるデュセル。


「殿下、それは……」


 と、笑顔一辺倒だったルクレッタの顔も神妙なものに変わって、


「殿下がわたくしとの、婚約を破棄なさるということですの?」

「だからそう言ってるだろ!」


「お待ちくださいませ、何故ですの!? ……もしや、先週の飲み比べで、わたくしが殿下に勝った腹いせですの!? はたまた先々週の飲み比べでわたくしが殿下に勝った腹いせでして? 殿下、お酒に弱いことは恥ではありませんことよ!」

「僕は人並みに飲める! 君が強すぎるだけ! あと、別に腹いせじゃない!」


 ――ずっと飲み比べしてる……。

 ――そして殿下が負け続けてるわ……。

 ――あ、このワイン、本当に美味しい……。


 依然、どよめき続けるその場の聴衆達。

 ただし、囁き合うその内容は、当初から微妙に変わってきていた。


「待て、待ってくれ諸君。僕はお酒が弱いワケじゃないぞ。本当だぞ? 本当に僕は人並みには飲めるんだ。そこのところは誤解しないでほしい。頼むから!」

「殿下、よろしいんですのよ。人間、誰だって短所の一つや二つありますわ」


「君と比べたら聖峰に住まうとされる神竜王だって下戸だよッ!」

「まぁ、さすがは殿下ですわ! かの神竜王様と飲み比べをされたことがございますのね! 気っと人類初の偉業でしてよ! 何て誇らしいのでしょう!」

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! ちーがーくーてぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 大理石の床をダンダンと踏み鳴らし、今の自分の気持ちを表現するデュセル。

 だが、そのおかげで幾分気持ちも落ち着いたのか、彼は咳払いを一つ。


「改めて通達する。ルクレッタ・フォン・デュオニシア。本日をもって君との婚約は解消。デュオニシア公爵家との間で取り交わしていた婚姻も破談とする」

「な、それは、本気ですの……?」


 ここまできっぱり言われては、さすがにルクレッタも顔色を変える。

 だが、変わったのは顔色だけで、その手はグラスにワインを注ぎ直している。


「その手を止めろ! 真面目に話を聞けェ!」

「聞いてますわ、殿下! 同時にお酒も楽しみますわよ! 一石二鳥ですわ!」

「一石二鳥の意味が、違うッ!」


 ルクレッタはワイングラスを片手に、デュセルをまっすぐに見つめる。

 その顔は信じられないものを見るようであり、同時に挑むかのようでもある。


「殿下、どうしてわたくしが婚約を破棄されなければなりませんの? わたくしの家もわたくしも、この国の未来のため、今までずっと努めて参りましたのよ!?」

「それはわかっている。デュオニシア公爵家は、今もってこの国を支える柱の一つだ。王家にとっても欠かすことのできない家だと認識している。そして君もまた、僕の未来の妻として、今まで幾度も政務や外交で協力もしてくれた」


 ――そうだよなぁ、あの放蕩娘、ちゃんと政務はこなしてるんだよな。

 ――ただ、だからこそ問題がねぇ。本人に自覚はないようだけど。

 ――うお、このカナッペ、うっま! ワインによく合う!


「はい、わたくしは未来の王妃として全力で努めてきたつもりですわ!」

「……全力、で?」


 必死に訴えるルクレッタに、デュセルが小さく反応する。


「もし本気でそう言ってるなら、ルクレッタ。僕の質問に答えてほしい」

「な、何ですの。日記に綴ったポエムの公表だけはお断りいたしますわよ!」

「いらないよ!」


 ――話が進まないな……。

 ――話が進まないわね……。

 ――この鴨肉のロースト、イケる。ワインにとても合う!


 周りの反応に気づく様子もなく、デュセルはルクレッタを真っ向に見据える。


「ルクレッタ、答えてほしい」

「よろしいですわ。何なりとご質問くださいまし」


「半年前のことだ、僕と君は、国王陛下の親書を携えて、西の隣国バルミュールを訪れたね。そこで開かれた晩餐会には僕達の他にも多くの賓客が参加なされていた。……ルクレッタ、君はそこで、何をしていたか覚えているかい?」

「もちろんですわよ、殿下。ええ、はっきり覚えておりますわ」


 さも自信ありげに唇に笑みを作るルクレッタ。

 デュセルが何かを堪えるように眉間にしわを寄せて、質問を続ける。


「それじゃあ答えてみろ、ルクレッタ。君はあそこで何をしていた!」

「地酒がとっても美味しかったですわぁ~!」


「四か月前、東の隣国エストラーネに行ったときの晩餐会では何をしていた!」

「地酒がとっても美味しかったですわぁ~!」


「二か月前、南の隣国カレアドに行ったときの晩餐会で何をしていた!」

「地酒がとっても美味しかったですわぁ~!」

「地酒の記憶しかないのか、君はァ――――ッ!?」


 ――これはひどい。

 ――これはひどいわね。

 ――これはいい、この白ワイン、イケる!


 近隣国への周遊外交は、国にとって非常に重要な意味を持つ。

 その重大事に、ルクレッタはずっと地酒を楽しんでいたというのだ。

 これにはさすがに、周りが彼女を見る目も白くなる。一部除いて。


「ルクレッタ。君は僕の婚約者という以外に、国を守護する大聖霊に選ばれし、癒しの御業を持つ聖女でもある。その君がいつでも飲んだくれていては、国の内外に示しがつかないんだよ。どうしてそれがわからないんだ!」

「と、おっしゃられましても――」


 厳しく質すデュセルに、ルクレッタは困ったように眉を下げる。


「わたくしが大聖霊様より授かりましたのは酔えば酔うほど癒しの効果が上昇する『(すい)ヒール』でしてよ。わたくし、きちんと授けられた能力の内容に沿った行動をしていますわ。それが証拠に各国の要人の方々もちゃんと治癒いたしましたもの」

「うちの大聖霊は何考えてそんな能力授けてんだ……?」


「まぁ、殿下。それは大精霊様に対して失礼ですわ! 直ちに撤回なさいませ!」

「だから、何で僕が叱られてるんだよォォォォ――――ッ!」


 またしても、怒鳴ったのはデュセルの方。

 完全にルクレッタにペースを持ってかれている。すると、周りの反応も、


 ――あれ、ルクレッタ様、実は大物?

 ――しかも原因は大聖霊様の方なんじゃ?

 ――私はこのワインとの出会いを大精霊様に感謝する!


 ちょっとずつ、風向きが変わり始めていた。

 それを敏感に察し、婚約破棄を申し渡しているデュセルの方が追い詰められる。


「く、僕の言っていることの方がおかしいというのか……ッ!」

「そんなことはありません、殿下!」


 しかしそこに、デュセルを支えんとする擁護の声が飛んでくる。

 デュセルや、貴族令嬢、嫡男達がそちらを見れば、そこには一人の令嬢。


「ファルナッソス侯爵家令嬢リチエラ・フォン・ファルナッソス……」


 それは、かつてデュセルの婚約者候補だった侯爵家令嬢リチエラだった。

 パーティー会場に遅れて入ってきた彼女は、その後ろに二人の男を侍っていた。


「デュセル殿下、お待たせいたしました。証人を連れてきましたわ!」

「そうか、いたのか……」


 堂々と『証人』という言葉を口にするリチエラに、デュセルは苦い顔を見せる。

 まるで何かに耐えているようで、ルクレッタは「殿下?」と問いを投げる。


「一体、何のお話ですの……?」

「ルクレッタ。君にもう一つだけ、質問をする。正直に答えてくれ」

「は、はい……」


 にわかに空気の変質を感じ取って、ルクレッタは素直にうなずく。

 デュセルは、苦しげな表情のままで彼女に尋ねる。


「三日前、君は馬車に乗って王都の外に出ていたな。――どこに行っていた?」

「それは……」


 今まで、問われたことは何でも答えていたルクレッタが初めて言い淀む。


「十日前も。十七日前も。二十四日前もだ。君は、一週間に一度、王都の外に出ている。王太子である僕の婚約者であり、聖女でもある君は、ある意味では陛下よりも重大な要人だ。その君が、この時間だけは行方をくらましているな」

「わ、わたくしにだって、自分だけの時間は多少なりとも、必要ですわ!」


 ルクレッタの反論は、それだけを聞けばもっともであるようにも受け取れる。

 しかし、デュセルは静かにかぶりを振った。


「そうはいかない。自分だけの時間なら屋敷でだってとれるはずだ。この場合、重要なのは『君がどこにいるか』なんだよ。君は、どこに行っていたんだ?」

「…………」


 ついに、ルクレッタは答えを返さなくなる。

 さっきまで朗らかな笑みが浮かんでいた顔が、一気に険しさを増す。


「答えてはくれないのかい、ルクレッタ」

「お、お答えできかねますわ、殿下」

「そうか……」


 彼女の返す言葉に、デュセルの表情はますます重く沈んでいく。

 それを見て、ルクレッタの方が小さな驚きを見せて、


「何ですの、殿下。そのお顔は……」

「君が答えられないのは、リチエラの報告通りだからなのか、と思ってね」

「リチエラ様の……?」


 ルクレッタが、彼女の方を向く。リチエラは笑っていた。

 それは、勝者が敗者に見せる、優越に満ちた勝ち誇った笑いだった。


「ルクレッタ様、わたくし、実は前々からあなたの動向に疑問を持っておりましたの。ええ、先程殿下がおっしゃられた、週に一度の外出についてですわ」

「それは、だから……」

「皆まで言う必要はございませんわ。すでにこちらで調べがついておりますので」


 そう言って、リチエラが芝居がかった所作で扇を開き、笑う自分の口元を隠す。

 そして、次に動いたのは、彼女の左右に控えていた、二人の男。


「申し訳ありません、ルクレッタお嬢様!」

「あなたと我々のことが、知られてしまいました!」

「……え?」


 どちらも、外見だけを見るならばデュセルにも劣らない美男子だ。

 しかし、今はその表情を悲痛に歪め、ルクレッタに精一杯の謝罪を述べている。


「な、何を仰っておられるの? ……あなた方は、どこの、どなた?」


 謝られたルクレッタは、だが、一層混乱が増した様子でそう返す。

 デュセルが見るに、ルクレッタはこの男達とは今が初対面。という反応だが、


「ルクレッタ嬢。私です、アルハイム子爵家嫡男、ウィンスト・フォン・アルガイムです! この私のことをお忘れになられたのですか!?」

「僕のことも、初対面と仰られるのですか、我が愛しの君。麗しのルクレッタ様! このベルミット男爵家嫡男、クライス・フォン・ベルミットのことを!」

「な、な、何を……ッ!?」


 ――我が愛しの君。


 クライスが口にしたその言葉に、場は、一気にこれまで以上に騒然となる。

 その言葉を贈られたルクレッタが、顔色を真っ青にして震える。


「し、知りませんわ、わたくし、あなた方のことなんて、知りません!」


 余裕をなくし、声を震わせながらも首を横に振るルクレッタ。

 しかし、ザワつく周囲にその声は届いているのか。いや、届いてなどいまい。

 こうした場面で人々が耳を傾けるのは、否認よりも弾劾の声だ。


「とぼけても無駄です、ルクレッタ様。言ったでしょう、調べはついている、と」


 それはリチエラの言葉。

 場にいる皆が、ルクレッタではなく彼女の方に注目する。

 ただ一人、デュセルだけは眉間にしわを寄せている。


「リチエラ様、あなたは何が言いたいんですの?」


 力のない声で問うルクレッタに、リチエラは勝ち誇り、そして告げる。


「わたくしの家で調べた結果、ルクレッタ様、あなた、随分と派手に男漁りをなさっておられるそうですわね。何でも逢瀬の場所は、王都近くの農村だとか!」


 リチエラの大声でのその言葉は場にこれまでで最も大きな衝撃をもたらした。

 デュセル以外の全員が、ルクレッタも含めて、揃って言葉を失う。


 ――お、男漁り……?

 ――そんな、デュセル殿下という婚約者がありながら!?

 ――さすがにワインを飲んでられる空気じゃないな、これは!


 ついに、飲酒を楽しんでいた一部までもが場に合流する事態になってしまう。


「し、知りませんわ、そんなこと! 濡れ衣です!」


 ルクレッタが目を見開いて否定する。

 手のグラスに注がれた赤いワインが、今の彼女の心のように大きく揺れている。


「そうはいきませんわよ、ルクレッタ様。あなたもご存じのように、我がファルナッソス家は宮中の監査役を仰せつかっている身。あなたの怪しい動きについても、当然調査させていただきましたわ。その結果は、この有様ですけれど――」


 そしてリチエラは、再び左右のウィンストとクライスに目配せする。

 すると、いかにも観念しましたと言わんばかりに俯いていた二人が顔を上げて、


「申し訳ありません、ルクレッタ様……!」

「ぼ、僕達以外の『恋人』の存在も、知られてしまいました!」


 ウィンストは口惜しそうに、クライスはルクレッタを見つめ、それぞれ言う。

 だが、ルクレッタは激しくかぶりを振って、


「知りません。わたくしは、知りませんわ!」

「何を今さら。王太子殿下の婚約者というお立場にありながら、このような破廉恥な真似をして、しかもしらばっくれるだなんて、恥知らずもいいところ!」

「違います! わたくしは、そのような方々と関わりなどございません!」


 重ねて糾弾するリチエラに、ルクレッタはあくまでも関係を認めようとしない。


「――ルクレッタ」


 そこで、デュセルが口を開く。

 二人の令嬢が、同時に彼の方を見る。そして、ルクレッタはハッとする。


「殿下……」


 デュセルの顔が、苦しげに歪んでいた。

 痛みなどないはずなのに、その顔つきは明らかに苦痛を堪えてるときのそれ。


「頼む、教えてくれ。一週間に一度、君はどこに行っているんだ?」

「そ、それは……」


 ルクレッタは、彼の顔を見ていられず、目を逸らしてしまう。


「君がそこの二人を知らないというのなら、教えてくれ。本当はどこに行って、何をしているんだ? それを教えてくれるのなら、僕は、君を信じるから」

「な、殿下……!?」


 これには、リチエラが仰天する。しかしデュセルは頭を振って、言葉を続ける。


「僕は木石ではない。人だ。心があり、情がある。陛下の決めた婚約といえど、ルクレッタが憎いというわけじゃない。……ちょっと酒量は減らしてほしいけど」

「デュセル殿下……」


 デュセルの言葉に、ルクレッタは身を震わす。だが、それでも、


「ルクレッタ、君は一体、週に一度どこに出かけているんだ?」

「それは――、お答えできかねますわ」


 それでも、ルクレッタはそれを明かすことはできないのだった。


「お願いだから言ってくれ、ルクレッタ! これ以上、君が隠すのなら、僕は王室の人間として宮中監査役であるファルナッソス家の調査結果を受け入れなければならなくなる。そうしたら、婚約の破棄だけでは済まなくなってしまうんだぞ!」

「…………ッ!」


 デュセルの声は、まるで縋り付くようであった。

 しかし、ルクレッタはきつく目を閉じて、唇を噛みながらも、なお、言わない。


「僭越ながら、殿下! このような破廉恥な女は殿下の婚約者に相応しくありませんわ! この場で全てを明らかにしないのも当家が掴んだ『恋人』の他に、本命の『恋人』がいるからですわ! そうに違いありません! 何と汚らわしい!」


 リチエラが業を煮やしたように叫び、ルクレッタを指さす。

 公的な場での、半ば直接的な罵倒の言葉。皆の視線がルクレッタへと注がれる。


「ち、違いますわ。わたくしは、そのようなことは知りません。わたくしの、わたくしの心の中にいるのはいつだって……、ただ、おひとり……」


 ルクレッタが、泣きそうな顔になってデュセルの方を向く。

 そのまなざしに、彼も辛そうに目を瞑る。笑っているのはリチエラだけだ。


「言い訳は別室でどうぞ。宮中監査役の権限をもって拘束させていただきますわ、ルクレッタ様。精々、酒に浸かったそのお頭を反省のためにお使いなさいな」


 その言葉の直後、二人の兵士がルクレッタを捕らえるべく会場に入ってくる。


「ぃ、いや……!」


 ワイングラスを手から取り落とし、身を縮こまらせるルクレッタ。

 デュセルは一瞬その場から飛び出しかけるも、身を強張らせてグッと堪える。


 ――そのときだった。


『お待ちなさい』


 その声と共に、パーティー会場内が色鮮やかな光に包まれた。

 そして、天井近くに浮かび上がる、何枚もの翼を生やした清浄たる何者かの姿。


 それまでの騒ぎも一瞬で消し飛び、場にいる全員が翼ある何者かを見上げる。

 その者の正体を知るデュセルが、驚愕と共に叫んだ。


「ま、まさか、大聖霊様!」

『その通りです。お久しぶりですね、王太子デュセルよ』

「は、ははァッ!」


 デュセルが、驚きの中にありながらもその場に傅く。

 彼だけではない。他の嫡男や令嬢、リチエラ、ウィンストやクライスまで。

 ルクレッタ以外の全員がその場に跪き、降臨した大聖霊に最大限の礼を示す。


 建国王と契約し、国に加護を授ける大聖霊は、いわば神にも等しい存在。

 その降臨は、ルクレッタが聖女に指名されて以来となる。


『王太子デュセルよ』


 神同然である大聖霊に名を呼ばれ、デュセルは身を震わしながら面を上げる。


「はい、大聖霊様……」

『私は全てを見ていました。おまえが胸に抱く疑心、それは当然のものでしょう』

「お恥ずかしい限りです……」


 大聖霊が放つあまりの威光に気圧され、目も合わせられないデュセル。

 しかし、そんな彼に微笑んでうなずくと、大聖霊は次にルクレッタを見る。


『ルクレッタ』

「は、はい、何でしょうか、大聖霊様」


『もう、ぶっちゃけちゃいなさいな。例の計画について』

「えええええええええええええええええええェェェェェェェェェ――――ッ!?」


 いきなりフランクになった大聖霊に、ルクレッタは悲鳴じみた声をあげる。


「け、計画……?」


 いぶかしむデュセルに、近くにいたリチエラがわめき立てる。


「ク、クーデターですわ! きっとデュオニシア公爵家は王家に対し奉り、畏れ多くも反逆を企てているに違いありませんわ! 殿下、絶対にそうに違い――」

『そういうのじゃないですよ。それはこの大聖霊が保証します』

「あ、そ、そうなんですか……。すみません……」


 国王より偉い大聖霊に保証までされては、リチエラも引き下がるしかない。


「あ、あ、あ、あの、大聖霊様、あの、あの、あの……」


 一方、濡れた子猫みたいに震え上がっているルクレッタ。顔が真っ赤だ。


「あの、その、あ、あの、あの計画だけは、せ、せめてあと二週間は……」

「あと、二週間、だって……?」


 きょどりまくるルクレッタが口走った言葉を、デュセルは聞き逃さなかった。

 それは、デュセル自身の誕生日とちょうど重なる。

 今回の記念パーティーも、彼の誕生記念が開催理由の一つに掲げられていた。


『ルクレッタ~? もうそれどころじゃない状況なの、わかってますよね~? いいんですか~? このままだと本当に婚約破棄されちゃいますよ~? 別の人がデュセル君の婚約者になっちゃいますよ~? いいんですか~?』

「いやぁぁぁぁぁ! そ、それだけはいやですわぁぁぁぁぁ~~~~ッ!」

『じゃあ、ね……?』


「ううう……、でも、その、まだあれは、村の蔵に……」

『あ、それなら私が転移させてあげますね~。我が聖女への大サービスです!』

「最低! この大聖霊様、本当に最低ですわ~!」


 ルクレッタが悔しそうに声をあげる。

 その彼女の手の中に、ポンというコミカルな音と共に一本のワインが現れる。

 まだラベルも張られていない、非常に真新しいワイン瓶のようだ。


「ッはァ~~~~~~~~…………」


 ルクレッタが、とんでもなく長いため息をついた。

 それは、彼女が観念した印であった。


「もう、どうしてあと二週間……。うぅぅぅ~~~~!」


 泣き言を言いながらも彼女はその瓶を大切そうに両手で抱えて、歩き出す。

 衆人環視の中、ルクレッタはデュセルの前へ。そしてワイン瓶を差し出して、


「――殿下」


 ずっと泣きそうだったルクレッタが、一転して朗らかに笑って、告げる。


「二週間ほど早いですけれど、お誕生日、おめでとうございます。殿下」

「ルクレッタ、このワインは……?」

「殿下が覚えておられませんでしょうか――」


 そう言うと、ルクレッタは遠くの風景を見つめるように目を細める。


「十年前の収穫祭の折、殿下からいただいた葡萄の種のこと」

「あ……」


 郷愁に満ちた彼女の声に、デュセルの記憶の中で弾けるものがあった。

 浮かび上がる十年前の景色。まだ幼かった自分と彼女が参加した祭りの記憶。


 一年に一度の収穫祭は、王都と近隣の村々を上げて行われる大きな祝祭だ。

 その年、デュセルとルクレッタは、視察の名目で近くの村に赴いていた。


 初めて参加したお祭はとても楽しくて、デュセルは今でもはっきり覚えている。

 そして、そうだ。もらったのだ。

 その村の農民から、ワインに使われている葡萄の種を。


「殿下は、それをわたくしにも分けてくださいましたわね」

「まさかそれで作ったのが……?」


 彼が渡されたワインに目を落とすと、ルクレッタははにかんでうなずく。


「今年、やっと殿下にお出しできるものができましたの。まだまだ、若いですけど」


 彼女の言うことを、デュセルは驚きと共に受け止める。

 十年前、自分も葡萄を育てるぞとやる気になっていたことも覚えている。


 だけどそれは見事に失敗し、彼は葡萄の苗を枯らせてしまった。

 それで落ち込んで、数日もしないうちにさっぱりと忘れ去ってしまっていた。

 なのに、彼女は、ルクレッタは――、


「ルクレッタ、どうして君はそれを、ずっと僕に隠して……?」

「それは、その……」


 途端にしどろもどろになるルクレッタだが、大聖霊がそこでお節介を焼く。


『誕生日当日に渡して驚かせたかったんですよね~? ね~、ルクレッタ?』

「そういうことは言わないでいいんですわよ、大聖霊様!」


『デュセル。この子はね、あなたから贈られた葡萄の種をお祭りに参加した村でずっとずっと大切に育てて、自分で収穫して、村の人からワインの製造方法を一から習って、自分の手でそのワインを作り上げたんですよ? すごくないですか?』

「大聖霊様ァ~! やめてぇ! やめてくださいましぃ~~~~!」


 顔を真っ赤にして慌てるルクレッタを、デュセルは言葉を失ったまま見つめる。


「ルクレッタ、君は……、ずっと、僕のために?」

「あぅ……」


 途端にルクレッタは騒ぐのをやめ、縮こまった。

 その頭上で、大聖霊が口に手を当てて、さらにこんなことを言い始める。


『そもそもですよ、デュセル。ルクレッタがこんなにお酒を嗜むようになったのは、誰のせいだと思ってるんです? 誰が原因を作ったと思ってるんです?』

「え、そ、それは……?」


「やぁ! 大聖霊様、それだけは、それだけは言わない約束でしたでしょぉ~!」

『いやいや、ここまで来たらもう全部ぶっちゃけましょう! ね!』


 取り乱すルクレッタと大聖霊のやり取りを前にして、デュセルは記憶を探る。

 そして、思いついてしまった。

 そう、それもまた十年前の収穫祭のときだ。


「お酒を飲める女の人は、カッコいい……」

『あ、思い出しました~? そう、それです! それが理由で原因です!』

「ああああああああああああああああああああああああァ――――ッ!」


 ルクレッタの何度目かの悲鳴を聞きながら、デュセルは思い出す。

 自分とルクレッタが参加した収穫祭では、村人や客人に酒が振る舞われた。


 そこで、デュセルはやたらカッコよく酒を飲む大人の女性を見たのだ。

 そしてそこで感じた興奮を、まだ幼かったルクレッタに伝えた記憶がある。


『あなたは言いましたね、お酒を飲める女の人はカッコいい――、と。それからですよ、ルクレッタがお酒に対してこだわるようになったのは。ね、ルクレッタ?』

「ぅぅぅぅ……、もう、あますところなく全ぶっぱではございませんこと……」


 ルクレッタが完全に打ちひしがれている。主に大聖霊とかいうヤツが原因だ。

 しかし、それによって一変したものもある。周りの目だ。


 ――ルクレッタ様、何て健気なお方なの。

 ――でも大聖霊様の仕打ちはあんまりといえばあんまり過ぎる。

 ――もういいのだろうか、もう、飲んでいいのだろうか。


 ルクレッタへの同情が半分。大聖霊に対する戦慄が半分弱。あと酒飲み。

 割合としてはこんな感じで、もう誰もリチエラについては気にも留めていない。


「待ってくれ、私達は、お、脅されたんだ!」


 そこで声をあげたのは、自称ルクレッタの『恋人』のウィンストだった。


「そうだ、僕も同じだよ! 従わないと家を潰すと、そこの女に言われたんだ!」


 クライスまでもが顔を青くしてそんなことを言い出し、リチエラを指さす。


「なっ、お黙りなさい、痴れ者が!」


 突然の自称『恋人』達の告発に、リチエラが顔を赤くして怒鳴り散らす。


「わたくしが、そのようなことをするはずがないでしょうに! おまえ達が言い出したことです! わ、わたくしを巻き込まないで! わたくしは知りませんわ!」

「ウソだ。あんたはルクレッタ様が気に入らないって、言ってたじゃないか!」

「僕も聞いたぞ、それに、デュオニシア公爵家が邪魔だから、とも言ってたよ!」


 大聖霊が降臨した場で行なわれるそれは、あまりにも醜い言い合いだった。


「黙りなさい! 黙れって言ってるのよ! たかが下級貴族風情が!」

「リチエラ」

「ひ……ッ!」


 唾を飛ばして怒鳴るだけのリチエラを、デュセルが一睨みで黙らせる。


「どうやら、やってくれたみたいだね、リチエラ」

「で、殿下……」


 その両腕で軽くルクレッタを抱きしめて、彼はリチエラを睨みつける。


「上手かったよ。ルクレッタの外出の件で疑心暗鬼に囚われかけていた僕の心の隙を的確に突いてくれたね。しかも、そこの『恋人』含め、捏造であろう証拠もなかなか説得力があるものばかりだった。すっかり騙されてしまった……」

「ち、違うのです。殿下……、これは、あの……」


「違う? 一体、何が違うと?」

「あ、ぃ、いや、それは、その……、ぁの……」


 険しいまなざしを送るデュセルに、リチエラは数秒言いよどんだのち、


「そ、そんな女は殿下にはふさわしくありませんわ!」


 言うに事欠いて、彼女はルクレッタを指さし、そんな暴言を吐いたのだ。

 しかも、それに収まらない。


「わたくしですわ! わたくしこそが、殿下の相手にふさわしいのです! そんな土いじりをするような小娘が、デュセル王太子殿下の相手になれるはずが――」

『あ、そういうこと言っちゃうんですね~!』

「あ」


 リチエラの言葉が、止まる。

 彼女は、いっぱいいっぱいになりすぎて忘れていた。

 この場に、国王よりもさらに力あるものが降臨めされている、その事実を。


『ルクレッタは私が直々に選んだ聖女ちゃんですよ~? そのルクレッタを非難するってことは、私にもケチつけるってことですよね~? だったら私の加護は必要ありませんよね~? じゃ、加護は打ち切っておきますね~!』


 喜々として語り、いい笑顔でリチエラに手を振ってみせる大聖霊。

 ファルナッソス侯爵家、終了の瞬間であった。


「あ、あ、ぁぁ、あ……、あああああああああああああああああああああ!」


 リチエラが頭を抱えて絶叫するも、全てはもう遅い。

 会場に入ってきた兵士が、二人の自称『恋人』と彼女を取り押さえる。


「いや、ぃ、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああァ――――ッ!」


 最後まで悲鳴を響かせながら、リチエラは会場の外へ連れ出されていった。

 他二名と共に、のちのち厳しい沙汰が下るだろう。

 リチエラについては、そんなモノがなくとも破滅は決定づけられたが。


 大聖霊がもたらす加護なくして、こんにちの王国の繁栄はない。

 加護を失うことは、そのまま、滅びに直結するのだ。

 だからこそこの国において大聖霊は敬われ、畏れられている。


「……ルクレッタ」

「は、はい!」


 リチエラの末路に呆気に取られていたルクレッタがデュセルに呼ばれる。

 ハッとなった彼女に差し出されたのは、自分が造ったワインだった。


「これを、君に返す」

「え、殿下、それは……」


 小さく驚くルクレッタに、デュセルは眉尻を下げて、かぶりを振った。


「つまらない疑心をきっかけに、僕は君に失礼という言葉で到底すまされない仕打ちをしてしまった。しかも、君が思いを込めて作ってくれたワインを、そうと知らずにここに晒させるようなことまで……。幾度謝っても、謝り足りない」

「殿下……」


 すっかり気落ちし、肩を落としながら、デュセルは深く頭を下げる。


「僕に、君の婚約者でいる資格などない。君ならばきっと、他のいい人が見つかるだろう。僕のような愚かな男のそばにいてはいけない。君は、もっと――」

「イヤです!」


 だが、ルクレッタの悲痛な声が、デュセルの言葉を遮る。

 彼が顔を上げてみれば、そこには、瞳にいっぱいの涙を溜めたルクレッタの顔。


「どうしてです? 何故、そのようなことを言われるのですか? このワインはあなたに受け取って欲しくて作ったものですのに。あなたに、あなただけに……!」

「ルクレッタ……」


 身を震わせるルクレッタを前に、デュセルは目を見開き、そして嘆息を一つ。


「全く、僕という男は本当にダメな男だな……」


 そう苦笑して、彼は、その指でルクレッタの涙を拭った。


「ルクレッタ。やはり、僕達の婚約を解消しよう」

「殿下、そんな……!」


 ルクレッタの顔が絶望に染まりかける。

 しかし、次の瞬間には、その顔は再び驚きに彩られることとなる。


「そう、今この瞬間、陛下が決めた婚約を破棄して、僕は、僕自身の意志で改めて、君に婚約を申し込むよ。ルクレッタ・フォン・デュオニシア公爵令嬢」


 そう言って、デュセルが膝をついて、ルクレッタにワインを差し出したからだ。


「どうか花束の代わりに、このワインを受け取っていただきたい。さる伝手から手に入れた、非常に貴重な世界に一本しかない、最上級のワインなんだ」

「……知っていますわ。ええ、それこそ最高最上の一本でしてよ?」


 ルクレッタはクスリと笑って、今度は喜びの涙を浮かべる。

 泣き笑いのその顔は、デュセルには大変魅力的に映った。


「皆、グラスを手に!」


 そして彼は、無銘のワインを高く掲げ、場にいる全員へとそれを告げる。

 ルクレッタが、ワインオープナーを使って無銘のワインを開けようとする。


「んんんんんんんんんんんんん~……」

「手伝うよ、ルクレッタ」


 一人ではコルクが開かないようなので、デュセルも一緒に開けようとする。


「「そ~れっ!」」


 キュッポン。

 コルク栓がやっと抜けた。


 そして、二つのグラスに、十年分の想いが詰まったワインが注がれる。

 それは上気したルクレッタの頬の色を思わせる、瑞々しい赤色をしていた。


「……いい香りだ。若いのが、逆にいいね」

「はい、殿下」


 共にグラスを手に取って、デュセルとルクレッタが、皆の方へと視線を向ける。

 全員が、ワインが注がれたグラスを手に、二人の方を見ていた。


 ――乾杯はまだかしら?

 ――乾杯はまだかな?

 ――乾杯が待ち遠しいなぁ!


 そこには多数の令嬢や嫡男が集まって、でも今はその想いは一つになっている。

 膨れ上がる期待に応じるべく、デュセルとルクレッタが、グラスを掲げた。

 満面の笑みを浮かべる大聖霊が見ている前で――、今、


「僕達の未来に、乾杯!」

「「乾杯!」」


 よいどれ聖女は、今日も楽しくワインを嗜むのであった。

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