無邪気
この世は悪意に満ちている。
と、君は特に具体的に何がどうと語ることもなく言う。
君の周りの人間は、そんなに頭がよさそうには見えないが。
少なくとも、僕は、君に悪意を向けるつもりはない。
何故なら、君にはその程度の価値もないからだ。
余り、深く考えすぎない方が良い。
君には傷つけられる程の価値もない。
遠い異国で起こった戦争に対する憤りを。
何故、ほんの数年前にも持てなかったのか。
君はこの世の罪悪の全てを他人が保証してくれるものだと思い込んでいる。
本当に、そんなものが存在するのかは甚だ怪しいものなのに。
僕が遠い空の下で、無様に転んでしまって。
何もかもがどうでも良くなって、両手を広げて、思わず天を仰いだ時。
君は雨が降るかもしれない、と、広げた傘を僕に差し出した。
にわか雨に打たれた君は、僕をにやにやと見下ろしていた。
憮然とした僕は、君に傘を返して、起き上がった。
「どうして君はいつもそうなんだ」
君は頭を振って、髪についた水滴を払った。