第一章 始動編18
深夜が扉を出た先は、古い石柱が並ぶ山の頂上だった。
周りを見渡しても何も無い場所だった困惑していると、目の前に光の道が出来ていた。不思議に思いながらもその道を進んでいった。
進んでいった先に一人の男が立っていた。
「やあ、やっと来たね。君が火神深夜君だね。待っていたよ。着いておいで」
その男はそのまま振り返ると霧の中を歩いて行った。
そのまま着いて行くと湖の辺りに着いていた。
そしてその場で自己紹介の流れとなった。その男はタケミナカタと言う名で深夜の目的である最上位星霊だった。
「とりあえず契約する為の課題は明日から始めるから、今日はゆっくり休んでね」
しっかりと休み次の日になった。既にタケミナカタは準備を終えて深夜を待っていた。
「しっかりと休めたみたいだね。じゃあ今から契約の為の課題の場所に行こうか」
そう言って森の中に入って行った。
三十分程歩いただろうか。森の切れ目が現れ強い光が漏れていた。
森を出るとそこは全てが焼けてしまい、何も無い場所だった。
「さあ、着いたよ。ここが課題の場所だ」
「ここ、ですか」
「驚いたでしょ。ここは一ヶ月前に山火事でこの状態になってしまったんだけどなかなか元に戻す事が出来なくてね。ちょうど良かったから課題でここを元に戻す事が条件だ」
「ここ一面ですか」
「ああ、霊力をこの土地に流せば少しずつ戻って行く はずだから。あと一つ、霊力を緻密に操作しないと一瞬で霊力消失するから気を付けてね。じゃあ残り十二日で頑張ってね」
そう言ってタケミナカタは消えた。
火事になっている場所は、相当な広さの大地が広がっていた。
「とりあえず始めてみるか」
そう言って深夜は大地に霊力を流してみた。すると、すごい勢いで霊力が無くなっていった。出来るだけ失わない様に抑えようと努力した。
だが、一日目はお昼を過ぎたあたりで霊力消失して意識を失ってしまった。
意識を取り戻すと、既に夜の8時だった。意識を失ってから既に七時間が経過していた。
起きると激しい立ち眩みで座り込んでしまった。
「派手に霊力を失ったみたいだね。今日はこれ以上無理をさせることは出来ない。しっかり休んで明日に備えることだ」
タケミナカタはそう言うと優しく微笑みかけ深夜は深い眠りについた。
眠りについたのを見届けたタケミナカタは課題の場所を訪れていた。
「まさか、ここまでとは。流石にこうなるとは予想してなかったな。だがここから更に厳しくなるだろう。ここまで優秀な人物を寄越してくるとはありがたい。」
タケミナカタは夜空に浮かぶ月を見ながら想いにふけていた。
二日目、深夜は朝から課題を始めていた。昨日の感覚ではダメだと分かり、より緻密な霊力の操作で大地に流していた。すると至る所から植物が芽を出し始めた。しかし、そこからが問題だった霊力を流しても全く変化が無く霊力だけが無くなっていった。夕方まで続けたがここで限界を感じ、流すのをやめて今日は切り上げた。
「おっ、おかえり。今日は意識を失わずに帰って来れたね」
「はい。でもくたくたですよ。進んでいるとは思うんですがあまり実感が湧かなくて」
「まだ二日目だからね。これからだよ」
深夜は疲れて直ぐに眠りについた。
三日目からも朝早くから霊力を流していた。ここで、目に見える成果が出て来た。二日目では夕方では既に霊力が尽きていたが、三日目の夕方ではまだ霊力に余裕があった。そして目の前の光景にも変化があった。出ていた芽が今日で膝の高さまで成長していた。
三日目にしてようやく多くなった霊力の制御が出来る様になった。
ここからはスピードが上がった。四日目、五日目と日を追うごとに成長して行き、十日目にはほとんど元通りになっていた。
十一日目、朝から霊力を流していると途中でタケミナカタが現れた。
「驚いたな。まさかこの短期間でここまでの成長を遂げるとは。少し早いけどここで課題は終了だよ」
タケミナカタから課題の終了を告げられた。すると急に強い風が吹き、咄嗟に目を瞑ると最初の石柱が並ぶ場所に立っていた。
周りをよく見ると、タケミナカタの衣装が変わっていた。
「すまないな。課題はクリアだよ。よって、今から契約を始めようか」
すると、早速契約を始めた。
上位星霊までの契約では霊力を流すだけだったが、最上位星霊との契約では霊力をお互いの左手を重ね、一定量の交換を行うと契約が完了する。
一連の流れを終えた深夜の左手には契約の紋章が浮かび上がりやがて消えた。
「これで契約が終わったね。僕の属性は水属性、そして木属性だ」
「二属性!二つの属性を持った星霊なんて聞いた事が無いですよ」
「そうだろうね。実際、二つの属性を持った星霊なんて最上位星霊しか居ないし、数も少ないからね。知らないのも無理は無いよ。けれど、ちゃんと力はあるから、それをしっかり生かしてくれよ。契約者」
契約を終えた深夜は残った数日を使い、新たな力を体に慣らした。
そして数日後、期日になった深夜は迷宮のある島に扉を繋げ、戻った。
朝陽はとある神社に来ていた。朝が早い事もあり誰も居なく、少し不気味さを感じた。
少し境内を歩いていると目の前に人が立っていた。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
それだけ言うとそのまま奥に歩いて行った。ついて行くとそこには立派な社が建っていた。
中に入るとそこに一人の少女が座っていた。
「ようこそ、月見山朝陽さん。私はここの最上位星霊、アマテラスです」
微笑みながら近付くように手招きをした。朝陽は側に行くと身体の隅々をジロジロと調べ始めた。そして何か納得をした様に頷くと、徐に手を引き奥の祭壇へ進んだ。
「事情は彼の方から聞き及んでおります。ですので、これから課題を行なってもらいます。何度でも挑戦出来ますが、これから起こる問題を解決し解答して下さい。以上が私からの課題です。そして最後に、向こうでは私の力を使う事が出来ますので、頑張って下さいね」
ただ一言だけの内容を言われると朝陽は気が遠くなり、意識を失った。
意識を取り戻すと、そこは全てが壊され荒れ果てた東京だった。
一度状況を整理するために周囲を歩き回った。十五分程歩いた所で沢山の人々が集まる場所に辿り着いた。
そこは、荒廃した場所で唯一建物が残り人々が住む場所だった。
人々は突如として現れた朝陽に困惑を隠さなかった。そんな中、一人の女性が近づいて来た。
「すみません。ここのコロニーでは見た事がないんですが、どなたでしょうか」
顔には出なかったが、女性からの質問にドキッとしてしまった。朝陽はこの世界の住人ではない。ここが何故この様な状態になっているのかも分かっていない状況だ。下手なことは答えられない状況だった。少し考え、記憶喪失という事にして状況を聞き出す事にした。
女性は細かく話してくれた。
まず、ここは自分がいた世界から五年後の東京である事。そして、この様な惨状になっているのは星霊の力によるものだという事だった。そして、一番の衝撃はこの世界の守護者が全員消えてしまった事だ。他の方々の事はわからないが、燐と楓の実力は自分の目で確かめている。信じる事が出来なかったがそれが現実だからこの現状なのだろう。
感傷に浸っていると突如として大きなサイレンが鳴り響いた。
「そんな、なんで今の状態の時に来るのよ。とりあえずシェルターに逃げるわよ」
そう言うと、朝陽の手を取り走り出した。シェルターに着くと中には沢山の人々が集まっていた。シェルターの人々は皆、恐怖や絶望感で押しつぶされそうになっていた。
朝陽達の後にも続々と集まり、シェルターには入る事が出来ない様になってしまった。
そんな中、一人の女性がシェルターに入ろうとしていたが入れなかった。その女性を見て朝陽は自分が代わりにシェルターから出ようとした。この世界の敵を知る為にもシェルターから出る必要があったからだ。
しかし、ここで一緒に来た女性に引き止められた。
「あなた、何しようとしていたの?まさか代わりにここから出ようと考えているんじゃないでしょうね」
「そうですよ。それに私が居なければあの女性は入る事が出来た。なら私が出る事で解決するじゃないですか。それに私は強いんですよ」
その明るい言葉に圧倒されて、女性は掴んだ右手を離してしまった。
直ぐに朝陽は出て行くと女性に感謝され笑いかけ、凄まじい霊力のする方へ走った。
近付くにつれ、戦闘音が大きくなっていった。現着すると、そこでは複数の人と姿は見えなかったが黒い何かが対峙していた。
黒い何かは圧倒的で戦っていた者たちの半数が倒れていた。
朝陽は直ぐに助ける為、星霊を呼び出そうとした時にアマテラスに言われた事を思い出した。
「この時の為の力なら、助ける為に使わなくちゃ。いくよ、アマテラス」
朝陽の言葉に反応して霊装が発現した。しかし、普通の霊装とは感覚が違った。
普通の霊装は自分の霊力を使用して発現させている。だが、今回の霊装は自分の霊力では無く身の回りに自然に発生している霊力を使用したものだった。
それを知覚したのと同時に、頭の中に力の使い方が流れて来た。
「この力、まさかアマテラス本人の力なの。でも、今はそんな事考えてる暇はない。直ぐに助けないと」
朝陽は黒い何かに向かって飛んだ。
『光輪』、『光の雫』
朝陽の周りに十三本の光の剣が出現し、黒い何かを一斉に攻撃した。そして、地上では戦っていた者たちが回復していた。
黒い何かは光の剣に対し、黒い剣で全てを捌いていた。
朝陽は全員が回復したのを見届けると、意識を黒い何かに向けた。
朝陽の戦闘は激しくなり、周囲には凄まじい衝撃波が起こった。
十三本の剣と共に手元にも光の剣を出現させ更に手数を増やしていた。
光の剣と黒の剣が拮抗し、二人は一定の距離を保ち離れた。
「強いな。だが、何故この時代にアマテラスが存在している。貴様は一体何者だ」
「私は試練に挑む者。そして、今はこの場所を全力で守護しあなたを退ける者」
「私を退ける、ですか。面白い。ではやってみて下さい」
そう言うと黒い何かは朝陽と同じく十三本の黒い剣を出現させたが、直ぐに消えてしまった。
「まさか、時間切れですか。あなた、命拾いしましたね。今日はここで失礼します。次は決着をつける事ができるといいですね」
そう言って消えていった。
朝陽にとっても助かっていた。初めてアマテラスの力を使い、疲労が蓄積していた。限界だったのだ。
ゆっくり地上に降りると、周りには沢山の人々が集まっていた。
その中には朝陽のことを『救世主様』と呼ぶ人も居れば、『大星霊様』と崇める人もいた。
むず痒さは感じたが、一時的とはいえ皆んなが助かってよかった。
しかし、その場の空気に耐える事が出来ず光を放ちその場から離脱した。
アマテラスの力を解いた朝陽は、直ぐにシェルターに戻った。
シェルターから皆が出て来ていた。辺りを見渡すと、あの女性が涙を浮かべ立っていた。
「心配を掛けてすみません。なんとか無事で乗り切れました」
「とても心配しましたよ。次からは無理はしないで下さい」
そして二人は夜まで一緒に行動した。女性は朝陽を泊まる事ができる場所まで連れて行ってくれた。ここで別れ、朝陽はゆっくりする事にした。
朝陽が止まる事になった宿で、これからの事を考えた。
(この世界での私の役割って何なんだろう。私なりの答えを出さないといけないのに答えに辿り着ける未来が一向に見えない。それにあの黒い星霊との戦闘でも互角では無く、完全に私が劣勢だった。今の私に必要なのはもっと強い力だ。こんな所でゆっくりなんてしてられない。アマテラスの力をもっと使う事ができる様にならなくちゃ)
朝陽は悔しい思いを堪え、特訓をする事を決意した。
次の日、朝陽は来るであろう人に向けて手紙を一筆書き、人目につかない様にコロニーから抜け出し、アマテラスの力を更に引き出す特訓を始めた。
アマテラスの霊装を初めて纏った時に力の使い方が頭に流れ込んできたが、完全な状態の力では内容に感じていた。一度、全ての魔法を使ってみたがやはり頭の中の力と何かが違う気がした。
その後、何度も試みたが霊力のコントロールは掴んできたもののやはり何かが違った。
そのまま夜まで頑張ってみたものの一向に手応えを感じる事が出来ずに、霊力の限界が訪れた。幸い、近くに洞窟を見つけていた為そこで一晩過ごす事にした。
次の日の朝、爆発音で目覚めた。急いで洞窟を出ると爆発はコロニーの方で起きていた。
「まさか、あいつが。アマテラス、『瞬光』」
一瞬で爆発付近まで移動すると、そこには黒い星霊とそれを取り囲む様に皆、武器を構えていた。幸いと言うべきか戦闘にはなっていなかった為、黒い星霊目掛けて攻撃を仕掛けた。
「『光輪』、『極光』、『光縛』」
光縛で地面に縛り付け、極光で遠い距離から攻撃し、光輪で切り裂いた。
しかし、手応えがあまり無く辺りを見渡すと上空に浮遊していた。そして、そのまま黒い星霊が腕を振り下ろすと黒い球体が落ちて来た。
朝陽は咄嗟に光の盾を生み出した。とても密度の高い攻撃で、ギリギリの所で防ぐ事が出来た。
直ぐに黒い星霊の所まで飛び上がるとそのまま白と黒の剣が交わった。
しかし、練度が圧倒的に違った。前回とは違い、相手も最初から全力だ。約五分程切り結んだが、力負けしてしまい地面に叩きつけられた。
直ぐに復帰しようとしたが、その時、周りで見ていた人達が黒い星霊に攻撃を仕掛けていた。
「何をしてるんですか。皆さん逃げてください。あなた達ではあの星霊には勝てない」
「そんな事は分かってますよ。でも、あなただけに任せるわけにはいかないんだ。ここは私達が住む場所だ。私達が守らなければいけない」
「それで死んでは意味が」
「たとえ死んだとしても倒す事が出来たら報われるだろ」
その言葉に朝陽は、言葉を飲み込んでしまった。
何としてでもこの人達を死なせるわけにはいかない。だけどこの状況で倒す事は不可能に近い。なら、今やる事は一つ。
「わかりました協力しましょう。しかし、やる事はあの星霊に撤退してもらう事です。そのために力を貸してください」
「おっ、その気になったか」
その男は笑いながら朝陽の肩をドシドシと叩いた。
「それで、俺たちはどうしたらいい」
「まず始めに・・・・・・という感じでやってみたいと思います」
「分かった、全員に知らせる」
そこでこの人が初めて全体を指揮する隊長だということを知った。
直ぐに作戦は全員に知らされ、全体が黒い星霊から離れた。
準備が出来た事を確認すると、朝陽は作戦を開始した。
「いきます、『光の加護』。皆さん、お願いします」
朝陽は直ぐに足場を作ると、援護に回った。
全員に向けられた攻撃をいなし続けていると、徐々に黒い星霊を押し始めた。
攻撃を受けていた黒い星霊は体勢を崩していた。朝陽の狙っていた通りになっていた。
扱える霊力をすぐに貯め、最後の攻撃に備えた。隊長も貯めた霊力に気が付き、直ぐに全員へ合図を出した。
朝陽は合図を受け取ると渾身の一撃を、お見舞いした。
『極光』
その攻撃は完全に黒い星霊を捉えていた。
だが次の瞬間、強大なエネルギーの奔流を感じ取った。
『極黒』
二つの強大な魔法がぶつかり、強い衝撃波が生まれた。
お互いに距離を取った。二人はほとんどの霊力を使い切ってしまい、決着が付かなかった。
「今回はここで引くことにする。次で決着を付けよう。今度は一対一の真剣な勝負だ。三日後、同じ場所で待っている」
そう言うと黒い星霊は消えてしまった。
朝陽も浮かんでいるのがやっとであり、ゆっくりと地上に降りた。地上に着いたと同時に霊装が光の粒となって消えていった。
降りた先にはあの隊長さんがいた。
「まさか、ここまであの星霊を追い込むことが出来るとは思ってなかったよ。ありがとう」
「いえ、感謝される事ではないですよ。倒す事が出来てません」
「確かにそうかもしれんが誰もやられていない時点で感謝に値するよ。だから、素直に感謝を受け取っとけば良いんだよ」
「・・・わかりました」
「どうしたんだ、浮かない顔をして」
隊長さんは少し心配そうに朝陽の事を見ていた。
そんな隊長さんを見てことの次第を話した。
「三日後か、それはまた時間が無いな」
「はい。ですが、今のままでは倒す事が出来ないのは確実です。あと一つ、手が足りないんです」
「星霊の嬢ちゃん、提案なんだが俺と特訓しないか?」
「特訓ですか」
「ああ、もしかしたらその残り一つのヒントがあるかも知れねえぜ」
朝陽は少し考えた。メリットとデメリットを考え、結論を出した。
「お願いします。少しでも強くなる可能性があるなら手を出さない選択肢はないでしょう」
「いいねその考え。嬢ちゃんの期待に応えられるように俺も頑張るとするか」
「嬢ちゃんじゃ無くて朝陽です」
「おっと失礼、俺はグレイだ。改めてよろしくな朝陽」
「こちらこそよろしく」
二人は軽く握手を交わした。




