第四話 シーン十九【マンティコアとの決着】
第四話 シーン十九【マンティコアとの決着】
(サツキ・サイド)
レアンたちがドラゴンと死闘を繰り広げる中、サツキと仲間はマンティコアを取り囲んでいた。
「お空は任せて、サツキたちは目の前のこいつを倒そう!」
『おう!』
本当はハヅキにも助けてもらいたいが、精神力が限界みたいなので自分たちでやるしかない。
「ウチの力が必要だろう?いくぞ!」
そこに観客席に登って戦っていたシュウメイが降りてきて、サツキたちに加わる。
「うん、ありがと!シュウメイさん!ていやああっ!」
「……行くぞ!」
サツキとシュウメイがマンティコアに左右から接近し攻撃を仕掛けるが、三メートルの巨体から繰り出されるリーチの長さに加えて、サソリの尻尾が不意打ちで来るので踏み込めない。
「ぬおああっ!」
「くらいやがれ!」
「行くぜ!」
「ほらあっ!」
他の仲間たちもそれぞれに攻撃を繰り返すが、表面を傷つけるだけで決定的なダメージにならない。
「魔法さえ撃たせなければ、せやっ!……きっと勝てる!」
サツキは自分にも仲間にもいい聞かせるように攻め続けたが、仲間はひとりまたひとりと傷ついていく。
「いい加減っ……降参せんかぁっ!」
シュウメイも頑張っているが、気のせいか酒場で見たような鋭さがない。
このままでは負けるかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった時に、目の前にすっと救世主が現れる。
「苦戦しているようね」
「ママ!」
サツキの前に登場した地上最強の母キョーコは、不敵な笑みを浮かべた。
「む?お前は……ケツ胸おばさん!」
「その名前はやめて!……それで、あなたはどうして迷ってるの?」
シュウメイに突っ込んだあとキョーコが問うと、彼女は少し言葉に詰まってから答えた。
「……ウチは幼い頃、親とはぐれ死にかけた時に魔物に助けられたことがあるんだ。今だって魔物を倒さないとこっちがやられるのに、ギリギリ魔物が死なない程度に体が手加減してしまう。なぁ、ウチはどうしたらいい?」
衝撃的な過去の話だったが、キョーコは冷たいとも取れる発言をする。
「ここは戦場よ。狩るか狩られるかだけ。今さら召喚した魔物を殺さずに捕らえた所で、元いたところに帰すのは無理でしょう?」
「……たしかにそうだが、うちは自分の手で魔物を殺せというのか?」
シュウメイは自分の手を見て、次にキョーコを見ると悲しそうな顔をする。
「ここに呼ばれた魔物は運が悪かったの。だからせめて苦しまないように、一撃であなたが倒しなさい」
「一撃で……出来るのか?ウチに」
試練を与えられたシュウメイは震える手を抑えようとしたところ、キョーコが上から手を包み込む。
「あなたなら出来るわ。私がスキを作るからその間に倒して。……信じてるわ♪」
「……わかった。やる……やってみせる!」
シュウメイが決意を固めたその時、大きな動きのなかったマンティコアが動き出した。
攻撃を受けるのをものともせず、突進して目の前の人間を吹き飛ばそうとする。
「ふたりとも!敵が突っ込んでくるよ!」
サツキが警告して横に飛び退こうとすると、キョーコは単身でマンティコアの正面に立ちはだかる。
「ママ!何してるの‼」
いくら母親が強いとわかっていても、おそらく体重三〇〇キロ以上の魔物を止められる人間がいるはずはない。
サツキは心臓が止まりそうな思いで、キョーコのもとに走った。
「……竜気功、発動」
だが次の瞬間、キョーコの発した呼吸とともに全身にまとったオーラに近寄れなくなる。
『ギュアオオオオオッ‼』
マンティコアは勢いを止めず突っ込んできたが、キョーコが片手でマンティコアの体当たりを難なく受け止める。
「……はあっ‼」
続いてもう一方の手で前足を掴み、武術の達人が投げるように半回転させて背中から地面に叩きつけ、見えない力で地面へ縫い止める。
『グガアアアアアアアアッ⁉』
ひっくり返されたマンティコアはわずかに体を震わせることしかできず、理解を超えた離れ業にサツキが呆然としていると、キョーコがシュウメイに合図をした。
「さぁ今よ‼」
「わかった!はあああああっ!」
シュウメイが観客席の壁で三角飛びをして、マンティコアに向け大きくジャンプする。
「虎の王は獅子に負けない!最も強い自分を想像するのよ!」
キョーコの声が届いたのか、シュウメイの力が増していく。
やがて落下とともに体を前に一回転させてそのまま足先を揃えた蹴りを放つ。
「はああああああああああっ!秘技!『虎王功迅脚ッ‼』(こおうこうじんきゃく)」
マンティコアの腹部に足がめり込んだ直後、両足が光ってドゥンと重低音と共に衝撃が広がる。
『グギャアアアアアアアッ‼』
マンティコアの断末魔の悲鳴と共に地面が衝撃に耐えられず割れて、巨体が地面にめり込んだ。
「すごい!やった!やったよ‼」
サツキはすぐにキョーコに駆け寄って抱きつくと、次にシュウメイに近づこうとした所でキョーコに手を引かれた。
「え?」
振り向いたサツキの顔に赤い血が飛び散る。
何が起きたかわからずにキョーコを見ると、腕に死んだはずのマンティコアの尻尾が刺さっていた。
「……最後のひと差しか……結構痛いわね」
他人事のようにキョーコはサソリの尻尾を引きちぎると、傷口を他人事のように見る。
「ママ、ごめんなさい!サツキが油断したから……すぐに毒を消さないと!死んじゃう!」
泣きながら謝るサツキの頭をなでるキョーコは、普段のようなお茶目なウインクをする。
「こんなのツバつけておけば治るわよ♪」
「嘘!石化の毒だっていってたやん!」
「んもう……しょうがないなぁ、見てて。はあっ……!」
キョーコはサツキの涙を拭って、傷口を見せて呼吸を整える。
すると灰色に変化した場所がみるみる健康的な肌の色に戻って、目に見える速度で傷口がふさがり傷そのものが消失した。
「そんな……こんなことって」
「ね?この力、気持ち悪がられるからあんまり見せたくなかったのよ。でもわかったでしょ?ママは地上最強のママだって♪」
「うん……うん……よかった」
泣きじゃくるサツキの側にシュウメイがやってきて、他の人達もやってくる。
皆の無事を確認してからアルベルトたちに任せていたマンティコアを見ると、ちょうど決着が着いたようだ。
「凍らせて!可愛いフェンリル♪……さぁ頼んだよ!」
「よし!これで……終わりだ!はああああっ‼」
最後はアルマが呼んだ氷狼の精霊フェンリルが呼ぶ吹雪で体を凍結させ、そこにアルベルトの神速の剣でバラバラに割って倒す。
「やっ……た!どうにか勝てたんだ……!」
サツキが息を吐いて舞台の上を見ると立っている魔物はおらず、地下から出てきた敵はすべて倒しきったようだ。
メインステージの全員は、一旦集まり互いの無事を確認する。
「深手を負ったものはいないか?……見事だな。さて、あとはヤツだけだが」
アルベルトは上空を見あげて、天馬騎士とドラゴンの戦いを目で追う。
「あれだけ敵味方両方の動きが激しくて高いとこにいると、下手に魔法撃つのは危険だねぇ」
アルマは杖をドラゴンに向けていたが、諦めて首を横に振る。
「そんな……何か出来ることはないの?」
サツキはまたも自分の無力さを感じていたが、隣のキョーコは肩を抱き寄せる。
「空の戦いへ人間は立ち入れないわ。あとはレアンくんたちに任せて、無事を祈りましょう」
「うん……。レアン、レティ、みんなどうか無事で……」
サツキには信じる神はいなかったが、手を組んで知らない神様に祈った。
(続)




