第四話 シーン五【巻き込まれ少年レアン】
第四話 シーン五【巻き込まれ少年レアン】
レアンたちはクーア・トワルスの町での昼食の席で、ひとりの少女と荒くれ者たちの喧嘩に遭遇した。
少女は止めに入ったキョーコのテクニックに敗走、派手にやられた副団長をレアンが神の奇跡で癒やして事なきを得る。
店の主人には被害も少なかったことに感謝されて、それが縁で二階の空き部屋をふたつ貸してもらえることになった。
レアンはミヤコと相部屋で荷物を片付けている。
「泊まるところも解決できてよかったですね」
「うむ。これも人の縁だな。しばらくはギルドからの連絡待ちになるのだったか?」
レアンが寝室に綺麗に衣服を並べていると、ミヤコが聞いてくる。
「そうみたいですね。そういえばなぜ領主様に合流のご協力を頼まなかったのでしょうか?」
ヤーコフの紹介ともなればこの町の領主も動くと思っていたのだが、あえてギルドを頼る理由がわからないのだ。
「それはな、レアン殿。もしここの領主が国王側の人間だった場合、王女の存在が知られてしまう可能性があるからだろう。あくまでも秘密裏に動きたい王女にとって、その危険性は取り除きたいと考えるのが自然だ」
ミヤコが説明をしてくれたが、レアンはまだ納得できない部分があったので聞いてみる。
「それだとミヤコさん。冒険者ギルドが一番安全のように聞こえるのですが、国からの監視の目が入らないのですか?」
「……然り。だがレアン殿の心配も頷ける。冒険者ギルドというのは、世界的に見ても超法規的組織だから安全性は高い」
「ちょうほうきてき、ですか?」
「……各地の法律や規則に縛られない組織という意味だ。ギルドがなぜ強い力を持っているのかというと、凶悪な魔物退治から日常の小さな問題まで解決するからだ。ここに国が干渉するとなると、すべてを国が負わなくてはいけなくなる。加えて冒険者で頂点に位置する者は、人外の強さだ。国王ですら敵に回したくはないはずだ」
「なるほど、勉強になりました!」
ミヤコの説明をすべて理解できたわけではないが、冒険者ギルドが特別な力を持っている組織だというのはわかった。
コンコン
「しつれい!レアンいる?ちょっと洗濯物運ぶの手伝ってくれるかな?」
「はーい、わかりました!」
その時、部屋のドアをノックされて出るとサツキとハヅキが立っていた。
「今回の道は川が少なくてあまり洗濯できなかったから、みんなの分まとめて洗おうかなって。レアンの分も持ってきて?ミヤコさんもよければ洗いましょうか?」
「……いや、お気遣いに感謝する」
「了解です☆」
サツキとミヤコのやり取りを終えて、ハヅキにカゴいっぱいの洗濯物を渡される。
レアンは自分のものをさらに詰め込んで、三人で川が流れる広場に向かう。
「今日は晴れててよかったねー!サツキ、洗濯好きなんだ☆」
普段着のサツキが腕まくりして洗濯板で洗って、ハヅキが川ですすぐ。
レアンは洗うのを手伝って、終わったのをハヅキに渡していく係だ。
一時間ほど黙々と洗って、そのうち各自の下着に移る。
「……ほう。これはかなりよい下着、です」
ハヅキは洗濯に飽きたのか、女性用パンツを一枚手にとって眺める。
「ちょっとお姉ちゃん、もうすぐで終わりだからしっかり洗ってよー!って、それレティのでしょ?やっぱりおひめ……お嬢様は下着もいいものつけてるね」
「……肌触り良好」
姉妹が目の前で下着について話しはじめたので、レアンは少し顔を赤くしながら見ないように目の前の服を洗う。
「レティは……うん、上のカップはサツキと変わらないね!それに比べてママのは……」
「……でっか。あそこの小さなスイカ入りそう、です」
「うー、サツキも少し欲しいんだけど……お姉ちゃんはあるからいいよね!」
「……ほとんどぜい肉、です。ウエストのお肉マシマシだからイーくらい」
「ママはアイだっけ?サツキも半分くらい分けて欲しいよ……」
レアンはふたりの赤裸々な会話に真っ赤になりながらも、洗濯は終わりそうだったので「少し席外しますね」と広場を外れた通りに出る。
するとそこには闘技大会エントリー出張所があり、偶然にも酒場で会った小さな格闘娘が受付の男性にすごい剣幕で詰め寄っていた。
「はあ⁉もうソロ部門の受付終了ってどういうことだ⁉」
「だから、正午にはっ……予定した人数のエントリーがっ……集まってしまい……あんまり揺さぶらないでくださいっ!」
酒場で見たより怒りが伝わるくらい、少女は受付の襟元を握り前後に振る。
「ウチはここに来たら強いやつと戦えると聞いて、遠く台国から来たんだ!まだ試合は明日なのに、受付できないっておかしいだろ⁉」
「落ち着いてくださいっ!うちら下っ端が決められることじゃないんですっ!ペアならっ!ペアならまだ枠が余ってますから、そちらでお願いしますっ!」
そこまで受付がいい終えると、格闘娘が手を離して少し考える仕草をする。
そして周りを見てレアンの存在に気づくと、大股でこちらに向かってきた。
「おいお前!お前だお前!今暇か⁉」
「な、なんでしょう?」
身長の割に大きすぎる胸が当たりそうなほど近寄ってきた少女だったが、異常なまでの圧力にレアンは飲み込まれてしまう。
「そうかわかった暇なんだな!よし、一緒に出るぞ!」
「待ってください!ボクには何のことかさっぱり……」
腕を引っ張られ受付に連れていかれそうになり抵抗すると、格闘娘は立ち止まってレアンを上から下までジロジロ見る。
「お前、女みたいな顔してるけど付いてるんだろ⁉ほら、いいから覚悟を決めろ‼」
むぎゅ
「ひぃん」
思い切り股間を握られて、レアンは女の子みたいな声を上げてしまう。
「おい、変な声を出すな!ほら、行くぞ!」
「はうぅ……痛くしないでください……」
レアンは文字通り弱みを握られて抵抗できなくなり、ペア受付のエントリー用紙に名前を記入させられる。
代表者欄には『シュウメイ』という名前が書かれていた。
「お前、明日は朝一〇時にここに集合だ!わかったか!」
「はいぃ……ううっ」
勢いで明日の約束までさせられて、レアンは股下を抑えながら洗濯場に戻り姉妹に報告する。
「あの……強引にさせられちゃいました……」
「へっ?どうしたの?嫌なことあった?」
「……エッチなこと?」
サツキとハヅキはそれぞれ別の意味で心配してくれたが、当然うまく伝わっていない。
「違います……!前に酒場であった強い女の子に、闘技大会のペアにさせられました」
『ええええっ⁉』
驚いた姉妹に手を引いてもらって大会受付まで戻ったが、すでにシュウメイの姿はなく途方に暮れるのだった。
そのあと辺りを探したが結局シュウメイは見つからず、宿代わりの酒場に帰って報告した。
内容を聞いた一同はレアンの身をまず心配したが、これからどうするか意見も別れた。
「サツキは出場反対だよ!約束も一方的だし、行かなきゃいいじゃん!」
「……私は別にレアン次第だと思う、です。この町についた時点で本来の役目はほぼ終わっているから」
レアンはふたりの話を聞きながらどうするか「うーん、うーん」と決めかねる。
「俺はレアン殿に無理をしてほしくはないな。大会基準は知らぬが、まったく無傷というのは難しいだろう」
次にミヤコが当然の心配をすると、レティが言葉を継いだ。
「えっと、それに関しては私が。大会の武器は支給される材質が木のもの、もしくは魔力が半減する魔法の杖だと思います。一昨年までそうでしたし」
「えっと、詳しいね?見たことがあるの?」
妙に詳しいのでレアンが聞くとレティが頷いて続ける。
「実は王都から近いこともあって、来賓の国王と王女としてほぼ毎年来ています。そうじゃないときは用事を作って父とお忍びで。母カタリナは荒事が苦手でしたので見なかったのですが」
「エリック王とは仲がよかったのですね」
キョーコが尋ねるとレティは「ええ、とても」と穏やかに微笑む。
そこでレアンが伝えきれてなかったことを話すことにした。
「実はシュウメイさんという女の子は、タイコク?という遠いところから来たみたいです。わざわざ来たのに、ひとりの出場枠が打ち切られて困っていました。だから強く断りきれなかったのもあります」
話を聞いてみんなの表情が変わり、悩みはじめる。
「台国は俺も渡ったことはあるが、かなり遠い国だ。ここからだと東方に行くのと変わらぬ。一番近い台国行きの船着き場まで二〇〇〇キロ少々というところか」
「それは遠いね……一人旅っぽいし歩きでとなると、一日二〇キロ歩いても約一〇〇日。あの年でよく来たね」
「……ぼっち旅は大変、です」
ミヤコの説明で姉妹に同情の色が混じる。
「えっと……わたくしがレアンの代わりに出場するのはどうでしょう?」
レティはダメ元な顔で提案するが、キョーコはニコッと笑って手で丸を作る。
「別にいいわよ♪レティさん昔からずっと出たかったんでしょ?」
「え……なぜそれを知って⁉いえ、それより本当にいいのでしょうか⁉」
真に受けてレティがかなり嬉しそうにしたのを見て、姉妹が止める。
「いやいやダメでしょ!」
「……本末転倒」
しかしキョーコは悪びれもせずに自信たっぷりに笑う。
「んー、わりと本気なんだけどな♪じゃあ、そのシュウメイちゃんのペアはレアンくんに任せて、レティさんに以前渡した緊急召喚指輪の『コール・リング』をつけておくのを条件に出場するのはどう?ペアはサツキ……あなた出てみる?」
「え?サツキ?出ていいの?」
「ええ♪あなたがいた方が安全だしね。竜神将とやらも私が一週間不在の時に来なかったから、今回も大丈夫でしょ♪」
あのヴェイゼルというエルフの少年に対抗できたキョーコがいうのなら、納得せざるを得ない。
「俺はキョーコ殿の指示に従う。偽名を使って顔も隠せば、身元はわかるまい」
そこまでいわれて俄然やる気になったレティは立ち上がる。
「わたくし、出ます!ずっと憧れていた選手としての出場、この機会に挑戦します!ひどい怪我だけはしないようにしますから、安心して。サツキもペアよろしくね!」
「う、うん!よーし、レティの足手まといにならないよう、気合い入れるよー!」
レティの呼びかけにサツキはハイタッチしたあとしっかり握手を交わす。
「ボクも頑張ってみます。あの時断れずに名前を書いてしまった責任もありますが、ボクも自分の強さがどのくらいか知っておきたいです」
レアンも自分の意志を伝えると、みんな笑って歓迎してくれた。
大会は明日の午後からで早めに準備をして休もうみたいな空気が流れる中、ハヅキが何かを思い出したように「……あ」と声を上げる。
「え?何かあった?お姉ちゃん」
「……酒場の人にこの券いらないからと渡されたのを思い出した、です。今日までの有効期限の温泉貸切のタダ券」
ハヅキは一枚のチケットを取り出したので、みんなでお互いの顔を見た。
(続)




