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第三話 シーン五【自己採取と興味津々な王女】

第三話 シーン五【自己採取と興味津々な王女】





 サツキと午後の稽古を終えてから風呂と夕食を済ませ、夜になった。


 レアンは約束通り自分の部屋でドキドキしながら待っていると、コンコンとノックされる。


「はい、どうぞ」


 レアンがドアに駆け寄って開けると、薄着のキョーコが立っていた。


「お邪魔するわね♪」


 すっと足音も立てずに部屋に入って、キョーコの方が先にベッドに腰掛ける。


 その位置からこちらを見るキョーコは夜の明かりに照らされて、大人の香りを周囲に漂わせていた。


「あ、あの……失礼します。……今日も素敵ですね」


 レアンが緊張しながら横に座ると、キョーコは何も言わず肩を抱き寄せる。


 そのままレアンの頭を優しく撫でてくれると、少しだけ力が抜けていった。


「三回目なのにまだ緊張してるの?無理やり取って食わないぞ♪……あと、褒めてくれてありがと♪」


 耳に暖かい吐息がかかってゾクッとしてしまうレアンを、キョーコは豊満な胸に抱き寄せて髪の毛を優しく指ですいた。


「キョーコさん……暖かいです」


「おいで♪好きなだけ甘えていいのよ」


「はい……」


 レアンにとってキョーコは姉なのか母なのか時々わからなくなるが、抱きしめてもらえると落ち着く存在だった。


「そういえば。昼間はサツキの剣の相手もしてもらったみたいね。気づいていたけど、レアンくん強いわね」


「えっ……?そうですか?」


 レアンはずっと弱いと否定されてきたので、あらためていわれると自信がない。


「初心者抜けたあたりのサツキじゃ、ちゃんとした剣術を習った人には勝てないわね。正直助かるわ」


「いえっ……少しでもお役に立てるのでしたら」


 その後しばらくふたりの間に会話が無くなった所で、キョーコがレアンの耳元で囁く。


「……そろそろ、採取をはじめましょうか」


 そう切り出されたが、レアンは以前から思っていたことを口に出す。


「あ、あの……もしよろしければなんですけど、自分で採取にチャレンジさせてもらえませんか?」


「自分で?別に構わないけど、どうしたの?私が採取するのが嫌になった?」


 突然の提案にキョーコは驚いて、じっと目を見つめてくる。


「いえ、そんなことはありません!でも、あまりご迷惑をかけるわけにはいかないので、自分に出来ることは自分でしたいなと……」


「私は採取するのは嫌いじゃないんだけどな♪だってレアンくん可愛いんだもん♪」


「か、可愛いだなんて、恥ずかしいです!でもきっと自分で出来ますから!」


「あら、それは残念♪じゃあ、採集道具はこれね。何事も経験だから、頑張ってみてね♪」


 意外にキョーコは提案をすんなりと受け入れてくれ、受け皿と小瓶を渡して去っていく。


 ポツンと残されたレアンはこれで良かったのか考えたが、いい出したことはやり遂げなければならない。


「よし、がんばろう!」


 ひとり気合を入れるのだった。





 だが現実は甘くなかった。


 自分でチャレンジしてみたのだが、全然採取できずに途方に暮れる。


「キョーコさんにされたみたいにやってみるけど、うまくいかない……。何が違うのかな?」


 レアンが悩んでいると、部屋の外に足音が近づいてきたと思った瞬間に扉がノックされた。


「レアン、入るわよ?」


 レティが間髪入れずに入ってきて、半裸のレアンと対面する。


「うわああああっ‼」


「きゃっ!ごめんなさい!」


 ふたりとも大きな声を出したせいで、一階から心配したキョーコとサツキの声がする。


「大丈夫?」


「まさか敵⁉」


 レアンはどう返答するか迷っていると、レティが「大きな虫が出ただけですから」と納得してもらった。


 その後すぐにレティは部屋に入り、鍵を締める。


「ううっ……レティ」


 レアンは衣服で自分の体を隠して恨めしそうに見ると、王女は視線をそらして気まずそうな顔をした。 


「ごめん!男の子の部屋にノックせずに入るなんて、軽率だったね。……そうよね、周りはこれほど綺麗なお姉さんばかりだから、レアンだってその……お年頃だから仕方ないよね」


 どうやら何か勘違いしているみたいで、レティは少し顔を赤くする。


「違います……!これは材料の採取で必要なことで……錬金術で使う材料なんです!」


「ううん。隠さなくていいよ、男の子なんだから。そうだ!手伝ってあげよっか?エルの弟だから、わたくしの弟も同然。困っている時は助けてあげないと!」


 レアンは本当の理由を話したが、余計に興奮した様子でベッドの隣に座った。


 こちらを見る目はキラキラしていて、言動もよく考えると意味不明だ。


「レティ……変だよ!本当にこれは錬金術のためで……」


 困っているレアンにお構いなしに、レティは段々早口でまくしたてる。


「いいえ、わたくしはいつだって冷静です!それにわたくしも、いずれどこかの国や婿養子の殿方と政略的に結ばれるにあたって粗相がないようにと、世話係のメイドたちや乳母に知識やら何やらいろいろと教わっています。ですからレアンも遠慮などせず、体を預けてわたくしに体験学習……お手伝いさせてください!」


 暴走気味のレティに圧倒されたが、逆にレアンは冷静になって突っ込んだ。


「レティ、なにか本音が出ていない?」


「な⁉そ、そんなことはないですことよ、オホホホ」


「オホホホってレティはいわない」


 少し冷めた目になったレアンが立ち上がろうとしたところを、レティはグッと肩を掴んでくる。


「待って、レアン!」


「あっ……!」


 レティにいきなり強く抱き寄せられて、顎をくいっと持ち上げられた。


 中央大陸一清楚で美しいといわれた王女に正面から見つめられて動揺してしまい、レアンもその美貌から目が離せなくなってしまう。


「ねえ、レアン。わたくしとこういうことをするのは嫌?」


「い、嫌じゃないですけど、さすがに王女様にしてもらうわけにはいかないよ」


 レアンが拒絶すると、レティは少し寂しそうな顔をして下を向く。


 するとレアンの奴隷時代の傷を見つけてしまい、じっと見られてしまう。


「あ……。そっか、レアンもいろいろあったんだね……」


「……うん。今はこんなボクでもイマイ家のみんなに受け入れてもらっているんだ。だから、拾ってもらった恩は返さないと」


 すっかり気を落としたレティに笑顔で笑いかけると、もう一度彼女は抱きしめてくる。


「レアン……頑張ったわね」


「レティ……?」


 今度は優しく包み込むような抱擁に見上げると、レティは瞳をうるませていた。


 驚いてされるがままになっていると、レティは優しく頭を撫でてくる。


「いつでもいってね。寂しくなったら、エルのいない間はわたくしがお姉さんになってあげる」


 耳元で優しく囁かれ、レアンは故郷で離れ離れになった姉を思い出す。


 王女と同い年の一九歳の姉は今どこで何をしているのだろう。


「ありがとう。レティ……姉さま」


 温もりを感じていると、さっきまでの妙な空気はすべて吹き飛んで、穏やかな気持で満たされる。


 しばらく抱き合ってからふたりは離れて、着衣の乱れを直した。


「おやすみ、レアン。今日話そうと思ったことはまた別の日にするね。……今度は慰めるの見つからないようにね!」


「おやすみ、レティ。……本当に違いますから!」


 去り際にレティが意味深な笑顔で手を振って部屋からいなくなる。


「あ……そういえば」


 レアンは本来の目的が達成できなかったことを思い出して、キョーコを呼びにいき採取が失敗したことを謝る。


「……もう、仕方ないわね♪」


 なぜか嬉しそうなキョーコとレアンの部屋に戻ると、五分もかからずに採取できた。





(続)

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