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ワンコイン少年と母娘(おやこ)パーティー  作者: 礼央かい(れおかい)
二話 セイヒツのダンジョンと囚われの君
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第二話 シーン十三 【セイヒツのダンジョンB一F 祭壇と罠と囚われの君】

おはなし

 礼央かい(れおかい)

web版イラスト・キャラデザイン

 6624


第二話 シーン十三 【セイヒツのダンジョンB一F 祭壇と罠と囚われの君】





 レアンたちがセイヒツのダンジョンの階段を登ると、そこは神殿の内部になっていた。


 おそらく最終階だろう地下一階は魔法の明かりに煌々と照らされて、広い空間の奥に男女の彫像と大きな祭壇が祀られている。


「うわー!立派な神殿だねー!地下にこれだけの施設があるなんてびっくりしたよ!」


 サツキの驚く様子は他の人も同じみたいで、しばらく入口からの立派な建造物を眺めていた。


「これは期待出来るんじゃねえか?敵も強かったし、当たりだと思うぜ!」


 ボルデが早く見て回りたそうだったので奥に進むと、祭壇らしき所に今までで一番大きな男女の彫像と二メートルほどある魔法の鏡が四方に配置されている。


『コオオオオ……コオオオオオ……』


 鏡には四つとも違う場所が映されていて、映像と一緒に風が流れる音まで聞こえてくる。


「……一体どこの映像でしょう?」


 ハヅキが首を傾げると、レアンはどこかで見た光景を思い出そうとする。


「えっと、これはもしかして……下の階の彫像があったところでしょうか?」


 少し自信がなさげに聞くと、ハヅキは「それ!」と親指を出す。


「……うむ、正解だろう。最初の吹き抜け、問いかけがあった二箇所、最後がつい今しがた通った所のようだ」


 ミヤコがわかりやすく説明してくれたので、もう一度思い返してみる。


 そこで吹き抜けのところだけ地面が映っておらず、上の方を映しているのが気になる。


「最初の彫像の時にこんな話したけど、遠見の鏡で誰かに見張られていた可能性は本当かもね♪」


 キョーコが不意にいい出して、サツキとレアンの動きが止まる。


 そういえばミヤコも視線を感じるといっていなかったか。


「や、やだなぁ……ママ。そんなことあるわけないよね!……ないよね?」


「き、きっとずっとは見ていないと思います!ここまで来るのに何時間もかかっていますし……」


 サツキ、レアンと不安顔でお互いを見て他の人を見る。


「あんまり考えても仕方ねえよ。もし、罠にはめるとかいうのなら、とっくに入口で襲われてるだろうぜ」


 ボルデが興味無さそうにいいながら祭壇を調べ、一段高い二メートル四方のブロックに乗ると何度も聞いた低い男の声が響きだす。


『汝はついにすべての栄光を手にした。だが、平和な日々は続かず天変地異が起こり、それを収めるためには誰かひとりが犠牲にならいといけないという。汝は他の人すべてが助かるというなら、その可能性にかけるか?』


 随分と重い質問に一同で顔を見合わせる。


 それに選択肢が今回は出てこなくて、どの言葉が正解かわからない。


「んー、サツキは嫌かなー?それだと誰かが悲しむよ」


「……なかなかヘビー、です。難しい」 


 姉妹がそれぞれの感想を口にすると、他の人も黙って考えているようだ。


「俺の愛する女神グラヴィレス様は絶対そんなこといわないだろうぜ。自分もみんなも幸せになりましょうって教えだからな」


 ボルデがうんざりしたように祭壇にしゃがみ込むと、祭壇の文字を読みはじめる。


「ボルデさん、くれぐれも気をつけてね」


 キョーコが真顔になって忠告すると、ボルデは手をひらひらと横に振る。


「わかってるって。だけど今までの答えが自己犠牲だったから、今回は『自分の命をかける』って感じなのか。まぁ俺が実際そんなわけするわけな……」


 瞬間、ボルデの姿が消えた。


 声だけが祭壇に残響となり、続いて低い男の声が『この尊き犠牲に祈りを捧げよ!』と力強く響く。


『まずい!』


 キョーコとミヤコが同時に祭壇に飛び乗って床を調べたが、ボルデの影も形もなく地下への穴が開いたわけではない。


「……‼」


 レアンは叫びそうになってどうにか声を飲み込んだ。


 冷静に周りを見て、鏡から声がわずかに聞こえているのに気づく。


「あれ!あそこ!」


「ああっ‼」


「……っ‼」


「……うそ」


 姉妹はわずかに声を漏らしミヤコは冷静に状況を見極めようとし、キョーコはかすれるように声を出す。


『うわあああああっ!!!』


 吹き抜けの通路の鏡にボルデの声が聞こえてきて、遅れて上から落ちてくる黒い点が彼だと気づく。


 ボルデは罠で吹き抜けの上空に瞬間移動させられ、4階層分下に向かって落ちているのだ。


「……っ!こんな所にテレポーター!?キーワードは『自分の命をかける』なの?この!追いかけないと!早くしなさい!どうして……!」


「今から追いかけても間に合わない、キョーコ殿!平静を保たれよ!」


 取り乱すキョーコをミヤコが揺さぶった。


「あああっ……!ああああっ‼」


 レアンはガクガクと震えていたが、サツキとハヅキに抱きしめられて視界と耳を塞がれた。


「レアン……!」


「……くっ」


 強敵を倒せた気の緩みか、ベテランの慣れゆえの油断か。


『この尊き犠牲に祈りを捧げよ!』


 無情な声がもう一度繰り返される。


 ボルデは助からない、誰もがそう思っていた。


「……むっ!人影が!」


 しかし絶体絶命と思ったその時、ミヤコが声を上げて見ると吹き抜けの映像に女性が映る。


『あーあ。なにここ、何回やっても入れないじゃん!パンもらったの、ハピル!だったら絶対あげないもんね……って、何か上から落ちてきてるうううう‼』


 吹き抜けの地下四階部分に居たのは元ハーピーのハピルだった。


 いきなり上から男が落下してくる場面に遭遇しパニックになって、残り数メートルのところで魔法を放った。


『風の精霊さん!よくわからんけどあいつ吹き飛ばして!ウインドストーム!』


 瞬時に風が渦を巻いて竜巻となってボルデを吸い込む。


『へげらっ‼』


 ボルデは落下寸前で竜巻に巻き込まれると変な声を上げ、体を切り刻まれてまた上空に舞い上がる。


『あははは‼よくわからんけどタノシイ‼』


『うおあああああっ‼おううう!目が回るうううう‼』


 しばらくすると竜巻は収まって、ゆっくりとボルデは落ちてきてハピルが受け止める。


 ボルデは気絶していたが、どうにか生きているようで安心する。 


『なんかよく分からんけど、おっさんゲットしたゾ!』


 ハピルは白い歯をむき出しにして大笑いした。


「あははは……あはは……よかった、生きていてくれて」


 レアンはハピルとのやり取りを見て力が抜けてぺたんと座り込んだ。


「よかった……あれなら起きたら自分で回復出来るよね!」


「……救世主はハピル。想定外でした」


 サツキとハヅキもホッと胸をなでおろし、キョーコとミヤコも安心したのと疲れが同居したような顔をした。


「ボルデさんは自分で回復できるから、このまま先に進みましょう。戻るのは時間がかかりすぎるわ」


 キョーコは冷静さを取り戻し、一同頷いて探索を再開する。


 結局祭壇周辺にはめぼしいものもなく、奥に三つほど部屋があるのを発見する。


「何だろう?休憩部屋……だといいなあ」


 サツキが一つ目の部屋に入ると、ベッドが真ん中にポツリとある簡素な部屋だった。


 ベッド周りにはナイフや針など医療用の器具が朽ちていて、血の跡らしきものが不気味さを増している。


「……手術台といった感じかも、です。手記ノートが置いてあります。……古代語だけど読んでみる?」


 ハヅキがキョーコに尋ねると「お願い」と言われて読みはじめる。


「……えっと『失われた体を取り戻すには……竜脈が必要にて……人間が扱うのは困難……近しい八大はちだいの流れを使う。生きた人間から抽出できればあるいは……生を手放す直前に湧き上がる力こそ尊き力……尊き犠牲に力を得よ』」


「待って!もういいわハヅキちゃん。……やはり邪教の類みたいね。深く考えたくないわ」


 キョーコが腕を組んで考えはじめる。


 その間にレアンやミヤコは隣の部屋を覗いてみたが同様の部屋みたいで、すぐに合流したが目的の身体再生装置に結びつくものは見つからない。


「あとはここの部屋ですね……あれ?ここだけ鍵がかかってる?」


 レアンは最後の部屋だけ鍵がかかっていることに気づいて、サツキと代わる。


「んー、罠はないけど魔法の鍵だね!私じゃ開けられないよ」


 サツキは罠や扉の状態を見て、みんなを振り返る。


「……いや待て、人の気配がするぞ」


 ミヤコが小声で警告すると、すぐに中から声がした。


『……どなたですか?』


 若い女の声がして、レアンたちは武器を構えて警戒する。


「……通りすがりの者よ。質問を返すようで悪いのだけど、あなたこそ何者なの?どうしてこんな所に?」


 キョーコが質問を返すと、少しの間があって声が返ってくる。


『わたくしはとある国の貴族のひとりで、今は心なき悪の組織に囚われているのです。もしあなた様に御慈悲があるのでしたら、どうかわたくしをお助けくださいませんか?』


 凛としたよく通る響きにレアンはどこかで聞き覚えはあったが、最近でないせいかはっきりと思い出せない。


「少し相談する時間をもらえませんか?」


『……ええ。いきなり不躾ぶしつけなお願いですもの、仕方ありません』


 キョーコに対する向こうからの返事に、レアンたちは少し離れてみんなで顔を突き合わせる。


「……どうしようかしら?みんなの意見を聞かせて」


「んー、悪い人の可能性もあるけど、声が澄んでる人だったから大丈夫と思うよ」


「……冒険の定番だとここはお姫様、です。賛成二」


「……俺はキョーコ殿の指示に従う。もしものために、カタナはいつでも抜けるようにしておく」


 キョーコからサツキ、ハヅキ、ミヤコと来て最後にレアンに視線が集まる。


 レアンはしばらく考えてから、言いにくそうに答える。


「ボクは、その……知っている人のような気がして……。どこかで会った気がするんです、数年前に。あいまいな記憶ですみません」


 申し訳無さそうに上目遣いで見ると、みんなは首を縦に振った。


「じゃあ、たぶん大丈夫じゃないかしら?開けましょう」


 あっさりとゴーサインが出て扉の前に戻る。


「おまたせしました。開けることにするわ。鍵は外からかけられたのは覚えてる?」


『……本当ですか⁉ありがとうございます!えっと恐らくは魔法の鍵をかけられたと思います。というのも、中から開け慣れたヘアピンを使って何度試してもダメだった……いえ。こほん!悪い人の中には賢者に相当する人もいましたので、そうではないかと推測します』


 中の女性は一瞬慌てたようだが、賢者という名前に全員驚く。


「……賢者が本当なら私では絶対無理、です。世界でも一〇人いるかどうかの魔法と神の奇跡を極めた人たちですから」


 ハヅキが冷静に事実を告げると、念の為に鍵穴に針金を差し込んだサツキが「物理的にはダメ」と早々に諦める。


『そんな……魔法の力でなんというか、どかーんとか、ぼこーんとかそういうのはムリなのでしょうか?』


 焦った中の人はますます様子がおかしくなっていくので、サツキが「本当に貴族の方?」というと『そんなこと、ええ……たぶん貴族ですから信用してください』と答えが返ってきて姉妹がジト目になる。


「……扉のノブは鉄か?ならば、魔力を込めれば切り取れるかもしれん」


 そんな中、ミヤコの突然予想していなかった言葉に驚く。


「え?そんなことできるんですか?ミヤコさん」


「……ああ。ゾンビのところを覚えているか?扉を壊されない限り魔法の鍵は有効、つまりは扉自体を壊せば問題ない」


 レアンの問いにミヤコがとんでもないことを言い出したが、表情からは自信が伺えるので可能なのだろう。


「全員扉から離れていてくれ、向こうのあなたもだ。……ハヅキ殿、カタナに補助魔法をもらえるか?」


「……残り回数が少ないくのでこっちでいい?……『エナジー・ウェポン!』」


 ハヅキが宝箱で手に入れた指輪を使い、ミヤコのカタナに補助魔法をかけた。


 刀身が金色に輝き、ミヤコが一旦刀身を鞘に収める。


「全員離れたか?……行くぞ!『五十零式……射抜いぬき!』」


 シャキンッ!ガッ!


 ミヤコがカタナに手をかけたと思った瞬間、目の前が一瞬光ってまた元の態勢に戻っていた。


 ゴトン


 やや間があって扉のノブが円形にくり抜かれて地面に落ちる。


「お見事♪ヤマモト流の真髄が垣間見えた居合だったわ♪」


「……まだ先代の領域まで達していない。だがキョーコ殿のようなつわものに言われることは、素直に褒め言葉として受け取ろう」


 キョーコとミヤコが互いに笑いあい、レアンと姉妹があっけに取られる間にキョーコが扉を開けると、悪臭が漂ってきてサツキが思わず鼻をつまんだ。


 そして部屋の中には汚れたドレスを着た二十歳前後の女性がいて、こちらに向かって頭を下げる。


「助けてくださりありがとうございます。いつかこの日が来ると信じておりました。この出会いに感謝いたします」


 薄汚れているからわかりづらいが顔は彫刻のように整っていて、スラリとした体も長く切っていないだろう銀の髪も美しい。


 何より鈴を鳴らしたような凛とした声が思い出と重なり、レアンの記憶の人物と結びつける。


「もしかしてですけど、レティ?」


「……っ⁉ど、どうしてその名を?」


 レアンの考えは間違っていなかったが、向こうは覚えていないようだ。


「思い出せないですか?三年前くらいに王宮の舞踏会でお会いした……えっと、エルネスティーヌ姉さまと一緒にいた弟のレアンです」


「えっと待って、今思い出しますから……。三年前、まだ母様が健在だった頃の……ああ!エルと一緒に来てお漏らしをした弟くん!思い出した!」


 レティはとんでもないことをいい出して、レアンは周りからの視線に真っ赤になって下を向く。


 顔から火が出るほど恥ずかしいレアンを置いて、レティは懐かしそうに微笑む。


「お久しぶりです、エルの弟のレアンくん。あれから三年でお漏らしをする癖は治りましたか?」





(続)

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