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ワンコイン少年と母娘(おやこ)パーティー  作者: 礼央かい(れおかい)
二話 セイヒツのダンジョンと囚われの君
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第二話 シーン十二 【セイヒツのダンジョンB二F続 地獄の番犬】

おはなし

 礼央かい(れおかい)

web版イラスト・キャラデザイン

 6624


第二話 シーン十二 【セイヒツのダンジョンB二F続 地獄の番犬】





 地下二階の門番は二メートルを超す地獄の番犬ケルベロスだった。


 悪魔に分類される三つの頭をもつ黒犬はレアンたち一行の姿を確認すると、ゆったりと立ち上がって低くうなりはじめる。


「まず補助からお願い!レアンくんは守りを、ボルデさんは祝福を!」


 キョーコの指示にふたりは頷いて神への祈りを捧げた。


『我が偉大なる神イウリファス様、どうか我々に守りの加護をお与えください。プロテクション!』


『我が愛しき女神クラヴィレスよ、この者たち勇気を与えておくれ……ブレッシング!』


 異なる神の加護が青と桃色になって、パーティー全体を包む。


「これは……強敵でもドキドキが収まった……いつも通り戦える!」


 守りと勇気を与える力にサツキがショートソードを抜いて、さらに『強化』の秘薬を飲み干す。


「じゃあ、わたしはこれ♪おいで、私の可愛い子たち♪自動人形オートマタ


 キョーコはカバンから小型のぬいぐるみをふたつ出して放り投げると、地面についた人形が五〇センチくらいのぬいぐるみの兵士になってそれぞれに槍を前に構える。


「……敵が動き出したら援護を頼むぞ、ハヅキ殿」


「……まかせて」


 ミヤコがいつでも飛び出せるようにカタナを左右に広げ、ハヅキは口の中で呪文の最初の言葉を詠唱しはじめる。


『グルルルルル……ウー……ガアアアアアアアッ‼』


 ケルベロスは三つの頭が別々にうなりながら低く構えていたが、動かないこちらにしびれを切らして一番前に出ていたサツキに狙いを定め飛びかかってきた。


「くっ……!」


 サツキがバックラーを構えて受け止めようとした時、ハヅキの詠唱が完成した。


『原初なる力をもって、かのものを貫く槍とならん!エナジー・ランス!』


 ゴーレムを倒した強力な一撃が金色の槍となって頭のひとつに飛んでいった。


 近距離なので避けられるはずはない。


『ガウッ‼ガブウッ!』


 だが大きく口を開けたケルベロスの顎が魔法の槍を食いちぎって、わずかに口の中をえぐっただけだった。


 そのままサツキにのしかかろうとジャンプした瞬間、ミヤコの剣技が光る。


『五十八式……乱斬撃らんざんげき‼』


 右から左と連続して二回ずつ切り刻むカタナは、ケルベロスの頭三つに傷をつけて、たてがみの蛇を何本か切り落とす。


 悪魔なので血も流すことは無かったが、一瞬で四回の攻撃を受けてひるんだケルベロスは、距離をとって力を溜めるように地面に腹をつける。


「いけない!炎のブレスが来る……みんな下がって!」


 キョーコが叫んで自動人形の兵士を突進させると、見た目よりかなり速いスピードで敵に肉薄する。


 その速さに驚いたケルベロスの頭のひとつが噛みつこうとすると、人形の槍で顔を突いて応戦する。


『ウウウウ……ブワウッ‼』


 だが隣の頭が溜めていた口内の黒い炎が浴びせられると、人形が段々と焼け崩れていってしまう。


「今だっ‼当たれええっ‼」


 そこでサツキが手持ちのナイフを、炎を吐くケルベロスの口に投げ入れた。


『グワアアアアアアアアッ‼』


 見事に吸い込まれた刃先が喉奥に刺さって、のたうち回る。


「……今がチャンス!『原初なる水の力をもって貫け……!アクア・ランス!』」


 ハヅキの追い打ちが痛みを与えた頭に水圧の槍となって打ち付けて、気絶させる。


『グオアアアアアアアアッ‼』


 頭のひとつがやられてしまったケルベロスは、怒り狂って人形を吹き飛ばして突進してきた。


 前衛のサツキとミヤコが盾とカタナで受け止めようとしたが、体重差に耐えられず吹き飛ばされてしまう。


「きゃああっ‼」


「……ぐうっ!」


 サツキは外に弾かれて壁に体を打ちつけて、ミヤコは受け身を取りながらカタナを構えて膝をつく。


「サツキさん!ミヤコさん!」


 レアンは思わず叫んでしまったが二列目のレアンたちが一番危険で、ケルベロスは間髪入れずレアンとハヅキに牙をむいて襲いかかる。


『グルアアアアアッ‼オグルアアッ‼』


「……うっ!」


「……来る!」


 レアンは打撃棍メイスを構え、ハヅキは魔法杖で防御しようとした時後衛のふたりが前に出た。


「……させないわ!ていやあっ‼」


「……っしょい!『……以下略!フォース・ブラスト!』」


 キョーコは鋭い前蹴りで頭のひとつを蹴り飛ばし、ボルデの神気の波動が残り一つの頭を吹き飛ばす。


『グオアアアアッ‼……ブワッ‼』


 かなり効いたようでケルベロスは後ろに空中一回転すると、着地際にけん制の黒い炎をボルデとキョーコに浴びせて髪の焦げる嫌な匂いがした。


「あら、激しい愛情表現なのね♪ワンちゃん」


「おうわ!あちちちち‼えらく冷静だなおい!焦げてるぞ‼」


 平然と様子を見るキョーコと、すすまみれになって慌てるボルデが対照的だ。


『ウルオッ!……ウルオアアアアアッ‼』


 そしてケルベロスは草食動物を仕留めるような低空のダッシュで、もう一度突進してくる。


「ミヤコさん!」


「……サツキ殿!」


 だがこちらもやられてばかりではなかった。


 サツキとミヤコが合図をして左右の端から挟み込むようにダッシュして、残りの頭ふたつに上空から斬りかかった。


「ていやああああっ!」


「……フッ!」


 ひとつの体に複数の頭があるケルベロスはたしかに強かった。


 だが、悪魔といえども冷静でなければ判断を誤る。


『ウオアアアアアッ⁉』


 同時に頭を狙われて走るのを止めてどちらに対処しようと上を見たケルベロスは、首から下が隙だらけになった。


「てやああああああっ‼」


「とおりゃああああっ‼」


『グワアアアアアッ‼』


 そこにレアンとボルデの体重を乗せたメイスとマジックナイフの一撃が胸元を打ち付け、刺さって、かなりの深手を負わせる。


「くらえっ!サツキの一撃っ!」


「……余所見をするな!」


『グエエエオワアアアアッ‼』


 首下にダメージを受けたケルベロスは、さらに上から降ってきたサツキとミヤコの体重を乗せた一撃に顔を切り裂かれてのたうち回る。


「あなたの負けよ!諦めなさい‼ていやっ♪」


 キョーコは勢いの乗った回し蹴りで、暴れるケルベロスを横から五メートルくらい吹き飛ばす。


『キャイン‼』


 普通の犬みたいな鳴き声でケルベロスが転がり、それでもまだ起きようと足を震わせる。


 この場所の守護者にふさわしい強さを見て全員警戒態勢を取ったが、ミヤコが全員を制して前に出て体を右に捻ってカタナを並列に構えた。


「……貴殿はよくここを守ったと思うが、我々には力及ばずだったな。介錯つかまつる!」


 やがてミヤコの周囲にチリチリとした小さな光の粉が舞いはじめる。


 レアンにはまるで火の前で行う神の儀式に思えて、素直に美しいと感じてしまう。


「地獄への手土産だ!『五十九式……乱れ朧月斬ろうげつざん‼』」


 ミヤコが体を左へ一回転させ、正面に向いたところでふたつのカタナを振るうと、周辺にまとっていた光が淡い白の光弾となってケルベロスに降り注いだ。


『ガアアッ⁉グワアアアアアアアア……!』


 光は地獄の番犬を埋め尽くして月のような丸い形に包み込み、月食のように光が欠けていきケルベロスごと消し去った。


「やった!やったよ!ミヤコさん!」


 静かになったダンジョンにサツキの声が響く。


「バッチリ♪本当にみんなよくやってくれたわ!」


 キョーコも絶賛していたが、かなりの強敵を倒せたことに今だ実感がもてず警戒態勢を解けないでいた。


 やや間があって敵がもうこれ以上いないとわかると、どっと疲れたようにみんな力を抜く。


「……魔法にも打撃にも強いなんて反則、です」


「たしかにな!でも、こりゃ自慢話が出来るぜ……!また酒の席で話すネタが増えたってもんよ!」


 ハヅキが疲れたように杖にもたれかかると、ボルデは興奮気味に叫ぶ。


「あいたたた……秘薬使ってあれだけ強いって、やばいよ……。誰か回復してー」


 サツキが腕をさすりながら血が出た所を見せてきたので、レアンが慌てて治癒を行う。


「『我が偉大なる神イウリファス様、どうか私に癒やしの力をお与えください。ライト・ヒール!』これで大丈夫ですか?もしかしてボクのプロテクションが効いていなかったのでしょうか?そうだとしたらごめんなさい!」


 サツキの傷を見て血を拭っていると、ミヤコがカタナの刀身を拭きながら首を横に振った。


「……いや、無ければケルベロスの突進でサツキ殿の腕が折れていたかもしれぬ。俺はたしかにレアン殿のぬくもりを感じたぞ」


 そんな事実を知ってサツキの顔が青ざめる。


 キョーコはクスクス笑いながら、その娘の肩に手を置いた。


「もし本気でやばいなら、地上最強のママが前に出るから安心して♪ケルベロスって悪魔でもかなり上位だから、あれより強い悪魔はめったに会わないでしょ♪」


「ほんとーに?約束してよね!ねっ?ねっ?」


 キョーコの体にサツキがすがりついて、レアンはまだまだ上がいることに冷や汗が出る。


 ミヤコは目を閉じて「底知れぬお方だ……」と小さくつぶやいた。





 傷を回復して一度小休憩した一行は扉の手前にある彫像の前にやってきた。


 他の階のように声が聞こえてきて質問に答えるのかと思ったが、立つだけで扉が開いて上の階への階段が現れる。


「拍子抜けだね!……次の階で本当に最後だよね?」


 サツキが振り返り確認すると、隣のミヤコが答える。


「……予想ではそのはずだ。だが、油断はするな。もう魔法や奇跡も残り少ない」


「う、うん!」


 レアンもさっきのヒールで神の奇跡は使えなくなった。


 ハヅキは残り二回、ボルデは残り一〇回程度とかなり厳しい状況だ。


「……サツキ。きっと大丈夫、です」


 ハヅキが親指を出して不敵な笑みを見せ、サツキは笑って前を向く。


「それじゃあ、行ってみましょうか!」


『おー!』


 みんなの声が一斉にハモると、一歩階段へと足を踏み出した。





(続)

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