第二話 シーン十一 【セイヒツのダンジョンB二F ゾンビと魔法生物】
おはなし
礼央かい(れおかい)
web版イラスト・キャラデザイン
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第二話 シーン十一 【セイヒツのダンジョンB二F ゾンビと魔法生物】
レアンたちは宝箱の守護者ストーンゴーレムを倒し、上の階に向かった。
目算ではここが地下二階のフロアで、次の階で最後だろうと予想できるのは気持ち的にも楽だ。
だが、最初から息をつかせない戦いが待っているとは予想できない。
「う……くっさー。なにこれ、何の匂いなん?」
最初の部屋に入った時に腐ったような異臭がしてサツキは鼻をつまむ。
「わかんねえか?ヤツ共がいる匂いだぜ……?」
ボルデが楽しそうに短剣を構えると、唸り声と何かを引きずる音が前方から聞こえる。
「……死者のたぐい、アンデッドだ。俺もあまり好みのタイプではない」
ミヤコがふたつのカタナを抜くと、全員が武器を構える。
「あれは……ゾンビさん」
レアンは前から迫る腐敗した人間、ゾンビの群れをはじめて見て背中がゾワゾワして鳥肌が立つ。
『ウオアアアアアアア……ウオウオッ……ウーウー……ウボオオオ』
動きはゆっくりで、ビチャビチャと体液をまき散らしながら迫ってくる。
「ひいいいい!きもい!あれ生理的にムリ!お、お姉ちゃんタスケテ!」
サツキが思わずハヅキの後ろに回り込んで抱きつくと、姉は困った顔をしてレアンを前に押しやる。
「……レアン、代わり。アンデッド撲殺、です。ゴー、レアン」
「えええええっ!ボクが殴る係なんですか?」
ゆっくり迫る腐乱した死体にレアンも涙目になるが、頑張って打撃棍を構えた。
「そんなに殴るのが嫌だったら、聖なる光使ってもいいのよ?」
「え?あ……そうでした!いざという時は使うのでしたね!」
キョーコのアドバイスでレアンは手を前方に構える。
「みなさん、目を閉じてください!……『我が神よ、清浄なる光で我が前を照らし給え……ホーリー・ライト‼』」
ピカアアアアッ!
『グオアアアアアアアアアア‼グアアアアッ‼』
レアンが神の奇跡を発動させると聖なる青い光が部屋を埋めつくし、ゾンビの絶叫が響く。
やがて光が収まるとそこには敵の影も形も残っていなかった。
「ほう、やるじゃねえか!見習いとは思えねえ力だ」
ボルデが感心していると、左右からまたも別のうめき声が聞こえてくる。
「……キリがない。抜けて次の扉を目指すのがよいかもしれん」
ミヤコが走り出し部屋の隅からゾンビが一体寄ってくるのを斬り捨てると、奥の扉に向かう。
「行くわよ!みんな!」
キョーコの号令で全員が後を追うと、左右の通路からゾンビが各五体ずつ押し寄せて捕まえようとする。
「ひいいいいいっ!きもい!くさい!うじゃうじゃ来てるっ!」
サツキが涙目で叫びながら走っていると、しんがりを受けもったボルデが苦笑した。
「随分嫌われとるな、お前たち……ほら、浄化してしまうぞ!『我が女神様、聖なる光で照らしておくれ!ホーリーライト‼』」
ピカアアアアアアアッ!
『ウボアアアアアアアッ!ブアッ!オアアアアアアッ‼』
レアンの光と違い、薄桃の光が辺りを染めてゾンビを灰に帰す。
「……開けるぞ」
ドンッ!
ミヤコが次の扉を蹴り開けて、全員入ったのを確認して扉を閉じた。
少しすると元いた部屋の奥からゾンビの声が聞こえはじめ、どうしようかと考えているとハヅキが提案する。
「……鍵穴があるから多分魔法の鍵をかければ、扉が壊されない限り開かない、です。残り魔法回数五回……どうする?」
「この先に敵が出て後ろから挟み撃ちにされたらかなり危険ね。お願い、ハヅキちゃん」
良案にキョーコが頼むと、ハヅキが杖を手に唱える。
『原初なる力をもって魔力の鍵で封じよ!マジック・ロック!』
カチャッ
扉を施錠する音がして、魔法でロックされる。
『ウガアアアッ!ウガアアアアアッ!』
やがて来たゾンビが扉を乱暴に殴ったが、扉は頑丈そうでびくともしない。
これで追ってこれないだろうと安心すると、サツキがみんなに頭を下げる。
「はーっ……怖かった……うう、ごめんなさい!前衛なのに逃げて」
サツキが涙を拭うのを見て、みんなは仕方ないと慰める。
「……では続きを参ろうか」
ミヤコが前に立ち、サツキが隣に来るのを待って続く道へと進んだ。
「静かですね……」
曲がり角はあったがとくに罠もなく、敵も出ない通路が続いて思わずレアンがこぼす。
「ここは神殿が元なのか、迷宮が元なのかわからねえ。ただ罠の状態からいえるのは、わりと最近に手が加えられてるみたいだぜ」
ボルデが自分の感想を述べると、キョーコは唇に指を当てて小さく頷く。
「その意見に私も賛成だわ。古くなった神殿にゾンビが住み着くのはよくある話だけど、宝箱の守護者や、古典的な罠が完全な状態で同居するのも珍しいわ。たぶんこの階にもきっと何かあるはず……」
その言葉に全員が武器をもち直して警戒態勢に入ると、やがて道幅が広くなり左右に有翼の悪魔の彫像が並ぶ通路に出る。
「これって、もしかしてもしかすると……」
「……教会にある雨どい……だといいけど。おそらくはガーゴイル、です」
姉妹が小声でやり取りしながら進んでいき、左右五体ずつの彫像が並ぶ真ん中に来た段階で石化が解けて動きはじめる。
『ゴギイイイイイイ……ゴギイイイイイィ!』
「……くるぞ!レアン殿とハヅキ殿は真ん中へ。円陣で守るぞ!」
ミヤコがよく通る声と共にレアンをさり気なく背中に引き寄せた。
レアンはこんな時なのに心拍数が上がり、ドキドキしながら武器を構える。
「来るよ!みんな、上からの攻撃に気をつけて!」
サツキが襲い来るガーゴイルの爪を盾で防ぎながら、ハヅキをカバーする。
『ゴギャアアアアアアアッ‼』
悪魔の羽で舞い上がった魔法生物は、武器の持たないキョーコに向かってきた。
斜め下に急降下しながら鋭い蹴りを放つ。
「あら、私でよかったの?しーらないっ♪」
だがキョーコは蹴りを無造作に掴むと、その勢いを利用してガーゴイルをぶん回して天井に放り投げる。
『ゴゲ……?ゴゲゲゲ……』
ドガァッと激しい音とともに頭までめり込んで、それだけで動かなくなる。
「うは!これはまた恐ろしい力だわ。たまらんお尻と思ってさわらんでよかったぜ……」
ボルデが思わず本音を漏らすと「いかんいかん」と魔法のナイフでガーゴイルを切り刻む。
「……格下だが数は多い。このまま奥に移動できるか?」
『はい!』
ミヤコの指示に従い守ることを重視して移動すると、やがて道が細くなる。
隊列の最後にミヤコが残り、狭い通路へ渋滞気味にガーゴイルが押し寄せてくる。
ミヤコは前方の一体を体当たりで弾き飛ばし、巻き込まれて団子状態になったガーゴイルたちに剣技を放った。
『五十六式……誉十字‼』
カタナ二本を十字の形で下に構え、二刀同時に振り上げるとカタナの衝撃波がふたつ通路を駆け抜けて、ガーゴイルたちを十字に切り裂いて全滅させる。
「ミヤコさん、すごいです!」
狭い通路に逃げ場がないことを利用した技にレアンがはしゃいでいると、ミヤコは華やかに微笑む。
「なるほど、イゴゾウ・ヤマモトさんの流派だったのね♪さすが流麗なカタナさばき、あっぱれだわ♪」
「……まさか中央大陸で先代の名を聞けるとは……光栄の極みだ」
キョーコとミヤコがお互い目で笑いあって、他の人は分からずキョトンとする。
「さて、そろそろ終わりかな……?どれどれ?」
そこからサツキを先頭に数十メートル進むと扉があり、罠を調べてから開けるとおなじみの男女の彫像があった。
だがひとつ違うのは、次の階へ続くだろう扉の前に全身黒の大きな魔物が寝そっべていた。
体長二メートル超で三つの犬の首をもち、たてがみは蛇、しっぽは竜の頭に似ている。
「……うそ、本当にいたの?」
ハヅキが珍しく驚いているのを見た気がする。
「おいおい、本物のケルベロスだぜ……はじめてみた」
「……同じくだ」
ボルデとミヤコのふたりも驚いていて、レアンはことの重大さに気づく。
「さて、頑張って勝ちにいきましょうか♪サツキちゃん、レアンくん」
キョーコは固まってしまったふたりの肩に手をおいて、余裕の笑みで笑いかける。
ふたりはハッとして大きく頷いて、自分を奮い立たせるために大きく返事をする。
「う、うん!」
「……はい!」
そしてこの階最後の試練が幕を開けた。
(続)
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