第二話 シーン十 【セイヒツのダンジョンB三F続 ゴーレムとレアンの一撃】
おはなし
礼央かい(れおかい)
web版イラスト・キャラデザイン
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第二話 シーン十 【セイヒツのダンジョンB三F続 ゴーレムと武器相性】
セイヒツのダンジョンの地下三階で宝箱前の床の罠をサツキが踏んでしまい、魔法兵器のストーンゴーレムが現れた。
かなりの強敵に六人はそれぞれの武器を構えて、レアンも打撃棍を握りしめる。
ブウンッ
いきなり攻撃してきたのはゴーレムからだった。
速くないが重量感のある腕を横に振るうと、サツキとミヤコが後ろに飛び退いたあと風圧が遅れてやってくる。
「やば……!これ絶対受けきれない!」
「……オーガでも厳しい。避けることに専念しろ」
前衛のサツキとミヤコが腕の長さから間合いを測る。
『我が愛しき女神よ、この者たちを守っておくれ……プロテクション!』
ボルデが混沌の女神に加護を祈ると、六人の体に薄桃色の光がまとわりつく。
レアンも奇跡を願うか迷っていると、ハヅキがそでを引く。
「……レアンはまだ温存。三回しかないから待って」
「は、はい……!」
レアンはメイスをもって前衛のふたりの動きを注視する。
「くっ!ダメっ!全然剣が通らない……こっちの手がしびれてきてる!」
「……石に刃物で考えなしに攻撃すれば負けるのが道理。狙うなら関節のスキマだ」
「す、スキマ?あんな細い間に……うくっ!ムリっ!」
サツキとミヤコが何度も斬りつけているが、表面の石の皮膚に弾かれてゴーレム本体にダメージが通っていない。
レアンが歯がゆく見守っていると、キョーコが声をかけてくる。
「ストーンゴーレムに一番相性のいい武器もっているのはレアンくんだわ。前に出て戦える?サポートはするから」
「え?ええっ⁉そんな、ボクできるかな……うう、やってみます!」
ゴーレムはサツキとミヤコの動きに翻弄されて、気づくとこちらに背中を向けていた。
「えいやああっ‼」
バキッ!
レアンはメイスを握りしめて一気に間合いを詰めて後ろから殴りつけると、鈍い音と一緒に足の一部が欠けて攻撃が通る。
「レアン?だ、大丈夫??……あうっ!」
まさかレアンが前線に立つと思っていなかったのかサツキが心配したその隙を、ゴーレムの腕が彼女をかすめて態勢を崩して膝をつく。
「……よそ見するな!大怪我をするぞ!フッ!」
ミヤコが駆けつけざま流麗に二刀を振るうとゴーレムの手の指が二本落ちて、怒ったゴーレムがデタラメに両腕を振り回す。
「レアン……効いてるから補助入れる!『原初なる力をもってかの者の武器に力を与えよ!エナジー・ウェポン!』」
ハヅキが魔力を注ぐと、レアンのメイスが金色に光りだした。
レアンはいまだ背中を向けたままのゴーレムの足に、メイスで思い切り殴りつける。
「てあああああっ‼」
ドガアッ!
最初に殴った時と違って体感で倍の威力になった打撃棍が、右足の太ももの一部を大きく削り取った。
あまりの威力にレアンのほうが驚いて自分の手を見たが、ゴーレムは最も強敵と判断したレアンに振り返ると腕を振ってくる。
「こっちよ、レアンくん」
すかさずキョーコはレアンを後ろから抱きしめると、後ろに飛び退きながら黒の球体をゴーレムの足元に放つ。
「みんな、離れて!」
キョーコがいったのと同時に全員が飛び退くと、部屋に小さな爆発が起こる。
ドゴオオオオン‼
ゴーレムの破損した足の付近で破裂した錬金術のアイテムは、残りを削り取って足が一本無くなった。
バランスを崩してズシーンとゴーレムが倒れた所に、ハヅキとボルデの技が炸裂する。
『原初なる力をもって、かのものを貫く槍とならん!エナジー・ランス!』
『我が愛しき女神よ、この者にお仕置きしておくれ!フォース・ブラスト!』
金色の槍と神気の塊が放たれて、ストーンゴーレムの頭を打ち砕いた。
ゴゴ……ゴゴゴ……ゴ……ゴ……
すると最後に少しだけもがくように動いて、ゴーレムは活動を止めた。
「や、やった?やりました!ゴーレムを倒せましたよ!」
レアンが思わずガッツポーズをすると、全員が集まってきてレアンを取り囲んだ。
「やるじゃん!レアン。ますます好きになっちゃう☆」
「……大成果、です。えらいえらい」
姉妹が左右から頭をなでで、次にキョーコとボルデが褒めてくれる。
「レアンくんがゴーレムの足にダメージ与えてくれて、爆弾投げるチャンスができたわ♪ありがとね」
「法の僧侶は俺らと違って刃物禁止なのがいい方向にでたな。サマになっていたぜ」
「そ、そうですか?ありがとうございます。メイスが大活躍でしたね」
みんなの褒め殺しに照れまくっていると、最後にミヤコが聞いてくる。
「……レアン殿の動きは理にかなっている。武術などは習っていたのか?」
「え、えっと……父に剣術を幼少期からずっと。ですが、いつも全然駄目だといわれてばかりでしたけど……あはは」
「……理想の高い父上だったのだろうな。いい戦いだった」
レアンが答えると、ミヤコは驚いたように目を細めて微笑んだ。
「よし、開けるよ!何が入ってるかなー?激レアアイテム入ってるー?」
そして宝箱の安全を確認してサツキがフタを開けると、そこには小箱の中に紙切れと指輪が一つ入っていた。
「……何?……ん……『守護者を倒せし勇気あるものにささやかな贈り物を』だそうです。これは誰でも数回使える『エナジー・ウェポン』の指輪みたい、です」
ハヅキが手にとって鑑定すると、ボルデがぼやく。
「こいつを倒す前に欲しかったなぁ……。ま、もらえるもんはもらっちまうか」
「敵の強さに割あわなくない?何か損した気分かも……」
サツキががっくりしていると、キョーコが肩を叩く。
「ダンジョンでお宝ザックザクってそんなに甘くないからね♪それより、次の部屋で最後みたいよ?」
一同は奥の道を見ると、やや開けた部屋に例の男女の彫像が立っていた。
奥まで進んで扉の前に立つと、同じように低い男の声が響く。
『汝、数多の中からひとりしか認められない過酷な試練を乗り越え、残りふたりになった。だが最後の相手はよきライバルと認め合う親友だった。このとき汝は親友と争ったか、辞退して譲ったか。答えよ』
質問に真っ先に答えようとしたハヅキの口をキョーコが手で塞ぐ。
「……っ!もが……あらそ……もがが」
「レアンくん、あなたの考えでいいから答えてくれる?」
急に任されてレアンは「ふえっ!」と変な声を出して周りを見る。
するとみんな首を縦に振って自分の答えに委ねてくれるみたいで、慎重に考える。
「この質問はボクだったら、こう答えます『辞退して譲った』と」
答えが部屋に響いて、ややあってから声が響く。
『汝は自分より友を優先できる素晴らしい人物である。進むがよい』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ
同じように石の扉が横に開いて上に登る階段が現れる。
正解を引いて不満顔のハヅキ以外は、レアンに笑いかける。
「では、次の階に行きましょう!みなさん」
レアンは大事な決断をする時本当にこう出来るのだろうか、と自分にもう一度問いかけながら階段を登っていった。
(続)
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