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ワンコイン少年と母娘(おやこ)パーティー  作者: 礼央かい(れおかい)
二話 セイヒツのダンジョンと囚われの君
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第二話 シーン九 【セイヒツのダンジョンB三F 罠祭り】

おはなし

 礼央かい(れおかい)

web版イラスト・キャラデザイン

 6624


第二話 シーン九 【セイヒツのダンジョンB三F 罠祭り】





 レアンたちは最深部から一階層上に進んだ。


 熟練者三人からのアドバイスからすると、おそらくはここが地下三階にあたるらしい。


「ここまで本格的なダンジョン入ったことがないから、なんかワクワクするね!」


 はしゃぐサツキを先頭に隣にミヤコの前衛で進んでいったが、幅と高さが五メートルの石畳の通路は代わり映えなく真っすぐ続いている。


「ボクはドキドキです……。狭くてどこも同じ道に見えて、今の場所が分からなくなります」


 真ん中の隊列のレアンが不安そうにしていると、となりのハヅキが背中をポンポン叩く。


「道が分からなくなりそうなら、地図に書いていくことね。一応イグスを出る前に渡しておいたでしょう?マッピング用紙」


「おお、それだ!えっと、これだね……スタート地点はとりあえず真ん中でいいのかな?じゃあ、進みながら書いていこう☆」


 キョーコのアドバイスに沿ってサツキがダンジョンの地図を書こうとしたが、肝心の罠感知などの盗賊スキルがおろそかになりそうなのでハヅキが代わる。


「えーっと、ずーっとまっすぐだね……あっているんだよね?」


「……案ずるな、道はひとつしか無い」


「ありがと、ミヤコさん」


 前衛のふたりがゆっくり進んでいくと、ようやく十字路の分岐になった。


 分岐ブロックのみ通路が広く直径八メートルの丸い床パターンになっていて、サツキは念のため棒で突いて確かめるがとくに何も起きない。


「何もなし……っと。じゃあ、最初は真っすぐ進むね!」


 そのままサツキ任せで進んでいくと、分岐に全員入った時いきなりフロア全体がピカッと光った。


「うわっ!まぶしっ!」


「……不覚、です」


「な、何も見えません!」


 まるでホーリー・ライトのような強烈な光とわずかな振動があって、一〇秒ほどして光は収まった。


 しかしとくに周りの景色は変わっておらず、十字路の先まで道がつながっている。


「……びっくりした!何の罠だったんだろう?」


「……テレポーター?私は変化がないと思う、です」


「わかりません……目がチカチカします……」


 若手冒険者三人が理解できないでいると、ボルデがニヤニヤして先を促す。


「まあ、何もなかったんだし先に進んでみればいいんじゃねえか?」


「むー、そうだね!先進もっか!」


 サツキは気を取り直してやや先行すると、行き止まりに当たる。


 仕方なく引き返して全員で分岐に入ると、再び激しくフロアが光り振動が伝わってくる。


「またっ!今度はちゃんと目閉じてるからっ!」


「……ぴかぴかっ、フフフ……真っ白な世界」


「うう、目開けられないです……」


 一〇秒ほどして収まったが、通路は何の変化もなかった。


「これは一回だけじゃないんだね。んー、どうしよっか?このまま真っすぐだとこの階のスタートに戻るから、左に曲がる?」


「んー、いいんじゃない?サツキちゃんの好きにしていいわよ♪」


 サツキの問いかけにキョーコの笑顔が返ってきたので、サツキは「なにか変だなー」とつぶやきながら左に曲がる。


 だが結局また行き止まりになってサツキが「ここもダメじゃん!」と肩を落とした。


 行き止まりが怪しいのかと壁を調べもしたが、変わったものは見つからない。


「……マッピングだと、スタートから進んで十字路、その後正面と右が行き止まり、です」


「ということは、戻って左側……えっと、ここは右側だからまっすぐ進む?わからなくなってきました……」


 レアンも一緒に地図を見るが、どうしても違和感がつきまとうのだ。


 サツキとハヅキも一緒に地図とにらめっこするが、答えが出せずにいる。


「……そうだな。あの仕掛けの意味を考えてみるのはどうだろうか?」


 そこでミヤコがひとつ提案をしてきた。


「仕掛けの意味……ですか?」


「そうだ。ただ部屋が光るだけではさほど害もなく、驚かせるのにしても時間も長い。少し距離を置いて考えてみてはどうか?」


「距離、ですか……」


 レアンは少しの間考え、ひとつ思いついたことがあってみんなに提案する。


「えっと、今度はパーティーをふたつに分けて離れて通過してみませんか?きっとヒントになると思うんです」


「えっと、それって……よし分かったよ!」


「……了解、です」


 サツキとハヅキの了承をもらって、母娘三人と男性陣で別れて視界ギリギリまで離れる。


「じゃあ、いっくよー!」


 母娘のパーティーが分岐フロアに入ると、三人の姿が見えなくなるくらい部屋が光ってやがて収まる。


 だが、それだけですぐに変化があってレアンは声を上げる。


「あ!三人の向きが変わっています!」


「え⁉あ、ほんとだ!レアンたち後ろにいたはずなのに、いつの間にかサツキたちの右側に!」


「……面妖な」


 一度状況を確認するため合流して、話し合うことにする。


「レアン、仕組み分かった?」


「えっと、多分ですけど。あのフロアは床が右に九〇度、時計でいう〇時から三時方向に回転しているんだと思います」


「……なるほど。少し床が振動していたのは回転していた、と」


「あー!だから光で眩しくしてごまかしていたのか!光ってなかったらすぐ分かっちゃうもんね!さっすがレアンえらいね!」


「え、いやっ、そんな……。ミヤコさんのヒントがあったからですよ。あう……あんまり撫でないでください」


「……えらいえらい」


 姉妹に両方から撫でられてレアンは照れて、熟練メンバーからは拍手が起きてますます小さくなる。


「じゃあ、罠がわかったところで先に進みましょうか♪」


 キョーコが仕切り直して、一同最初の罠を突破して先に進んだ。





 たどり着いた先は広い部屋になっていて扉がひとつポツンとあり、サツキは前に立って顎に手を当てた。


「怪しい……見るからに罠ですよー☆って感じだよね」


 遠目に見て丸いノブの扉はごくシンプルな作りで、どちらかというと家のドアに近い。


「……チェックよろしく、です」


「オッケー☆」


 ハヅキにいわれてノブに手を伸ばそうとしたサツキを、ミヤコが手で静止する。


「サツキ殿、よく音を聞いてみるがよい」


「え?はーい……なんだろ?ブーンって聞こえる」


 レアンも一緒に耳を澄ましたが、虫の羽音みたいな音が聞こえる。


「……これまた、随分レアで古典的な罠じゃねえか。ほら、これ投げてみな」


「ん?はーい……えいっ!」


 ボルデに木の実を渡されてサツキがノブに向かって投げた。


 パチッ!


 するとノブに当たった瞬間木の実が弾けて地面に転がり、バラバラになる。


 レアンは思わず「ひゃっ!」と声が出てしまう。


「はうあっ⁉ど、どげんなっとーと⁉」


「……サツキ、これ投げてみて」


 今度はハヅキが動物のなめし皮を渡してサツキが恐る恐る投げると、ノブに引っかかってくるくる回転して巻き込むように止まった。


「えっ?もしかしてノブ本体が罠やったん?」


「……そうだ。サツキ殿があのままノブを握っていたら、指が数本もっていかれただろう」


「ひええええええっっ⁉」


 サツキが思わず尻餅をつくほど、シンプルで恐ろしい罠だ。


「ノブ自体が刃物になっていて、回転することでノブの形状に見えたんですね」


「道理で音がブーンってしてたんだ。よかったー!助け舟出してもらって」


 レアンが偽造ノブを見ると、サツキも近くで見て納得する。


「この罠はかなり殺意が高い代物だな。設置したやつは性格がネジ曲がってるにちげえねえ」


 ボルデも少し困惑しているようだ。


「……母さんも止める気だった?」


「もちろん♪誰も止めなかったらサツキちゃん後ろに引きずり倒してたわ♪」


 ハヅキの問いにキョーコはニコッと手を何度も握ってみせる。


「ふーっ……引き締めていこう!……って、ノブ無いのにどうやって開けるの?」


 やり直そうとしたサツキが壊れたドアを前に困っていると、ミヤコが「こうだ」と扉を蹴飛ばして開ける。


「うひゃー!ミヤコさん大胆!」


「……こういう罠はドアは飾りに過ぎぬ。さあ、先陣は再び任せたぞ」


「了解☆」


 そしてサツキが先頭で一本道を進むと、また扉が現れて今度は失敗しないようにと念入りに調べて開ける。


「その調子よ♪時間かけていくのは大事なことだから、しっかりお願いね」


 キョーコの応援を受けて、何度も曲がりくねった道を進み扉を四つほど通過していくと、やがて頑丈な鉄扉に突き当たった。


 サツキが罠を調べてノブ、鍵穴、ドアそのものをチェックしたあとに盗賊ツールの針金をふたつカチャカチャしていたが、一〇分経っても開く気配がない。


「うわ……これどうなってるの?鍵の構造は理解できたけど、パーツが動かないから錆びついてしまってるのかな?」


「……ん?もしかすると魔法の鍵かも、です。代わって?」


 後ろから作業を見ていたハヅキが入れ替わると、杖を掲げて呪文を唱えた。


『原初なる力をもって封じられた鍵を解き放て!アンロック!』


 カチャッ


 鍵が開く音がしてノブを引くと扉が開いた。


「さすがです!ハヅキさん」


「……どやぁ、です」


 レアンが褒めるとハヅキの表情は変わらず、少しだけ胸をはる。


「魔法使いさんよ、属性もちの攻撃魔法使えるのはあんただけだから、しっかり残しておいてくれよ」


「……わかりました。一応あと七回は使えそう、です」


 ボルデが心配してハヅキに確認すると、聞いたミヤコが感心する。


「……ほう。その若さでその回数はすごいな」


「でしょう!お姉ちゃん、すごく優秀なんだよ……えっへん!」


 なぜかサツキが自慢げに胸をそらしているのを見て、レアンが笑いをこらえる。


「さて次の部屋は……あら、お宝ね♪もしかしてイイものかしら♪」


 キョーコが扉を開け、部屋の中にある大きな宝箱を見て声のトーンが上がる。


「おー!いいじゃんさっそく中身を……いやいや、これもいかにもって感じだから、慎重に開けないと……」


 サツキが無造作に宝箱に近づいた時、床の一部がガコッとへこんだ。


「あっ……!」


 ウイイイイイン!ウイイイイイン!


 その瞬間大音量の警告音が部屋中に響いて、左側の壁がゆっくり開いて石の二メートル強の人形兵器が現れる。


「……ストーンゴーレムだ。かなりの強敵だ、気をつけろ」


 ミヤコがカタナを二本抜くと、他の五人もそれぞれの武器を構えた。





(続)

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