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ワンコイン少年と母娘(おやこ)パーティー  作者: 礼央かい(れおかい)
二話 セイヒツのダンジョンと囚われの君
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第二話 シーン八 【セイヒツのダンジョンB四F 謎掛け】

おはなし

 礼央かい(れおかい)

web版イラスト・キャラデザイン

 6624


第二話 シーン八 【セイヒツのダンジョンB四F 謎掛け】





 本来なら夕方から朝までのキャンプで疲れを取るはずだった一行は、山賊の襲撃で夜の強行軍を強いられることになった。


 距離にして目的地まであと二〇キロといったところだが、山道で夜となると全然進めずに休憩を多めに挟む。


 結局八時間ほどかけて歩いてダンジョンらしき入り口が見つかった頃には、空が明るくなりはじめた。


「ふわーっ!さすがに疲れた!お姉ちゃんの魔法の明かりが無いと、正直ムリだったよ!」


「……先頭おつかれ、です。いいこいいこ」


「えへへー☆」


 サツキがハヅキに抱き寄せられて頭を撫でられる光景が癒やしになる。


「……レアン殿、よく頑張ったな」


 ミヤコは優しい目で見つめてきたので、照れてしまい視線をわずかに外す。


「十一歳だから平気です!……っていうのは嘘です。足がパンパンですね」


「どれ?見せてみろ」


 レアンが石に座って足をブラブラさせると、ミヤコがしゃがんでふくらはぎを揉みはじめる。


「あひゃっ!いえ、ミヤコさんっ……!そんな、いいですよ、マッサージしてもらわなくても……んんっ……あっ!気もちいい、かも……んっ……んんっ……」


 念入りに足をほぐすミヤコの上手さに、レアンは知らずうちに上体をそらして顔を赤くしてしまう。


 漏れそうな声を押し殺すために人差し指を唇に咥えて、されるがままになる。


「ふーん……そんなにいいんだ。ふーん……!」


 するとこちらをサツキがジト目でじーっと見つめてくるので、レアンは慌ててミヤコから離れた。


「もう大丈夫です!ありがとうございました!ミヤコさん、とてもお上手ですね!」


「……いや、まだ終わってはおらぬが。だが、褒めてもらえると悪い気はしないな」


 ミヤコは少し残念がっていたが、気を取り直したようで柔らかく微笑む。


「サツキちゃん、ハヅキちゃん。ここで休憩するからこっち手伝って~」


 そんなやり取りの中、キョーコは姉妹を呼んでキャンプの設置をはじめる。


 念の為に当番制にして別れて、今からもう一度仮眠を取るらしい。


「じゃあ、サツキは木を拾ってくるねー!」


「……私は着火剤になるものを……痛っ!」


 だが直後、ハヅキが横腹の痛みを訴えたのでレアンは慌てて駆け寄る。


 ボルデもこちらを気にかけたが、キョーコが手で大丈夫と合図した。


「レアンくんだけがいいかな。今から私とサツキでカーテン作って見えないようにするから、レアンくんが傷口に秘薬を塗ってあげて?他の男性は見ちゃ駄目よ?」


「え?ボクがですか?」


「ええ、その後の治癒はしなくていいからね。温存しておきたいし。それでいいよね?ハヅキちゃん」


「……はい。それが正解、です」


「わ、わかりました!」


 年頃の女の子に気を使ったのだろう。

 レアンはキャンプ用シートで垂れ幕を作った中でハヅキと向かい合って、服をたくし上げた彼女の脇腹をお酒で消毒して塗るタイプの秘薬を手に取る。


「行きますよ……んしょ、こんな感じかな?」


 ぬるっとした白い秘薬を指に出して薄く塗り拡げた。


 ハヅキの呪いといわれた傷口を見るのは慣れてきたが、自分にもある刃物傷のような醜さに心が痛む。


「……んっ。レアン、もうちょっと厚めに塗って?」


「はい……こうですか?ハヅキさん」


「……そう。……んっ。……んあっ……んんっ。……気持ち、いい」


 何度も重ねて傷口が見えなくなるくらいまで白く塗ると、ハヅキがなぜか上ずった声を上げ顔も赤くする。


「い、痛かったですか?」


 レアンは触り方が悪かったのかと焦って思わずハヅキの顔を見ると、にまーっと口を横に広げて一言。


「……さっきのエッチな声出してるレアンのマネしてた、です。フフ……」


「なっ……!そ、そんな声出していないです!」


 レアンは思わず顔を真っ赤にして下を向いた。


 どうしていいか分からなくて顔を両手で覆ってイヤイヤと首を振ると、ハヅキが「……可愛い、かも」とつぶやいたので耳まで赤くなる。


「あ……」


 そんな中ハヅキは突然変な声を出したので見ると、プニッとしたお腹をムニュムニュと触る。


「どしたの?お姉ちゃん」


「……また太ったかも、です」


 お腹の肉がたるんとしていて、ふっくら加減に磨きがかかっていた。


「うーん、ハヅキちゃん食べすぎかもね♪でもよく食べる子は好きよ♪仕方ないわ♪」


「……仕方ない、です」


「いやいや、もうちょっと我慢しようよ……お姉ちゃん」


「あはは……」


 キョーコとハヅキのやり取りにサツキが呆れて、レアンが苦笑しながら傷口に布を当てて包帯を念入りに巻いた。





 仮眠を交代制で四時間ずつとって、体調もかなり回復できた。


 食事をとって出発しようとなった時、ハヅキが上空を見て「あ……何か居る」と声を上げる。


「え?どうしたのお姉ちゃん。食事を狙ってる鳥でもいたの?」


「いや、ちょっと違うかも……『原初なる力をもって遠くを見渡す目を与えん!ビジョン!』」


 ハヅキが魔法を詠唱して上空をじっと見ると、驚いたように彼女なりに目を見開く。


「あれはハピル、です。空を飛んでます」


「え?」


 飛べることをレアンは知っていたが、なんでこんな所にハピルがいるのだろう。


「知りあいか?遠すぎてほとんど見えないが、少し前から上空をぐるぐる回っているな」


「……ミヤコさん、信じられませんが知り合いです。でもいつの間に飛べるように……?おーい……手を振っている。こちらが見えているみたい、です」


 ハピルのことを知らないミヤコとボルデからすると、わけがわからない話だろう。


 それに空を飛んでいるのもレアンとキョーコしか知らない。


「んー……あの子のことはいいから、行くわよみんな。中についてこなければいいんだけど」


 キョーコは考えるのをやめて仕切り直して、いよいよ『セイヒツのダンジョン』の入り口に立った。


 白い石を使った人工的な建造物で、入り口は高さ五メートル幅五メートルくらいあり、入り口から下に向かって螺旋状の階段が続いている。


 サツキを先頭に魔法の明かりのついた階段をぐるぐる回りながら降りていくと、いつまでも続くような錯覚を覚えて目が回りそうになった。


「着いたよ。とくに何かいるわけでもないね」


 サツキが声を上げてようやく下までたどり着いたとホッとする。


 六人全員がダンジョンの下層に立つと、キョーコが前に出て状況を確認する。


「基本縦横五メートルの道が続いている感じかしら?ところでサツキちゃん。このダンジョン何階層くらいあると思う?」


「ええっ?うーん、まだダンジョン入ったばかりだし、全然わかんないよー。何かヒントあったっけ?」


 サツキがみんなに助けを求めると、ボルデが顎に手をやった。


「んー……恐らくだが四階層だと思うぜ。こういう構造のダンジョンは本当にまれだからな」


「……そうだな、俺も同意見だ。あくまで階層の高さが同じで、このフロアから上に登る構造だったらの話だが」


 ミヤコとボルデが顔を見合わせて頷き、それを見たサツキが「すごーい!」と感嘆する。


「たぶん、階段の高さと降りた段数を数えて計算したんじゃないでしょうか?ボクは全然覚えていません……」


 レアンはふたりの話でなんとなくいわんとすることは分かったが、実際にそこまで数える余裕はなかった。


「レアンくんさすがね♪階段の高さに段数で計算するとおよそ二五メートル下に降りた。床の厚みもあるから五メートルのフロアが続くなら、四階層くらいじゃないかしら?一応ペース配分の参考までになんだけどね♪」


 キョーコが説明すると、ハヅキが「さすがベテラン。しびれる……」とブツブツつぶやく。


「下に潜っていくタイプのダンジョンはもちろんわからないぜ?少しは勉強になったかい?嬢ちゃん」


「うん!おじちゃんすごいんだね!」


「……おじさんすごい、です」


「……いや、まだ俺はまだ四〇前だからおじさんでは……ふたりからすればおじさんか……」


 ボルデが姉妹におじさんいわれてがっくりしていると、キョーコが「そんなことないですよ」とフォローする。





 パーティーの隊列は前衛サツキとミヤコ、中衛ハヅキとレアン、後衛キョーコとボルデで進んでいった。


 魔法の明かりに薄暗く照らされた石畳のフロアはまっすぐ続いたが、途中で一〇メートル四方の部屋にたどり着いて、その幅で上に吹き抜けがある場所に到着する。


 念のため敵や罠がないかサツキが確認して、吹き抜けの先を見上げたが暗くて何も見えない。


「きっとここって何かの神殿だよね?お宝を隠してるっていうよりは、何かをまつっているような……」


 カコン


 サツキが上を見ながら歩いていると、何かを蹴っ飛ばして「わっ!」と驚く。


「どうかしました?」


「あ、あ、骨……ガイコツ……たぶん人間の……!」


 ハヅキの魔法の明かりで地面をよく見ると、人間の白骨死体があちこちに散乱していることに気づく。


「気をつけて!敵か罠の危険性があるわ!」


 キョーコの忠告に全員が息を呑んで構えたが、とくに危険なものは無かった。


「……怪しいのはあれだな。視線を感じる」


 ミヤコが指差した奥の方に男女の彫像二体があり、王様や神様のような豪華な衣装をモチーフにしているが、時代的には古いものに見える。


「ふむ、お決まりはゴーレムとして侵入者を排除ってやつだよな」


 ある程度警戒しながらボルデは近づくが、動く気配はなかった。


 だがミヤコは警戒を怠らず、カタナの柄から手を離さない。


共用指輪コモンリングがあるから調べてみましょうか?『センス・マジック!』ふむふむ……。石像自体に魔力判定はないからゴーレムではないけど、目と耳に魔力判定があるわね。ってことは、恐らく遠くから見られてる、聞かれてるんじゃないかな?こんにちは♪お元気?」


 キョーコは魔法の指輪で調べてから、呑気に石像に向かって手を振る。


「なるほど!ゴーレムだったら体全体に魔力があるんだね!じゃあ、目と耳……あ、なんか魔法石っぽいのが埋まってるみたい。でも壊してまでは取らないよね?」


「……壊すのは面倒、です。パス」


 サツキが石像を調べていたが、ハヅキがバッサリと切り捨てる。


「上の方が空洞ですけど、そこは行かなくても大丈夫ですか?」


 レアンが聞くとキョーコが首を横に振る。


「このパーティーで飛べるのはハヅキだけだし、上下のゆっくりした移動しか出来ないわ。それに、もし上空で敵に襲われたら大変だからやめておきましょうか」


 魔法も使い勝手のよし悪しがあるんだなとレアンは納得して、広間を抜けて奥へと進む。


 やがて道幅も高さも元に戻り、行き止まりにたどり着くとまたも男女の彫像とその奥に石の扉があった。


「まただ。今度はなんだろうな……って!」


 サツキが先頭で警戒していると、低い男の声がどこからともなく響く。


『汝はお金を一銭ももっていなかった。ある日パン屋を外から眺めていると、ご慈悲で一つだけ恵んでもらう。礼をいって歩き出そうとすると、道端には今にも空腹で死にそうな物乞いが手にもったパンをじっと見ていた。汝はそのパンを差し出すか、それとも自分のものにしてしまうのか。答えよ』


 突然の謎掛けにみんなが顔を見合わせる。


「えっと、ボクだったらパンをあげても……」


「……全部私が食べる。あげない、です」


 レアンがいいかけた時に、ハヅキが遮るように即答する。


『……出直してくるがよい』


 すると男の声がして、それっきり静かになりサツキが慌てる。


「ちょっとお姉ちゃん!これ定番のどっちかが正解ってやつやけん!勝手に答えたら駄目ばい!」


「……だって、私のはあげないから」


 怒られてハヅキが口をとがらせて抗議したのに、周りは笑ってしまう。


「……もう一度チャンスをいただこうか」


 ミヤコは来た道を戻ったので全員習うと、少し時間を置いて石像前まで進んだ。


『汝はお金を一銭ももっていなかった。ある日……』


 ミヤコの予想通りか一言一句同じ問いかけをしてきて、またハヅキがなにかいおうとしてサツキが口をふさぐ。


「……ふが……私のも……の」


「お姉ちゃん!遊ばないで!」


 サツキが代わりに答えてと目でレアンに合図してきたので、もう一つの正解を選んだ。


「パンを差し出します!」


 すると男の声が響く。


『汝は自分より他の者をいたわられる素晴らしき人物である。進むがよい』


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 同時に石の扉が横に開いて上に登る階段が現れる。


「わははは!これはまたド定番の通過儀礼だな!」


 ボルデが笑いながら先頭で階段を登りはじめ、不満そうなハヅキを引っ張りながらレアンたち一行はひとつ上の階へと進んでいった。





(続)

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