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ワンコイン少年と母娘(おやこ)パーティー  作者: 礼央かい(れおかい)
二話 セイヒツのダンジョンと囚われの君
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第二話 シーン六 【イグス発ダンジョン行きの旅】

おはなし

 礼央かい(れおかい)

web版イラスト・キャラデザイン

 6624


第二話 シーン六 【イグス発ダンジョン行きの旅】





 一同が待ち合わせ場所の北門広場に集まったのは、ちょうど正午だった。


 ハピルは例のごとく宿屋でお金をもたせて留守番をさせている。


「俺はミヤコ、東方のサムライだ。よろしく頼む」


「お前さんはギルドの端で呑んでいた人か。俺はボルデだ、混沌の女神クラヴィレス様仕えの僧侶をしているぜ。よろしくな!」


 ミヤコとボルデが初対面なので挨拶を交わした。


 ふたりとも頭を下げてその流れで握手をボルデが求めようとして「お、サムライさんはだめだったな、悪い悪い」と手を引っ込める。


 丁度いい機会なのでレアンたちも挨拶する。


「ボクはレアン、法の神イウリファス様に仕える僧侶です。見習いですが、よろしくお願いします」


「サツキだよ!軽戦士と盗賊兼任してまーす!よろしくお願いします☆」


「……ハヅキです。魔法使いと薬師をしてます。よろしく、です」


「キョーコです♪薬師と錬金術師その他雑用、あとパーティーのリーダーです。よろしくお

願いするわ♪今回は『セイヒツのダンジョン』の探索および『身体再生装置』の発見が目的です」


 挨拶を終えるとボルデがレアンたちに頭を下げてきた。


「この前は笑って悪かったな。報酬分の仕事はキッチリさせてもらうからな。坊主も信じるものこそ違うが仲良くしてくれや」


 いきなり謝られて少々面食らったが、みんなで顔を見合わせて笑う。


「いえ、こちらこそよろしくお願いします」


「もういいよ!これからよろしく☆」


「……気にしてない、です。よろしく」


「ええ、働きで返してくださいね♪」


 レアン、サツキ、ハヅキ、キョーコの順にいってから出発することになった。


「今更だけどいつの間にか馬車処分してたんだね。あると楽ができたんだけどな」


 地方都市イグスを出て徒歩で西に一時間ほど行ったところで、サツキがそんなことをいいだした。


「到着してすぐ売ったわよ。馬車はね、行商人とか移動してお金を稼ぐ人とかでない限り維持が大変だし、宿に置かせてもらうのも迷惑だからね」


 キョーコの説明に納得していると、ボルデが聞いてくる。


「そういえばセイヒツのダンジョンまで片道三日前後と聞いたが、どのあたりにあるんだ?」


「……イグスから西北西に七〇キロ位らしい、です。通り道の南北に山脈があって、その間を抜けた先みたいです」


「ほう、そうか。一日三〇キロくらいといけたしても……早くても三日目の昼だな」


 ボルデが自分で計算していると、キョーコも「そのくらいね」と頷く。


「みなさんすごいですね。ボクはほとんど旅をしたことがなかったから、日数が全然わからないんですよ」


 レアンが感動していると、ミヤコが側にやってきて教えてくれる。


「……こればかりは旅を続けないとわからないものだ。実際は悪天候や道の荒れ具合により簡単に変わる」


「そうなんですね。勉強になります」


 レアンが長身のミヤコを見上げると、彼は口の端をわずかに緩めた。


 その仕草にドキッとしてしまい、思わず下を向いてしまう。


「んー?ふーん……」


 サツキがレアンの様子が変なことに気づいて一瞬ジト目になったが、前を向いて先頭を歩いていった。





 その日は天候もよく、順調に進んで夕方には野営の準備をはじめた。


 イグスの街で用意していた干し肉やパンなどの保存食や、近くで取れた果物を食事にする。


 アンナとケインとの旅はどちらかというとピクニックの延長みたいで楽しかったが、今回はあまりはしゃいではいない。


「……んまー。はぐはぐ……もぐもぐ」


 その中でもハヅキはよく食べて、しかも端から見ても美味しそうだ。


 自分の分をあっという間に食べ終わり、レアンの食べようとした干し肉に目が留まる。


「んぐ……んぐ……。あ、もしよかったら食べます?ハヅキさん」


「……いいの?レアン。……レアン男前、です。じゅる」


 レアンから三枚あるうちの一枚を差し出そうとすると、サツキが間に割って入った。


「だーめ!お姉ちゃんは自分の分食べたでしょ?それにレアンは成長期なんだから、お姉ちゃんに上げる余裕は無いよ!」


「……そんな、ひどい。レアンは私の味方。レアン様、お恵みを……」


 ハヅキは感情の起伏が少ない中での悲しそうな顔をして、レアンを見つめてくる。


 どうするか困っていると、ボルデがやってきて袋を差し出した。


「食いな。街出る前に焼き菓子が売っていてな。つい美人のお姉さんに釣られて買っちまったんだ。俺はあまり甘いもの食わねえから全部やるぜ」


 ハヅキが受け取り開けるとたくさんのクッキーが入っていて、レアンと姉妹が思わず『おー』と声を揃える。


「ありがとうございます、ボルデさん」


「ありがとー☆あとで食べるね」


「……後でといわず、今……ごふぃそうさまれす」


 ハヅキがさっそく口に頬張りながら礼をいうと、ボルデは笑いながら手を上げて去っていった。


 レアンも一枚手にとってクッキーを口に入れる。


「おいしい、山羊の乳の味だ……甘い」


 その夜はワイワイいいながらみんなでクッキーを食べて、楽しく過ごした。





 二日目も道中は順調だった。


 だが途中から山間部となり足場も悪く、若干上り道になって進行速度は落ちる。


「実際に来ると結構なアップダウンですね」


「うん!馬車じゃ厳しかったかぁ」


 レアンとサツキが話していると、ハヅキが息を切らしながら魔法の杖を支えに必死についてくる。


「……ふう……ふう。……山道は嫌い、です」


 苦しそうなハヅキを見かねたのか、キョーコが立ち止まり太陽の位置を確認する。


「時間は一五時といったところかしら。少し早いけど、今日はこの辺りを野営地にしましょうか。少し地形が悪いけど、我慢してね」


「……了解した」


「ああ、かまわんよ。どうせ今日頑張っても目的地にはつかんからな」


 ミヤコとボルデが了承して、キャンプをすることになった。


 元気のあるサツキが水と食料を探しに行って、レアンとキョーコが野営地ポイントを一緒に探した。


「レアンくんはタフよね。結構歩いているのに、体力が余ってるみたいだし」


「えっと、昔から父に鍛えられましたから。だけど、お前は全然だめだっていつもいわれていました」


 なるべく平地で草木の少ない場所を探して場所を決めると、今度は薪拾いや着火に役に立つ枯れた木の実を拾って回る。


「何を目指していたのか知らないけど、私はレアンくんもいいものたくさんもっていると思うな♪」


「あんまり褒めないでください。なんだか恥ずかしいです……」


 レアンが顔を赤くしていると、キョーコはクスクス笑いながら頭をポンポン叩いてきた。


「明日はいよいよダンジョンだし、今日はもしよければ私の手料理を振る舞おうと思うのだけど、どうかしら?」


 一時間ほどおのおの準備して焚き火を点けると、キョーコの手作り料理を提案された。


「……ありがたくいただく」


「では、ごちそうになるかな」


「よかった♪じゃあ、少し待っててね♪」


 ミヤコとボルデが了承したのですぐキョーコが調理に移る。


「あれ?いつの間に材料買ってたの?」


「一食分だけね♪とりあえずサツキも切るの手伝ってもらえる?」


「オッケー☆」


 メニューは鶏の干し肉と野菜と山羊の乳を使ったシチューだった。


 冒険者は基本的に移動中の食事は質素で、タイミングがよければ現場で取れたものを食べる。


 今回はきちんと調味料まで用意しているので、みんなは本格的な味に感動する。


「……うまい。生肉で無くてもここまで美味しくなるのだな」


 ミヤコも行儀よく口に含んで味を噛み締める。


「うふふ♪それはね、野菜と一緒に煮た肉の汁を飛ばしてから乾燥させたダシを使っているからなのよ。私にとっては異国の料理だけど、お気に召してくれると嬉しいわ♪」


 キョーコが嬉しそうに説明すると、ボルデは何度も美味しさに唸る。


「これは本格的な味だな。東方の人間がこれだけ美味しいシチューを作れるのに驚いたぜ。美人だしいつでも結婚できるのに違いねえ……って、もうすでに子どもがいたわ。なあ……少しくらい酒呑んでもいいか?」


「……昨日も呑んでいたと思うけど?でも明日に残らないようにお願いね」


 キョーコが指摘するとボルデは「わはははは!」と笑ってさっそく小さな酒瓶を取り出した。


「子どもいちです!」


「……子どもに、です」


 姉妹が名乗りを上げるとボルデが余計に笑い出す。


「あははは……すごく美味しいです。キョーコさんの料理の味、好きだな」


 レアンが味わってシチューを食べていると、不意にキョーコが意味深な笑みを浮かべる。


「……じゃあ、レアンくん。私と結婚する?今はフリーよ♪」


 爆弾発言にレアンとサツキがむせて、いつかのデジャヴが襲った。





(続)

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