第二話 シーン四 【男湯の香りとハピルの夜襲】
おはなし
礼央かい(れおかい)
web版イラスト・キャラデザイン
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第二話 シーン四 【男湯の香りとハピルの夜襲】
レアンたちは冒険者ギルドを後にして、宿屋に向かった。
気がつくともう夕方になっていたが、冒険者ギルドでハピル用の食事も頼んで持ち帰り、夕食を済ませてからお風呂に入る。
「よかったねー!無事パーティーメンバー見つかって!」
「……これで楽ができそう、です。どうしたのレアン?一緒に入らないの?」
「いえっ!ここ女の人専用のお風呂ですので……!ボクはあちらに入ってきます!」
「あっ!レアン……」
「……また後で」
レアンは姉妹と宿屋近くの銭湯に来ていたが、男女別に分けられた入口で恥ずかしくなって男用の風呂に入った。
周りは知らない人たちばかりで、レアンは体の醜い刃物傷を隠しながら体を洗って湯船に浸かる。
「……ふう」
お湯の中では傷跡もあまり見えないからと体を投げ出して疲れを取っていると、レアンの近くに人影が近づいてきた。
「……ん。先ほどぶりだな」
「ふえ?……ひゃっ!ごめんなさい!」
声をかけられて上を向くと、長身の美人が来て思わず自分の体を抱いて隠す。
ここは男風呂と何度も確認したはずだが、間違ったのだろうか。
「……謝られるようなことはしておらぬぞ。忘れたか、ミヤコだ」
「あ……ミヤコさん」
レアンはミヤコが女性に見えてしまったため、少し混乱していたみたいだ。
「……なるほど、異性に間違えられることはよくあることだ。心配するな、男だ」
「あう!すみません……。今度から気をつけます」
何度も謝ってレアンは下を向きながら、チラチラとミヤコを見てしまう。
筋肉もきっちり付いていて線が細く、戦士なのに肌が綺麗で美しい。
何より近くにいると何故かドキドキしてしまって、視線が合わせられない。
「……レアン殿は何か目的があって冒険しているのか?」
不意にミヤコに聞かれてハッと我に返った。
「いえ、その……今は居候の身で、お世話になったご恩を返せたらなと思っています」
レアンの言葉にミヤコは「そうか」とだけいって、後は無言の時間が続く。
あまり長く風呂に入る習慣が無かったレアンは熱さで頭がボーッとしてきたが、先に出るのはためらわれた。
傷を見せたくないのもあったし、なぜか裸を見せるのは抵抗があったからだ。
そうしているとミヤコのほうが先に湯船から出て、一瞬立ち止まってこちらを見ずに一言だけいい残す。
「……仲間のうちは俺が貴殿を守ろう。では」
「はひっ!」
レアンはなぜか胸がキュンとして変な声を出してしまったが、すでにミヤコの姿はなかった。
レアンは風呂上がりにキョーコに呼び止められて、錬金術の材料採取の協力をお願いされる。
これで二回目なのにドキドキして、何度も立ち上がったり部屋の鏡でくせっ毛の金髪を直したりする。
ドンドン ドンドン
随分荒っぽいノックだがキョーコに違いないと思ってドアを開けると、そこには元ハーピーのハピルが立っていた。
「コンバンワ!」
彼女はズカズカと部屋に入ってくると鍵を締めて「にしし」と白い歯をむき出して笑う。
「え?ハピルさん、どうしたんですか?こんな時間に」
「さっきいいこと聞いた!レアン、おっぱいニンゲンとイイコトするんだろ?ワタシもするゾ!」
「え?ちょっと、うわあっ!」
ぎゅううっ
いきなりハピルは抱きしめてきて、やわらかい部分を顔に押し付けられた。
レアンがジタバタしていていると、ようやく離してくれる。
「どうだ?ドキドキしたか?レアン」
「いきなりなんですか……はあっはあっ……びっくりしたじゃないですか」
ドキドキというより息ができなくて空気を吸っていると、ハピルはつまらなそうな顔をした。
「なんだ、ドキドキしてないのか。楽しくないな!」
「楽しくも何も、本当にどうしたんです?」
レアンは急な来客に戸惑ってばかりだ。
ハピルの姿は美人というより人懐っこいお姉さんタイプで、スタイルもよく町中の男性に人気が出そうである。
「んー!ワタシも子ども欲しい!でも町の男はへにゃっとしてるから嫌だ!」
「えっ?」
ドンッ
ハピルは次にレアンをベッドに押し倒して、その上にまたがる。
「レアンいいオトコ!ハピルはレアンとイイコトする!……つまりまぐわう♡」
「えっ⁉いやっ!待って!落ち着いて!ハピルさん!」
ハピルがレアンのズボンを脱がそうとしたところで、不意に声が聞こえた。
「へぇ♪どんなイイコトするのかしらね?」
レアンとハピルが声の方を見ると、窓枠にキョーコが座っていた。
「出たな!おっぱい!今からイイコトするから邪魔するな!」
ハピルの付けた名前はニンゲンでも無くなっていたが、キョーコは怒らずにニッコリしたのが逆に怖い。
「あら、そうなんだ♪でも私の方が先に予約してたのよ。困ったわね♪」
キョーコは足音も立てずに近寄ってきて、レアンの方を見る。
「キョーコさん、あのっ、助けてください……!あれ?そういえばここ三階なのにどうやって入って?」
「そんなの壁をひょいって登ってくれば簡単じゃない♪部屋の鍵が閉まってたから仕方なくよ♪」
さらっと返されてあっけにとられていると、ハピルがレアンの上着を脱がしながらわめいた。
「ジャマするな!今からレアンと子作りするんだ!マモノは気に入ったら即する!ニンゲンと違ってメンドーな駆け引きしない!」
「あ~……気に入ったら即ってのはわかるかも♪私だってオークションで一目惚れして、レアンくん買ってきたからね♪」
「ふえっ……」
ハピルのいい分にキョーコが同意してレアンが涙目になる。
「ソウダロ!だからワタシは……」
「でもね、人間同士は同意じゃないと駄目よ。今のあなたは完全な人間……それにレアンはあなたの恋人でもモノでもないでしょ?」
「そ、それは……」
「だから諦めなさい!これ以上ワガママいうのなら、ちょっぴり痛い目に合ってもらうわよ♪」
キョーコに正論を突きつけられ肩に手を置かれたハピルは「ひっ……!」と飛び退いて、窓枠に足をかけた。
「いいもん!きっといいオトコ見つけてやるから!覚えてやがれ!」
三階なのにそのまま外に飛び出したので慌ててレアンが窓に駆け寄ると、空を飛んで夜の街に消えていった。
「ええええええっ!と、飛んだ!」
レアンが驚いていると、キョーコが隣に立って一緒に眺めた。
「元がハーピーだから、きっと風の精霊の加護で飛べるようになったんじゃないかしら?」
「そうなんですか?」
「魔物から人間に転生した例はいくつもあってね、元の能力を受け継いでるらしいわ」
中には人間と魔物が恋に落ちて転生し、その能力で相方として支え続けた話もあるみたいだ。
「なるほど、勉強になります」
レアンが興味深そうに話を聞いていると、キョーコが何かを思い出したようだ。
「あ、レアンくん。そういえば約束してたわね。あの子のせいで忘れていたわ」
「……そうでした」
「うふふ♪じゃあ、ちょっとバタバタしてしまったけど……」
キョーコは窓を閉めて優しくレアンの肩を抱き寄せた。
「レアンくん、採取をはじめましょうか♪」
(続)
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