1日目 19時から20時 夕食
しぶしぶ協力してくれたイーナとボーグの二人を連れて、俺たちは5階層まで降り来ていた。初心者ダンジョンは全階層攻略済みなので当然地図もある。ゴブリンやコボルトでは相手にならないし、レベル上げの効率も悪かったので一気に降りてきたのだ。
「少し休憩して食事にしましょう」
エリノスの号令で休憩を取ることにした。さすがの俺もサンドイッチを片手に魔物狩りをしようぜとまでは言わないので素直に従うことにする。
流石は初心者ダンジョンというだけあって、階段のある場所は魔物が来ないような安全地帯になっているらしい。
「食事の用意もしてあったんだな」
「ええ、ダンジョンでは何が起こるかわかりませんので念のためにある程度は用意しておりました。もちろん簡易的なものになるのでご理解ください」
「問題ない。腹さえ満たせればなんでもいいので」
「ふふ、アキラ様はとてもストイックな方ですね」
「ボクはおいしいものが食べたかったよ」
「イーナ、立場をわきまえろ」
「そんなこと言って、副団長だって歓迎の宴に出るお酒を楽しみにしてたんじゃないのー」
「……」
「悪かったな」
「いえ、お気になさらないでください」
ボーグとイーナに対して謝意を述べたが、それに対してエリノスが答える。というか、エリノスの距離が異様に近いのは気のせいだろうか。ダンジョンを探索中は俺を先頭にイーナが続き、エリノスを挟んで最後尾をボーグが固めている。しかし、休憩に入った途端、なぜか俺の隣に腰を下ろしてきた。安全エリアは広いというのに。
「アキラ様、どうぞ」
「ありがとう」
渡されたのはパンに具材を挟んだもの、要するにサンドイッチだ。エリノスはマジックバッグという見た目以上の荷物を入れられる不思議バッグから、いろんな食材を取り出していた。王女という割には手慣れた様子で、ささっとサンドイッチを量産していく。
「こういう食事の準備を王女様にやらせていいものなのか」
「ダンジョンの中にお傍付を侍らせるわけにはまいりませんので。それにお気づきだと思いますがあの二人はこの手のことは不得手なのですよ。それにアキラ様に世話は私がしたいのです」
後半が少し聞き取れなかったけど、まあイーナは見るからに女子力低そうだし、ボーグは真面目だけどガサツな感じがする。消去法的に王女がやるしかないということか。それでいいのかと思うが、本人がいいといっているのでいいとしよう。
みんなにサンドイッチが回ったところで早速食べてみる。
まあ、サンドイッチなので特別おいしいわけでもないけど、まずいわけでもない。もっとも、嫁の作る料理以上にうまいものが異世界にあるはずもないんだが。
「お味はどうでしょうか」
「うん。うまいよ」
「ほんとですか。よかった」
俺が社交辞令で応えると、エリノスがほっとしたように微笑んだ。まさか初めての料理ってことはないと思うが、そんなに自信がなかったのだろうか。
食事を済ませた俺たちは再びレベル上げに向かっていった。
ゴブリンやコボルトに比べると多少速度と膂力が上がっている気がするけども、まだまだ俺の敵じゃない。スケルトンと狩り続けること小一時間、レベルは4まで上昇した。