1日目 15時から16時 ダンジョンへの移動
「それでは勇者様、歓迎の宴を開きたいと思いますのでどうぞこちらへ」
「俺の話を聞いてなかったのか。時間がないんだ。早速だけどレベル上げに向かいたい」
時は金なりという金言をこの世界の人間は知らないのだろうか。
会社の上司はOJTだと抜かして、何も知らない俺を現場に放り込んでくれやがったが。実際、その分、あっという間に仕事を覚えれたのは事実だ。だから、ちまちま訓練をするよりさっさと現場に出た方が早いはずだ。
仕事中の飯なんかサンドイッチかおにぎりを食べればそれで十分だ。
まあ、そんなのは家に帰った後の嫁の作る世界一の夕食が待ってるから言えることなんだけどな……くそっ、カナデに会いたくなったじゃないか。
まあいい、辛抱だ。
ちょっと長めの出張だと思うことにしよう。
海外出張で電波が通じない。
そう思わないとやってられないだろうが。
「ダンジョンっていうのが王都の近くにあるんだろ。さっそくそこに向かおう」
「し、しかし勇者様」
「しかしも案山子もねぇよ。王様、俺のレベルは1なんだ。魔王を倒すには最低70は必要なんだろ。こんなところで揉めている時間も惜しいくらいだ。説明は移動中に聞くから、必要なものを揃えたらさっさと向かおうぜ」
「わ、わかりました。おい、大臣よ。すぐに支度を整えよ」
「はっ、畏まりました」
手早く準備を整えて、大型の馬車でダンジョンに向かって出発する。
大型のバスくらいの馬車には俺をサポートするための人員が乗っている。
「初めまして勇者様。私は第二王女のエリノスと申します。治癒術士として勇者様をサポートさせていただきますのでどうぞよろしくお願いします」
「よろしく。俺のことはアキラと呼んでくれ。勇者様っていうのはどうにも居心地が悪い」
「かしこまりました。アキラ様」
「アキラ様っていうのも……まあ、いいか。で、そっちは?」
「は、自分は戦闘面での勇者様のサポートを仰せつかっております。近衛騎士団副団長の槍術士ボーグと申します」
「勇者様はやめろっていうのに……あんたも堅くるしいな。で、最後に君は」
「ボクは宮廷魔導士のイーナだよ。9つのあるすべての属性魔法を操る天才魔導士とはボクのことさ」
「……先が思いやられる気がしてきたが、まずはそうだな。この先にあるダンジョンについて教えてくれ」
「かしこまりました――」
王女エリノスの話によると、ダンジョンっていうのはゲームに出てくるアレを想像すればいいらしい。無限に湧き出てくる魔物に宝箱。どこから来たのか? とか根本にツッコミを入れるのは、上司の理不尽と同じで意味はない。
王都の近くのダンジョンは初心者ダンジョンって呼ばれていてレベル10以下の冒険者登録したばかりの初心者向きの場所で、出てくる魔物もゴブリンやコボルト、スケルトンといったFランクの雑魚魔物だそうだ。
説明を聞いているうちにダンジョンに到着したようだ。