【混ぜるな危険】さるかに合戦 その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第九十八弾です。
今回は【混ぜるな危険】シリーズで『さるかに合戦』を書かせていただきました。
さて何と混ぜたのか。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、カニが住んでいました。
ある日道を歩いていると、道端におにぎりが落ちているのを見つけました。
「こりゃあえぇものを見つけた」
カニは喜んで食べようとします。
そこにサルが通りかかりました。
サルはカニが見つけたおにぎりが羨ましくてたまりません。
そこで先程食べた柿の実の種を、さも今拾ったかのように高く掲げました。
「お! こんな所に柿の種が! こりゃあえぇものを見つけた! これを庭に植えて育てたら、柿が食い放題じゃ!」
「……!」
カニが興味深そうに見ているのを横目で確認すると、サルは柿の種を見せびらかすように手の上で投げながらカニの横を通りました。
「あ、あの、サルどん……」
「何じゃカニどん」
「そ、その種を育てたら、柿が食い放題になるのか……?」
「あぁそうじゃ。いやー! いい拾い物をしたー!」
「……あの、その柿の種を譲ってもらうわけにはいかんじゃろか……?」
サルは内心ほくそ笑みながら、わざと嫌そうな顔をしました。
「たとえ拾い物だとしても、こんないい物をおいそれとやるわけにはいかん。何かと交換なら考えなくもないが」
「そ、それなら今拾ったこのおにぎりと交換ではどうじゃ?」
「よしきた!」
待ってましたとばかりに、サルは差し出されたおにぎりをひったくると、柿の種を放って走り去りました。
「……何を急いでおったんじゃろう……」
不思議に思いながらも、カニは柿の種を家に持ち帰り、庭に植えました。
水をやりながらカニは歌います。
「はーやく芽を出せ かっきのたねー
出さんとハサミで ほじくるぞー」
それを聞いた柿の種は、ほじくられてはかなわないと芽を出しました。
喜んだカニは、さらに水をやりながら歌います。
「はーやく木になれ かっきの芽よー
出さんとハサミで ちょん切るぞー」
それを聞いた柿の芽は、ちょん切られてはかなわないとにょきにょき伸びて木になりました。
喜んだカニは、肥料などをやりながら更に歌います。
「はーやく実になれ かっきの木よー
ならんとハサミで ぶった切るぞー」
それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと沢山の実をつけました。
「おぉ、これで食い放題じゃ!」
その時です。
おにぎりを食べ終えたサルが、カニの家の前を通りかかりました。
「な、何じゃ……? さっき渡した柿の種が、もう木になって実をつけとる……。どういう事じゃ……?」
サルが目を丸くするのも無理はありません。
『桃栗三年柿八年』と言うように、柿の木は実がなるまで長い年月が必要な植物なのです。
「まぁえぇわ。見たところカニどんは木には登れん。ワシが取ってやるふりをして独り占めじゃ……!」
サルはにやりと笑うと、カニに近づきました。
「カニどんカニどん、随分と見事に育ったなぁ。しかしカニどんは木に登れんじゃろ。代わりにワシが取ってきてやろうか?」
「おぉ、サルどん。それは助かる。では頼んだ」
カニがそう答えると、サルはするするっと柿の木を登りました。
そして橙色に熟した柿をむしゃむしゃと食べ始めたのです。
「うまい! こりゃうまい!」
「おいサルどん。自分ばかり食うてないで、おらにも落としてくんろ」
「いやー! うまい! 甘くてうまい!」
「なぁサルどん。おらが育てた柿なんじゃ。一つ食わせてくんろ」
「うるさい! これでも食らえ!」
サルはまだ熟していない青柿を、カニに向かって投げつけました。
青柿はカニにぶつかりました。
「痛い! 何をするサルどん!」
「はっはっは! 木にも登れんカニどんは、この青柿でも食っていろ! そらそら!」
「うわぁ!」
幾つも青柿を投げつけられ、カニは慌てて柿の木から離れます。
「何という奴じゃ……! このままでは収まらん……!」
怒り心頭に発したカニでしたが、木の上のサルには手出しができません。
柿の木を切ってサルを地上に下ろそうかとも考えたのですが、木に近づけば青柿をぶつけられてしまいます。
そこでカニは、
「ぐんぐん伸びろや かっきの木よー
伸びんと根っこを ほじ切るぞー」
と歌いました。
それを聞いた柿の木は、ほじ切られてはかなわないとぐんぐん伸びました。
「え、ちょ、おいおい……」
たちまちサルは雲の上まで運ばれていきました。
そこには、
「あら! 可愛いおサルさん! あの人は人間だと見境なく食っちまうけど、サルなら大丈夫だろうね」
「え、で、でっかい、女……?」
サルを片手で掴めるほどの、大きな女の人がいました。
「うちには子どもがいないから、寂しかったのよねー。さー、可愛い服を着ましょうねー。お化粧もしてあげましょうねー」
「わ! は、離せー! 離してくれー!」
サルの悲鳴は、雲の上の青空にこだまするだけでした。
一週間後。
「ん? 何か空から落ちてくるだ」
カニが空を見上げると、何やらピンク色のものが空からふわりふわりと落ちてくるのが見えました。
「さ、サルどん!?」
近づいて来たそれを見たカニは驚きの声を上げました。
それはピンクのフリフリドレスに、ばっちりメイクをしたサルだったからです。
布を手足に結びつけて、ムササビのように降りて来たサルの目には、光が失われていました。
「さ、サルどん……?」
「……カニどん……。すまなかった……。オラはカニどんに酷い事をした……。バチが当たった……。許してくれとは言わん……。ただ償いをさせてくれ……」
「そ、そんな事よりその格好は」
「この格好の事には触れないでくれ! 後生だ!」
「お、おう……」
雲の上で何があったかは固く語りませんでしたが、心を入れ替えたサルは二度と悪さをしなかったとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
カニの植物成長能力はやはりチート。
雲の上の人がグルメで良かったねサルどん。
まぁ別の地獄を味わったようですが……。
次回は『アリとキリギリス』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。