雪女 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第九十六弾です。
今回は『雪女』で書かせていただきました。
原作だと雪山で雪女に出会った男が、口外しない事を条件に命を助けられますが、その後出会って妻にした女性にうっかり雪女の話をしてしまったところ、その女性が雪女で……、という流れになります。
それが私にかかるとどうなるのか……。
どうぞお楽しみください。
私は雪女……。
人の生命力を吸い、糧にする妖怪……。
雪ん子として生まれて、人間の子どもと遊びながら少しずつ生命力を集め、雪女へと成長した……。
これからは人から直接生命力を吸って、新たな雪ん子を産む……。
さぁ、最初の獲物を探そう……。
「……見つけた」
若い男だ……。
この吹雪で道を見失ったな……。
空き家となっている炭焼き小屋に避難するようだ……。
歳は二十歳そこそこといったところか……。
生命力に満ち溢れている……。
こいつを私の最初の獲物にしよう……。
「な、なな、何か、ひひ、火を起こすもののを……」
震えながら男は炭焼き小屋をうろうろと探し回る……。
そんな事をしても無駄だ……。
こんな荒屋では隙間風で外と大差ない寒さだ……。
火を起こしたくらいで何とかなるものではない……。
下手に生命力を失う前に、吸ってやるとするか……。
「! だ、誰だっ!?」
「……」
ふふふ、怯えている怯えている……。
これが母様の言っていた『狩りの楽しさ』か……。
「あ、あんたも道に迷ったんか!? い、今火を起こすでな」
「……」
少し待とう……。
火が点けばこいつの顔がよく見えるだろう……。
相手が雪女と知った時の絶望の顔を、私に見せるがいい……。
「! 点いた!」
「!! !?」
火に照らされた顔!
何こいつ!
きりっとした瞳!
すっと通った鼻筋!
細い眉!
日焼けのない白い肌!
紅い唇!
胸が熱くなる!
「ゆ、雪女……!?」
はっ! 危うく目的を忘れるところだった!
早くこいつの生命力を吸って……!
「な、何て美しい……!」
きゃあああん!
透き通った声でそんな事言われたら、私、私……!
「……人間」
「は、はい!?」
「……今宵は見逃してやる……。だが私の事を誰かに話した時には、お前の命を貰いに行く……」
「は、はい! だ、誰にも言いません!」
「……」
ゆ、雪女が獲物を見逃すなんて人間に知られたら、大変だもんね!
小屋を出て、あの人が凍えないように小屋をかまくらみたいに雪で覆って、と。
これで朝まで火を絶やさなければ助かるわね!
そしてその後は……。
「こんばんは」
「ん? こんな夜更けに誰じゃ?」
き、来ちゃった!
あの後朝になったら怪しまれないようにかまくらを解除した。
そのまま山を降りるあの人をこっそり着けて、家を調べて、ついでに独身らしい事もわかって、そうしたら居ても立っても居られなくなって……!
「……あんたは?」
「旅の途中で道に迷い、日が暮れてしまいましたので、一晩泊めてもらえれば、と……」
そして旅人を装って、一晩泊まって、そのまま居着く作戦!
あ、あくまでこの人が私の秘密を話さないかを監視するため!
だから大丈夫!
「な、何もねぇところだが、泊まるくれぇなら、まぁ……」
「ありがとうございます……」
やったぁ! これでこの人と一緒にいられる!
後は家事とかすれば、男の人はお嫁さんにしたくなって、夫婦になって、いつまでも一緒にいられるのよね!
よーし! 頑張ろう!
「……あの、間違っていたら申し訳ねぇんだけど」
「はい?」
「お前さん、雪女、じゃな?」
「!?」
な、何故気付かれたの!?
人間としての生活は完璧だったはずなのに!
「ど、どうして……」
「いや、こんな冬場に冷奴やらルイベやら冷や汁やら、火を使わない料理ばかり作るし……」
だって火って怖いんだもん!
「風呂は水風呂でねぇと入れねぇと言うし……」
だって熱いんだもん!
「洗濯や水仕事しても手は赤くなんねぇし……」
そんなところまで見てくれていたの!?
ちょっと嬉しい……。
ってそんな事を考えてる場合じゃない!
何とか誤魔化さないと!
「あ、あの、私は、その……」
「それでもおらはお前さんにいてもらいてぇ」
「……え?」
「お前さんは美しいし、何よりおらのために人間の生活に馴染もうとしてくれた事が嬉しいだ」
「う……」
「おらでよければ、嫁さんになってくれねぇか?」
「……喜んで!」
こうして私達は夫婦になった。
私用に水風呂を作ってくれたり、日の当たらない北側に私の部屋を作ってくれたりした。
それでも時々人間と雪女の違いに戸惑う事もあるけれど……。
「おら、お前と夫婦になれて良かっただ!」
「お前さん……!」
私はとっても幸せです!
読了ありがとうございます。
はい、安定と信頼の甘々になりました。
でも原作の流れからして甘々になっても仕方がないと思うんですよ(力説)。
地◯先生を思い出した人は僕と握手!
次回は秋の味覚で『三枚のお札』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。