表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
95/171

さるかに合戦 その一

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第九十五弾です。

今回は『さるかに合戦』で書かせていただきました。

原作ではカニを騙しておにぎりと柿の種を交換した挙げ句、いざその実がなると奪い取り、文句を言うカニに渋柿をぶつけた傍若無人なサルを、クリ、ハチ、馬糞、ウスが懲らしめるお話です。


その流れは第四十弾『復讐屋 十三』でやりましたので、今回は遊んでます。


どうぞお楽しみください。

 昔々あるところに、カニが住んでいました。

 ある日道を歩いていると、道端におにぎりが落ちているのを見つけました。


「こりゃあえぇものを見つけた」


 カニは喜んで食べようとします。

 そこにサルが通りかかりました。

 サルはカニが見つけたおにぎりが羨ましくてたまりません。

 そこで、


「お! こんな所に柿の種が! こりゃあえぇものを見つけた! これを庭に植えて育てたら、柿が食い放題じゃ!」

「……!」


 カニが興味深そうに見ているのを横目で確認すると、サルは柿の種を見せびらかすように手の上で投げながらカニの横を通りました。


「あ、あの、サルどん……」

「何じゃカニどん」

「そ、その種を育てたら、柿が食べ放題になるのか……?」

「あぁそうじゃ。いやー! いい拾い物をしたー!」

「……あの、その柿の種を譲ってもらうわけにはいかんじゃろか……?」


 サルは内心ほくそ笑みながら、わざと嫌そうな顔をしました。


「たとえ拾い物だとしても、こんないい物をおいそれとやるわけにはいかん。何かと交換なら考えなくもないが」

「そ、それなら今拾ったこのおにぎりと交換ではどうじゃ?」

「よしきた!」


 待ってましたとばかりに、サルは差し出されたおにぎりをひったくると、柿の種を放って走り去りました。


「……何を急いでおったんじゃろう……」


 不思議に思いながらも、カニは柿の種を家に持ち帰り、庭に植えました。

 水をやりながらカニは歌います。


「はーやく芽を出せ かっきのたねー

 出さんとハサミで ほじくるぞー」


 それを聞いた柿の種は、ほじくられてはかなわないと芽を出しました。

 喜んだカニは、さらに水をやりながら歌います。


「はーやく木になれ かっきの芽よー

 出さんとハサミで ちょん切るぞー」


 それを聞いた柿の芽は、ちょん切られてはかなわないとにょきにょき伸びて木になりました。

 喜んだカニは、肥料などをやりながら更に歌います。


「はーやく実になれ かっきの木よー

 ならんとハサミで ぶった切るぞー」


 それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと沢山の実をつけました。


「おぉ、これで食べ放題じゃ!」


 その時です。

 おにぎりを食べ終えたサルが、カニの家の前を通りかかりました。


「な、何じゃ……? さっき渡した柿の種が、もう木になって実をつけとる……。どういう事じゃ……?」


 サルが目を丸くするのも無理はありません。

 『桃栗三年柿八年』と言うように、柿の木は実がなるまで長い年月が必要な植物なのです。


「ま、まぁえぇわ。見たところカニどんは木には登れん。ワシが取ってやるふりをして独り占めじゃ……!」


 サルはにやりと笑うと、カニに近づきました。


「カニどんカニどん、随分と見事に育ったなぁ。しかしカニどんは木に登れんじゃろ。代わりにワシが取ってきてやろうか?」

「いや、えぇ」

「は?」


 目を丸くするサルの前で、カニはあの歌を歌います。


「はーやく実落とせ かっきの木よー

 落とさんとハサミで ぶった切るぞー」


 それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと、熟れた実をカニに落としました。


「そうじゃ、サルどんに譲ってもらった種じゃ。サルどんにも一つあげようかね」

「え……」


 目を丸くしたままのサルの前で、カニはあの歌を歌います。


「はーやく実落とせ かっきの木よー

 落とさんとハサミで ぶった切るぞー」


 それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと、熟れた実をサルに落としました。


「おぉ、ありがとう柿の木どん。これからも美味しい水やえぇ肥料をやるから、よろしくなぁ」


 柿の木はそれに応えるように、葉っぱをざわざわと鳴らしました。 


「……えぇ……?」


 納得のいかないサルでしたが、それ以上何を言えるわけもありません。

 もらった柿の実を一つ持って、首を捻りながら家に帰りましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


カニは農業チート。

歌うだけで植物の成長を促すとか、なろうにぴったりですね(にっこり)。


次回は少し季節が早いですが、『雪女』で書かせていただきます。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 猿さんの犠牲になる蟹さんがいなくて良かったです。 その代わり、柿の木さんがある意味で蟹さんに搾取されているようにも見えますが(笑) 柿の木さんが落とした実の種を植えて柿の木の林を作れば、…
[良い点] そう言えば確かに、「猿蟹合戦」の蟹は歌いながら柿の木を育てていましたね。 歌って柿の木の成長を促していたなら、もう一声という具合に「実を落とせ」と歌うのは理に適っていると感じました。 蟹の…
[良い点] カニさん、かわいいな……と思ってたら。 かわ、いい……? 優しく脅迫してますね~www でもサルに青いカキをぶつけられることもなくハピエンなので、これはこれでいいですね!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ