さるかに合戦 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第九十五弾です。
今回は『さるかに合戦』で書かせていただきました。
原作ではカニを騙しておにぎりと柿の種を交換した挙げ句、いざその実がなると奪い取り、文句を言うカニに渋柿をぶつけた傍若無人なサルを、クリ、ハチ、馬糞、ウスが懲らしめるお話です。
その流れは第四十弾『復讐屋 十三』でやりましたので、今回は遊んでます。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、カニが住んでいました。
ある日道を歩いていると、道端におにぎりが落ちているのを見つけました。
「こりゃあえぇものを見つけた」
カニは喜んで食べようとします。
そこにサルが通りかかりました。
サルはカニが見つけたおにぎりが羨ましくてたまりません。
そこで、
「お! こんな所に柿の種が! こりゃあえぇものを見つけた! これを庭に植えて育てたら、柿が食い放題じゃ!」
「……!」
カニが興味深そうに見ているのを横目で確認すると、サルは柿の種を見せびらかすように手の上で投げながらカニの横を通りました。
「あ、あの、サルどん……」
「何じゃカニどん」
「そ、その種を育てたら、柿が食べ放題になるのか……?」
「あぁそうじゃ。いやー! いい拾い物をしたー!」
「……あの、その柿の種を譲ってもらうわけにはいかんじゃろか……?」
サルは内心ほくそ笑みながら、わざと嫌そうな顔をしました。
「たとえ拾い物だとしても、こんないい物をおいそれとやるわけにはいかん。何かと交換なら考えなくもないが」
「そ、それなら今拾ったこのおにぎりと交換ではどうじゃ?」
「よしきた!」
待ってましたとばかりに、サルは差し出されたおにぎりをひったくると、柿の種を放って走り去りました。
「……何を急いでおったんじゃろう……」
不思議に思いながらも、カニは柿の種を家に持ち帰り、庭に植えました。
水をやりながらカニは歌います。
「はーやく芽を出せ かっきのたねー
出さんとハサミで ほじくるぞー」
それを聞いた柿の種は、ほじくられてはかなわないと芽を出しました。
喜んだカニは、さらに水をやりながら歌います。
「はーやく木になれ かっきの芽よー
出さんとハサミで ちょん切るぞー」
それを聞いた柿の芽は、ちょん切られてはかなわないとにょきにょき伸びて木になりました。
喜んだカニは、肥料などをやりながら更に歌います。
「はーやく実になれ かっきの木よー
ならんとハサミで ぶった切るぞー」
それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと沢山の実をつけました。
「おぉ、これで食べ放題じゃ!」
その時です。
おにぎりを食べ終えたサルが、カニの家の前を通りかかりました。
「な、何じゃ……? さっき渡した柿の種が、もう木になって実をつけとる……。どういう事じゃ……?」
サルが目を丸くするのも無理はありません。
『桃栗三年柿八年』と言うように、柿の木は実がなるまで長い年月が必要な植物なのです。
「ま、まぁえぇわ。見たところカニどんは木には登れん。ワシが取ってやるふりをして独り占めじゃ……!」
サルはにやりと笑うと、カニに近づきました。
「カニどんカニどん、随分と見事に育ったなぁ。しかしカニどんは木に登れんじゃろ。代わりにワシが取ってきてやろうか?」
「いや、えぇ」
「は?」
目を丸くするサルの前で、カニはあの歌を歌います。
「はーやく実落とせ かっきの木よー
落とさんとハサミで ぶった切るぞー」
それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと、熟れた実をカニに落としました。
「そうじゃ、サルどんに譲ってもらった種じゃ。サルどんにも一つあげようかね」
「え……」
目を丸くしたままのサルの前で、カニはあの歌を歌います。
「はーやく実落とせ かっきの木よー
落とさんとハサミで ぶった切るぞー」
それを聞いた柿の木は、ぶった切られてはかなわないと、熟れた実をサルに落としました。
「おぉ、ありがとう柿の木どん。これからも美味しい水やえぇ肥料をやるから、よろしくなぁ」
柿の木はそれに応えるように、葉っぱをざわざわと鳴らしました。
「……えぇ……?」
納得のいかないサルでしたが、それ以上何を言えるわけもありません。
もらった柿の実を一つ持って、首を捻りながら家に帰りましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
カニは農業チート。
歌うだけで植物の成長を促すとか、なろうにぴったりですね(にっこり)。
次回は少し季節が早いですが、『雪女』で書かせていただきます。
よろしくお願いいたします。




