金太郎 その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第九十二弾。
今回は『金太郎』で書かせていただきました。
以前書いた『金太郎 その一』と繋がりはありません。
似てるけど違うんです。
というか似ちゃったんです。
作者が同じですからね。
『僕は悪くない』
……相撲のパワーが強すぎるだけなんです……。
どうぞお楽しみください。
昔々、足柄山に金太郎という男の子がいました。
金太郎はとても力が強く、大きな鉞も軽々と肩に担げる程でした。
それでいて心優しく、山の動物達は金太郎の事が大好きでした。
ある時よその山を追われたクマが足柄山で暴れましたが、金太郎はそれを相撲を通じて収めました。
「相撲は素晴らしい……!」
そんな折、優秀な侍を配下にしたい源頼光の部下が金太郎と出会いました。
熊を従え、鉞を軽々と担ぐ金太郎に、部下は素質を感じました。
「ねぇねぇキミキミ、都で侍にならない?」
「侍、ですか?」
「そう! 今侍はね、都は帝様、貴族の方々に次ぐ、『子どもが憧れる職業』第三位なんだよ!」
「いえ、僕は相撲を続けたいので……」
「いいじゃない! 相撲もできる侍! これは唯一無二の特別な存在になれるよ! あ、親御さんとお話しできるかな?」
部下の強い勧めと誠意ある説明に金太郎の心も動き、お母さんの許しももらって都に行く事になりました。
「何だぁ? 田舎者が侍だなんてちゃんちゃら可笑しいぜ! お前なんかに何ができるんだ? あぁ?」
都に着くと、以前から頼光に仕えていた侍は、新参者の金太郎にそう詰め寄りました。
そこで金太郎はにっこり笑って答えます。
「相撲なら、誰にも負けませんよ」
「言ったな! なら負けたら荷物をまとめて田舎に帰んな!」
相撲には不作や不漁などをもたらす厄災の神に、人の味方である別の神が勝利、又は引き分けにする事で、五穀豊穣や大漁を願う儀式の側面がありました。
なので都では『神事の時に見るもの』という意識があり、競技や格闘技という意識が侍達にはありませんでした。
(地面に足の裏以外が付いたら負けなんて、刀や弓を使う真剣勝負を生きる俺達侍からしたらお遊びにも程があるぜ!)
しかし金太郎を見出した部下は、その様子を力強い笑みで見守ります。
(金太郎、君の相撲への愛と情熱は、都でもきっと通じる! さぁ! 羽ばたくんだ!)
神社の土俵を借りて、金太郎と先輩の取り組みが始まります。
神事でもない中での取り組みに、騒動を聞いていた侍達の他にも近所の人達が集まっていました。
「見合って見合って……」
土俵にじわじわと手を下げる中、先輩は悪い笑みを浮かべていました。
(神事で何回か見たが、お互いのまわしを掴んで押したり引いたりするのが相撲なんだろ? だったらその前に思いっきりぶつかってひっくり返してやる!)
金太郎の両手が土俵に付きました。
先輩はじわじわと降ろしていた手を一気に土俵に付け、
「おらぁ!」
「はっけよい!」
勢いよく金太郎に向かって突進しました。
しかし、
「んなっ!?」
「……」
「のこった! のこったのこった!」
まるで柔らかい岩にでもぶつかったような感触に戸惑う先輩のまわしを、金太郎がぎゅっと掴みます。
「う、うお……!」
ぐいっと腰を寄せられ、体勢が浮いてしまった先輩に、もうなす術はありません。
そのまま押し込まれ、土俵を割りました。
「金太郎ー! きんたろぉー!」
行司の勝ち名乗りにも、見ていた人達は固まったままでした。
先輩の凄まじい突進にびくともしなかった金太郎。
神事の裏に隠されていた相撲の強さと神々しさに、都の人が初めて触れた瞬間でした。
「先輩」
「……何だよ」
「僕は相撲は得意ですが、侍の事は分からない事だらけです」
「は?」
「だから教え合いましょう。先輩は侍の事、僕は相撲の事を」
「……へっ、音を上げるんじゃねぇぞ?」
「はい!」
二人はがっしりと手を結び合いました。
そうして頼光の侍達の間で相撲は大流行。
また口伝えに広まった相撲の魅力に、人々も侍達の稽古や取り組みを見に集まるようになりました。
「ふん、人間共が、神事を徒に弄ぶとはな……」
そこにやってきたのは大江山の鬼・酒呑童子でした。
酒呑童子は近隣の鬼を配下に置く強大な鬼で、都の人から恐れられる存在でした。
「相撲は神事の時のみ行うべきだ。見せ物興行に堕せば、かけがえのない神性が失われる事になる」
酒呑童子の重々しい言葉に、刀や弓の訓練と違う真剣勝負に心躍っていた侍達や、その勝負を楽しんでいた都の人々も返す言葉がありません。
ただ一人、金太郎を除いて。
「僕も相撲の神性を愛しています。しかしそれを神々だけのものとするのは、人と神々との断絶を生むのではないでしょうか?」
「ならば神々も人も同じ土俵に立てと? 神威を畏れ、敬う事で律してきた人々の理さえも否定するのか?」
「いえ、神々は尊いもの。人と同列にすべきではないと思います。僕はその尊い神々と人とを結ぶのが相撲だと思っています」
「ならばこそ、人だけの間で取り組みを繰り返す事の愚かしさが分からぬか? この者達が神事としての尊さを理解しているとは思えぬがな」
酒呑童子の一睨みで、侍達も都の人々も恥を押し殺すように下を向きました。
しかし金太郎は真っ直ぐに酒呑童子を見つめます。
「では一番、取り組みをお願いいたします」
「……何?」
一瞬きょとんとした酒呑童子でしたが、すぐに大きく口を開いて大笑いしました。
「わっはっは! 成程、確かに我ら鬼も厄災の側ではあれど、神事に名を連ねる存在。つまり我と取り組む事で、都の相撲に魂を入れようと、そういう腹か」
「鬼の貴方なら、きっと相撲を正しに来てくださると思っていましたから」
「うむ、見事見事。その心意気と胆力に免じて取り組んでやるとしよう。……ただし」
酒呑童子のまとう気配が変わりました。
数多の鬼を下に置くに相応しい、禍々(まがまが)しく、雄々しく、凛とした空気。
肌を刺すような鋭さに、金太郎の頬に一筋の汗が流れます。
「……言うまでもなく理解しておるようだの。我が強さ、そして厄災の象徴に人が敗れる意味を」
「……はい」
「それでもなお挑むか」
「……はい!」
燃えるような気迫を込めた瞳に、酒呑童子はにやりと笑みを深めました。
「良かろう! ならば神事に則り二番勝負とする。異論はないな?」
「!」
神事において、取り組みを二番持ち、一勝一敗に収める事はよく行われていました。
厄災を象徴する神であっても顔を潰さない、敬意と配慮がそこにありました。
「これで『負かしたら鬼に悪い』などと考えて、力を振るえん事もあるまいな?」
「……ありがとうございます」
酒呑童子の懐の深さに、金太郎の緊張がほぐれました。
二人は清々しい気持ちで土俵に上がります。
「……見合って見合って……。はっけよい!」
行司の声と共に二つの熱い魂が火花を散らしました。
この大一番が都に、鬼に、そして金太郎に何をもたらすのか、それはまた別のお話……。
読了ありがとうございます。
いや、違うんですよ。
最初は金太郎を相撲馬鹿にして、何でもかんでも相撲で解決する話にしようと思っていたんです。
「そんなことより相撲しようぜ!」
「相撲は命より重い……!」
「知るかバカ! そんなことよりお相撲だ!」
「相撲さえあれば、他にはもう何もいらない……」
「相撲より大事な事がこの世にあるとでも?」
「お前に足りないものは、それはーー 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ! そして何よりも――
相 撲 が 足 り な い!!」
こんなのを思い描いていたのに、デーモン閣下の曲聴いてたらあれよあれよと言う間に押し切られ、土俵を割っておりました。
相撲ってそういうとこあるよね。
曲が気になる方は、『デーモン閣下 裸』で検索!
次回は『田舎のネズミと町のネズミ』でお送りいたします。
よろしくお願いいたします。




