幸福の王子 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第八十四弾。
今回は『幸福の王子』で書きました。
……冬まで取っておけば良かったなという思いがなきにしもあらずですが、どうぞお楽しみください。
昔々ある町に、大きな王子の像が立っていました。
その像は金箔で覆われ、剣の柄にはルビー、瞳にはサファイアをあしらった、豪華な像でした。
この像は、若くして亡くなった王子を悼んでこの街の中心に立てられたものでした。
しかし街の人は知りませんでした。
その像に王子の魂が宿っている事に。
王子の魂は、街を眺めながら強い焦りを感じていました。
(このままではいけない……! 早く何とかしないと……!)
そんな王子の像の足元に、一羽のツバメがやってきました。
ツバメはまもなく来る冬に備えて、南へと渡る途中でした。
「ふぅ、だいぶ行程に余裕あるッスねぇ。これならちょっとこの街でのんびりしてもいいッスかねぇ?」
『それなら僕に力を貸してくれないか?』
「!? 声!? 誰ッスか!?」
驚き、慌てふためくツバメに、王子も慌てて謝りました。
『ごめんよツバメ君! 僕は君が今いる場所に立っている像なんだ!』
「え、えぇー!? この立派な像の……? あ、あの、すみません! 魂が宿っているとは知らなくて、勝手に足元に……!」
『いや、それは全然構わないんだ。話しかけられる相手が側に来てくれたから、いきなり話しかけてしまって……。驚かせてしまってごめんね』
王子の落ち着いた言葉に、ツバメは緊張を解きました。
「そ、そうだったんッスね。あぁ驚いた」
『驚かせておいて悪いんだけど、君にお願いがあるんだ。聞いてくれないかな』
「えぇ、いいッスよ。オイラでできる事なら何なりと」
『ありがとう』
ツバメの言葉に、王子は嬉しそうにお礼を言いました。
『早速だけど、この僕の剣の柄に付いているルビーを外して、あの赤い屋根の家に届けてくれないかい?』
「そんな事ならお安い御用ッス」
ツバメは言われた通りに柄のルビーを外して、赤い屋根の家に届けました。
『次はこの目のサファイアを外して、一つはあの青い屋根の家に、もう一つは少し遠いんだけど、緑色の屋根の家に届けてくれないか?』
「えっ、目を取り出すなんて……」
『大丈夫。魂は宿っていても、この像が僕の身体ってわけじゃないんだ』
「そういう事なら……」
王子の言葉に、ツバメはためらいながらも目のサファイアを取り出して届けました。
『ありがとう、ありがとう。後は僕の身体を覆う金箔を剥がして、貧しい人達に配ってくれないか?』
「わかったッス!」
そこからツバメはせっせと王子の像の金箔を剥がしては、貧しい家を探して届けて回りました。
宝石の届け物と違い、届ける家を探しながらの作業には時間がかかりました。
(……そろそろ南に向かって出発しないと間に合わないッスね……)
ツバメは悩みました。
しかし、金箔を届けた事を報告するたびに、
『ありがとう! これでこの国が救われる! 君は救世主だ!』
「……大袈裟ッスよ……」
王子に心から感謝され、再びツバメは金箔を咥えて飛ぶのでした。
そうして王子の像から金箔が全て剥がされ、街の人達に行き渡る頃、季節は冬になっていました。
『ツバメ君、本当にありがとう!』
「いえいえ、こんくらいのお使い、楽勝ッスよ」
しかし空は灰色に覆われ、空気は冷たく肌を刺すようです。
ツバメは南に渡れない自分が、冬を越せない事を知っていました。
しかしその心に後悔はありません。
王子の手助けができた事、貧しい人達に宝物を届けられた事を誇りに思っていました。
(オイラ、ここで死んでも悔いはないッス……)
『ツバメ君のお陰で間に合ったよ』
「……間に合ったって、何がッスか?」
『……来る!』
その言葉を受けるように、街の外から大きな音が響き渡りました。
「な、な、何ッスか!?」
『この国を狙う魔物の軍団だよ。かつて一度撃退したんだけど、僕も深く傷ついてね。数年は戦えない身体になってしまったんだ』
「え、え?」
『でも僕にはこの街を守る使命がある。だから死んだ事にして、身体を霊薬に浸けている間、仲間の魔法使いに頼んでこの像を作ってもらったんだ。……もう一度、戦うために』
すると王子の像を覆っていた金属が、その戦う意志に反応するように、甲冑のような形に姿を変えていきます。
「え、お、王子……?」
『……本当は、索敵のために預かった宝石さえ仲間の元に渡れば、戦いが近い事を伝えられて、準備は進められたんだ』
「……え?」
『あ、も、勿論思ったより早かった侵攻の前に、像を装うための金箔が街の皆に行き渡ったお陰で、戦いの準備は万端になったんだけど……』
「そ、そうなんスか! お、お役に立てたなら良かったッス!」
『でも、君が南に行くのを引き止めたのは、それだけじゃないんだ……』
「……王子?」
口ごもる王子に、ツバメは首を傾げます。
しばし迷った後、王子は絞り出すように声を発しました。
『……それは、君に僕と一緒に戦ってほしいと思ったからだ』
「!?」
驚くツバメの目の前で、王子の胸の甲冑が開き、中に鉛でできた心臓が見えました。
『何の得にもならないお願いを、快く聞いてくれる優しさ、真っ直ぐに信じて、裏切られる事を恐れない強さ、そして貧しい人のために我が身を投げ打つ覚悟……』
「そ、そんな……。オイラはただできる事をしただけで……」
『その全てが僕の戦う勇気をさらに大きく、強くしてくれたんだ! だから、厚かましいお願いだけど……、僕と共に戦ってくれないか!?』
王子の鉛の心臓が開き、中に操縦席が見えました。
その思いに、ツバメの胸に熱いものが広がっていきます。
「……わかったッス! 何ができるかはわからないッスけど、できるだけの事はさせてもらうッスよ!」
『ありがとう! 君が一緒に戦ってくれるなら、こんなに心強い事はないよ!』
ツバメが操縦席に乗り込むと胸の装甲が閉じ、一瞬暗くなった後全ての計器に光が宿り、目の前がまるで窓のように外の様子が見えるようになりました。
「す、すごいッスね!」
『魔法技術の粋を集めたゴーレムだからね。さぁ行くよ!』
「合点です!」
ツバメが操縦桿を握ると、計器が一際強い光を放ちます。
それは共に戦う相棒を得た王子の、心の高まりを示すようでした。
『幸福の王子!』
「発進!」
ツバメと王子の声が唱和し、台座を蹴って街の外へと飛び出していきます。
冬が明ける頃、王子とツバメは街の英雄となるのですが、それはまた別のお話……。
読了ありがとうございます。
巨大ロボットはロマン。
巨大ロボットの人格との友情は王道。
そしてその友情の力でピンチを打破するのは鉄板。
魔物の軍団に勝ち目はありませんね。
最終話で街の皆の力を集めた光の剣で本拠地両断されて、泣いて謝るボスの姿が目に浮かぶようです。
次回は夏らしく『天女の羽衣』で書きたいと思います。
よろしくお願いいたします。