嘘をつく子ども(オオカミ少年) その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第八十三弾。
今回は「嘘をつく子ども(オオカミ少年)」でお送りします。
いつものオオカミとは違った活躍をお楽しみください。
昔々あるところに、羊飼いの少年がいました。
少年は毎日羊を山に連れて行っては、羊に草を食べさせ、また村へと戻っていました。
「あー、退屈だなー。何か面白い事ないかなー」
少年は毎日同じ生活の繰り返しに飽き飽きしていました。
そんなある日、
「そうだ! オオカミが来たって言ったら、みんな驚くだろうなぁ!」
少年は早速村に走って行って、大きな声で叫びました。
「オオカミだー! オオカミが出たぞー!」
「何!? オオカミだと!?」
「大変だ! 男達は集まれ!」
村中は大騒ぎになりました。
大人達が鋤や鍬を持って山へ向かったのを見て、少年はおかしくてたまりません。
(ぼくのウソでみんながこんなに騒ぐなんて、すっごい面白い!)
それからたびたび、少年は「オオカミが出た」と嘘をついて、村が騒ぐのを楽しんでいました。
その内村人達は、少年の言う事を信じなくなってきました。
「ちぇっ、つまんないな」
そんなある日、いつものように山へと羊を連れて行ったところ、
「お、オオカミだ……!」
森から現れた白銀の毛をまとったオオカミに、少年は恐怖を隠せませんでした。
「は、早く村のみんなに知らせないと……!」
そこで少年は村人達の表情を思い出しました。
度重なる嘘に呆れ果て、無視をする表情を。
「……駄目だ……! ぼ、僕が羊達を守らなきゃ……!」
助けを呼ぶ事を諦めた少年は、手近にあった木の枝を拾って握りしめます。
勿論オオカミ相手では、そんなものは気休めにもなりません。
激しく震える手は、今にも木の枝を落としそうです。
オオカミは恐れた様子もなく、ひたひたと少年に近づいてきました。
(……殺される……!)
目の前まで来たオオカミに、死を覚悟する少年。
その耳にオオカミの穏やかな声が響きました。
『落ち着くが良い人の子よ。私はお前にもお前の羊にも危害を加える気はないよ』
「しゃ、喋った!?」
驚きで木の枝を取り落とした少年に、オオカミは敵意がない事を示すようにごろりと横になりました。
『何故立ち向かおうとした? 勇敢と無謀は似て非なるものだ。私が普通のオオカミであったなら、お前は食い殺されていてもおかしくなかったのだぞ?』
「く、食い殺……!」
『村に逃げ、助けを呼ぶ事は考えなかったのか?』
「……それは……」
少年は穏やかなオオカミの言葉に、これまでの事を話しました。
「……だから僕が助けを呼んでも、誰も来てくれないと思って……」
『そうか。事情は理解した。つまりお前は自らの安全を、遊びで浪費したのだな』
「安全を、浪費……?」
ぽかんとする少年に、オオカミは淡々と続けます。
『お前のような子どもは、大人からすれば守るべき対象だろう。だがお前の命の危機に助けに来ないという事は、その立場をお前は一時の快感のために使い切ったのだ』
「え……」
『今回の事だけではない。お前が病気になったり怪我をしたり家が火に焼かれたりしても、村人はお前を助けまい』
「そ、そんな……!」
自らの失ったものの大きさに、少年は言葉を失いました。
「ど、どうしよう……! そんな大変な事になってたなんて……! あ、あの、僕どうしたら……!」
『素直に真実を話し、心から謝罪をする事だな。信頼を取り戻す方法にはそれが一番であろうよ』
「そんなぁ……! めちゃくちゃ怒られますよ……」
『怒られるだけで済むなら安いものだ。村中の人間からそっぽを向かれて、生き抜く自信があるなら別だが』
「う……」
黙り込む少年に、オオカミは優しい声をかけます。
『まぁ後一つ、怒られずに信頼を回復する手もある』
「そ、それは何ですか!?」
『簡単な事だ。今実際にオオカミはここにいる。必死に叫んでここまで誰か一人でも連れて来れれば、お前の信頼は回復するだろう』
その言葉に少年は目を見開きます。
「! で、でもそんな事をしたら……!」
『山狩りとなり、私は討たれるだろうな。だがまぁそれも悪くはない』
「え……?」
オオカミは自らの白銀の毛を、愛おしむように、かつ寂しげに眺めます。
『この色を失った毛を見るが良い。私は老いさらばえた。この老い先短い命が若き命を救えるならば、我が生に最後の意味を加える事になろう』
「……!」
少年は奥歯を噛み締めて立ち上がりました。
それに合わせてオオカミも身を起こします。
『どうした?』
「……謝ってきます。村のみんなに……!」
『良いのか? 怒られるのが怖かったのではないのか?』
「……僕の身勝手で、オオカミさんを辛い目に遭わせるわけにはいきませんから……!」
その言葉に、オオカミは高らかに笑い出しました。
『ふはははは! まさかこんな年端もいかぬ子どもに我が身を憂いてもらえるとはな!』
「お、オオカミさん……?」
『気に入ったぞ! お前の羊は私が責任を持って見守ろうではないか! さぁ、安心して怒られてくるが良い!』
「安心なんかできないですよぉ……」
とぼとぼと村に向かう少年の背中を見送り、オオカミは笑みを浮かべます。
『ふふふ、寿命も百年を切り、終の住処を探していたところであったが、思わぬ縁に恵まれおった。ここであの人の子の成長を見守って朽ちるのも悪くはなかろうな』
そう呟くと、遠巻きにする羊達を眺めながら、オオカミは再びごろりと横になるのでした。
読了ありがとうございます。
オオカミの貴重な格好いいシーン。
パロディ昔話ではオチ要因として優秀だからね。仕方ないね。
次回は『幸福な王子』で書きたいと思います。
鬱展開? 知らない子ですね。
次話もよろしくお願いいたします。