ねずみの嫁入り その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第八十二弾。
今回は黒星★チーコ様からリクエストをいただきましたので、『ねずみの嫁入り』で書かせていただきました。
当初異能力バトルだとか逆ハーレム展開だとかあれこれ頭をよぎったのですが、やはり『その一』は原作準拠でいこうという事になりました。
あくまで準拠です(震え声)。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところにねずみの娘がいました。
年頃になった娘に、父親は良い婿を探す事にしました。
「可愛い一人娘の婿にするなら、やはり世界一の男がふさわしい! 普通のねずみなどでは駄目だ!」
そんな父親の態度に、娘は胸を痛めていました。
というのも娘には、忠太郎という心に決めたねずみがいたからです。
娘は父親の目を盗んで忠太郎に会い、辛い胸の内を明かしました。
「忠太郎さん……! 私、あなたのお嫁さんになりたい……! でもお父様は『特別な男でないと駄目だ!』と話も聞いてくれません……」
「千柚乃さん、僕もあなたと結婚したい! しかし僕は普通のねずみに過ぎない……。僕にもっと力があれば……!」
「……ねぇ忠太郎さん、もうこの世で一緒になれないのなら、いっそ……!」
「……僕も同じ事を考えてはいたんだ……。もし千柚乃さんが本当に嫁ぐとなったら、その時は……!」
「忠太郎さん!」
「千柚乃さん!」
固く抱き合い、涙を流す二匹。
その様子をお天道様が見ていました。
「話は聞かせてもらったよ」
「お、お天道様!?」
「私が何とかしてみよう」
「本当ですか!?」
「あぁ、だから早まった事は考えないように。そして千柚乃さん、お父上に『この世で一番素晴らしいのはお天道様では?』と話しておきなさい」
「わ、わかりました!」
ねずみ二匹が帰ったところで、お天道様は雲を呼びました。
「やぁ雲さん」
「お、お天道様、きょ、今日はどのような御用向きで……」
「うん、少々頼みがあってね。聞いてくれるかい?」
「そ、それはもう! 我々雲はお天道様に海を暖めてもらわないと生まれる事さえできませんからね!」
かしこまる雲に、お天道様はにっこりと笑いかけます。
「これはある恋仲のねずみの話なんだが……」
「ね、ねずみ……?」
お天道様が事情と作戦を説明すると、雲は得心した笑顔で大きく頷きました。
「成程! 流石はお天道様ですね! では風に話をして、壁には風の方から話をしてもらいます!」
「あぁ、よろしく頼むよ」
雲は風にお天道様の話を伝えました。
その話に共感した風は壁に話を伝え、支度が整いました。
そんなある日、娘の婚礼の準備を整えた父親が、お天道様のところにやってきました。
「お天道様。あなたは空に輝き、世界を明るく照らし、生きとし生けるものがその恩恵に預かっております。そのような素晴らしい方に娘を嫁がせたいと思い、参った次第にございます」
頭を下げる父親に、お天道様は大きな声で笑いました。
「はっはっは。私など大したものではない。雲が広がればすぐに覆い隠されてしまうのだからな。雲の方が私より優れている」
「な、成程……」
それを聞いた父親は、雲の元へと向かいました。
「雲様。私は娘を世界一の方に嫁がせたいと思い、お天道様を訪ねたところ、覆い隠すあなたの方が優れていると言われました。私の娘を嫁に迎えてはもらえないでしょうか?」
雲は難しい顔をして、首を横に振りました。
「確かに私はお天道様を覆い隠す事もあるが、強い風が吹けばたちまち動かされてしまう。私より風の方が優れていると言えるだろう」
「お、仰る通りで……」
父親は慌てて風の元へと行きました。
「風様。私は娘に世界一の婿をと思い、お天道様に伺ったところ、雲様の方が優れていると言われ、雲様には風様の方が優れていると言われました。どうか娘を風様の嫁に……」
風は笑いそうになるのを必死に堪えて、真面目に答えました。
「確かに雲さんは私が運ぶ事ができる。だがどんなに強く吹いても、人間の作る壁というものには阻まれてしまう。私より壁の方が優れているのではないか?」
「え、えぇ……?」
何が何だかわからなくなってきていた父親は、風に言われるまま、住んでいる家を取り囲む壁のところに来ました。
「壁様。えっと、お天道様を覆い隠す雲様を吹き飛ばす風様を阻む壁様に、うちの娘を嫁がせたいのですが、いかがでしょうか……?」
壁はここで笑ってはお天道様の作戦が台無しだと、苦しそうな顔を浮かべながら答えました。
「何を言う。確かに風には強い私だが、お前達ねずみにかかれば簡単に穴が空いてしまう。私はお前達ねずみには敵わないと思っているぞ」
「はれぇ……?」
壁の言葉に、父親の混乱は頂点に達しました。
「全てを照らすお天道様は雲様に覆い隠され、雲様は風様に吹き飛ばされ、風様は壁様に阻まれ、壁様はねずみに穴を空けられる……? 一番優れているのはねずみ……?」
そこに娘が二匹連れ立って父親の前に立ちました。
「お父様! 私はこの忠太郎さんと夫婦になりたいと思ってます!」
「お義父さん! 千柚乃さんは必ず幸せにして見せます! どうか結婚を認めてください!」
混乱していた父親は、二匹の勢いに押され、
「え、あ、うん、いいよ」
と頷きました。
「忠太郎さんと夫婦になれるなんて夢みたい!」
「あぁ! 千柚乃さん! 僕も幸せだ!」
こうして夫婦になった二匹は、いつまでも幸せに暮らしました。
それをお天道様と雲と風と壁は、満面の笑みで見守っていましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
お天道様が見てる。
略して『おて見て』。
……かまってちゃん系犬のお話になりそう……。
黒星★チーコ様、こんなんでいかがでしょう?
もし異能力バトルやら逆ハーレムやらが見たければ、そっとリクエストを(小声)。
次回は『嘘をつく子ども(オオカミ少年)』で書きたいと思います。
よろしくお願いいたします。