『サトリ』の話 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第八十一弾。
今回は、たこす様主催『この作品の作者はだーれだ?』企画でドストライクな感想を書いてくださった、かわかみれい様のリクエストで『サトリ』の話を書いてみました。
心を読む妖怪『サトリ』が私にかかるとどうなるのか?
どうぞお楽しみください。
昔々ある山に、『サトリ』という化け物が住んでいました。
『サトリ』は人の心を読み、それを口にしてからかうのが大好きでした。
おや、また『サトリ』は、山に入ってきた人間をからかうようです。
よぉ、人間。
……ふむ、「何この毛むくじゃらの化け物」と思っているな? 化け物とは失礼な。
……ほう、「え!? こいつ心が読めるのか!」と驚いているな? くっくっく、その通りだ。
……「こいつの前では隠し事はできないみたいだ……」と思っているな? 理解が早いな。さぁ心の内を晒すがいい。
……「すごい能力だ。それがあれば主役を張れる」と思っているな? ……え? 主役?
……「心を読める主人公は、その力で私立探偵になる。しかし心を読める事は伏せたまま、まるで推理力だけで事件を解決しているように振る舞う」か……。ふむふむ。
……「しかし裏表のある人間の中で、様々な声を聞き続けて心を病みかける主人公。そんな時、ある依頼でやってきたお屋敷。そこで虐待を受けている少女に出会う」……、それで?
……「主人公はその少女が絶望のあまり心の声を発しない事を気に入り、依頼の報酬として少女を希望する。浮気相手の子を押し付けられていた依頼主は快諾」……、ひどい親だな。
……「少女は主人公の元で徐々に心を取り戻していく。そして主人公を全肯定する存在になっていく。その心の声をまずいと思いつつも心地良く感じる主人公」……、良かった。
……「主人公は少女に優しく接し、心を読めるからこその丁寧な暖かさで包む。少女も主人公の役に立とうと、助手として働き始める」……、いいな、王道だ。
……「しかし主人公は少女を留め置くか、自分の側にいさせるデメリットを考えて手放すかを真剣に悩む」、だと? おい、そんなの少女は主人公と共にいたいに決まってるだろ!
……「少女は主人公の側にいる事を心から望んでいるのは知っているが、それは選択肢のない洗脳のようなものと主人公は考えている」、だとしても、だとしても……!
……「二人は探偵と助手の関係から変わっていくのか、それともその二人の道は分かれて行くのか、それはまだ決めかねている」、いや、待て! ずっと一緒にいさせてやれよ!
……「相手を思うが故に別れを選ぶのもまた美しい物語だと思う」ってそれはそうだけれども! な、なら一旦別れて、でも少女が真意に気付いて戻ってくるならどうだ!?
……ベタで何が悪い! 辛い人生を送ってきた主人公と少女の幸せを願って何が悪い! ……! 「確かに」って思ってくれるか! 良かった!
なぁ本にしよう! これを本にしよう! ……「頭の中にある内は何でも名作に思える」ってそんな事ないぞ! 私は面白いと感じた!
……「自信がない」なんて思うなよ! もっと多くの人にこの話を見てもらいたいんだ! なぁ頼むよ!
……! そうか! ありがとう! では主人公の名前とか設定を決めないとな!
!? 女!? 男だろ主人公は! 大人で余裕のある男が、少女の無邪気な好意を時にかわしつつ時に受け止めつつというのがいいんじゃないか!
……「女でもクールなお姉さんならいける」!? 「添い寝とかお風呂とかも自然に一緒にできる」!? そういうのは男でもいいだろ! やめろ! 画像で性癖を押し付けるな!
じゃ、じゃあ私が男主人公版を書くから、お前が女主人公版を書け! それで、うーん、来月くらいにまた会おう! 途中でもいいから必ず持ってこいよ! いいな!
こうして『サトリ』は執筆の楽しさを知り、むやみと人の心を読んでからかう事はなくなりましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
やはり妄想……!
妄想は執筆を加速させる……!
昔『サトリ』が腐女子の妄想にドン引きするSSを読んだ事があり、「心を読むタイプには精神攻撃が一番 (キリッ)」とか思って、最初は凄まじい鬱展開に「う~~ううう あんまりだ…H E E E E Y Y Y Y あ ァ ァ ァ ん ま り だ ァ ァ ア ァ」と号泣させる予定だったんですが、普通に鬱展開が書けなくてこんなになりました。
……シテ、……許シテ……。
実際『サトリ』の能力があったら、自分は絶対メンタルズタズタにされそうとか思っちゃう私は小心者。
次回もリクエストで『ネズミの嫁入り』を書かせていただきます。
どうぞお楽しみに!