姥捨山 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第七十六弾。
今回は『姥捨山』で書きました。
原作では、年寄りを捨てろという国の指示に逆らって母親を匿った息子が、国を襲う無理難題を母親の知恵で切り抜けるお話です。
追放……。
知識チート……。
やはり日本人は古来よりなろう系が大好きだった……(暴論)?
どうぞお楽しみください。
昔々ある国に、とても親孝行な息子がいました。
父親が早くに亡くなっているのもあってか、母親をそれはそれは大事にしていました。
しかしある時、国に御触れが出ました。
『働けぬ年寄りは養うに値しない
故に年寄りは山へ捨てるべし 』
とんでもない御触れです。
しかし逆らえば厳しいお叱りを受け、結局母親は捨てられてしまうでしょう。
「おらどうすればええんだべ……」
途方に暮れる息子に、母親は優しく言いました。
「気にする事はねぇ。御触れの通り、わしを山に捨てるべ」
「そんな……」
「捨てねばおめぇがお叱りを受ける。それがわしには何より辛い事じゃ」
「……」
男は迷いに迷いましたが、母親に何度も諭され、ついに母親を背負って山へと入りました。
山の中腹の洞穴に母親を下ろすと、息子は男泣きに泣きました。
「おっ母……! すまねぇ……! すまねぇ……!」
「大の男がそんなに泣くもんでねぇ。わしの事は心配しねぇで、気ぃ付けて帰るだぞ」
後ろ髪を引かれる思いで、息子は山を下りました。
しかしどうしても母親の事が頭から離れません。
(……やっぱり、産み育ててくれた母親を捨てるなんて間違ってるだ!)
息子はいても立ってもいられず、家の中で母親を匿う準備を整え、翌日山へと戻りました。
(おっ母……! 無事でいてくれ……!)
山を必死に駆け登った息子は、そこで信じられないものを見ました。
それは、
「……それで息子が、『おっ母に旨いもの食わせたかったからだ』って、泥だらけの顔で笑っただよ」
『くぅ〜! 良いのう! そういう話、もっと他にないか!?』
「あとは、わしが腰を痛めた時に、食事から風呂から便所まで、何から何まで世話してくれて……」
『うんうん!』
「わしが謝ると、『おらが子どもん時に毎日してもらった事だ。何にも気にする事はねぇ』って言うて……」
『おおおおお! 親子とはかくも強い絆で結ばれるものなのか……。妾も子を成してみたいものじゃ』
母親と真っ白い大蛇が、仲良く談笑している姿でした。
「お、おっ母……?」
「あっ! おめぇ、なして戻って来ただ! 知れたら大変なお叱りを受けるだよ!」
母親の、あくまで自分の身を案じる言葉に、息子の頭の中から大蛇の事はすっ飛びました。
「……おら、やっぱりおっ母を捨てるだなんてできねぇ!」
「……おめぇは本当に馬鹿だ……! そんなん言われたら、わしはどうしたらいいか……!」
「一緒に帰るべ! 床下掘って板さ敷いて、隠れられるようにしただ! 暗くて狭ぇのは勘弁してくれ! でもおっ母をこのままここに置いておく事はできねぇだ!」
「……んだども……」
そんな二人の様子を眺めていた大蛇が、堪えきれないといった様子で身をくねらせて叫びました。
『これがお前の倅か! 何という親思い! そしてお主の倅への思い! この山で神となって幾星霜、これほどまでに気持ちが昂った事はなかったぞ!』
興奮した様子の大蛇は、息子にずいっと顔を寄せます。
「ひっ……!」
『うむ! うむ! 怯えながらも母を見捨てて逃げるなど欠片も思っておらぬ目の色! 気に入った! 妾はお主達を気に入ったぞ!』
「え、あ、ありがとう、ございます……?」
『かような尊き絆を引き裂こうなどとは愚かな領主よ。滅ぼすのは簡単であるが、それではお主達も困るであろうな……』
少し考えた大蛇はにたりと笑いました。
『そうじゃ。山に年寄りを捨てた事で妾が不快を覚えたと、領主に無理難題を突き付けよう。そこでお主がその難題を解き、母の知恵であったと申すが良い』
「そ、そうしたらおらはおっ母と一緒に暮らせるだか!?」
『それだけではないぞ。国の危機を救った者として、暮らしに困らぬほどの褒美をもらえるであろう。どうじゃ? 悪い話ではなかろう?』
「ありがとうごぜぇます!」
「ありがとうごぜぇます!」
大蛇の言葉に、息子と母親は、地に額をつけて感謝を表します。
その頭を大蛇は、尻尾の先でとんとんと叩いて、顔を上げるよう促しました。
『よいよい。そのかわり策がうまくいった暁には、たまにお主達の家に遊びに行っても良いかのう? 無論人の姿に化けるでな』
「勿論ですだ! 是非遊びに来たくだせぇ!」
「精一杯のおもてなしをいたしますだ!」
『何、気を遣わんでよい。お主達の仲睦まじい姿が何よりのもてなしでな』
半年後、山の神からの難題を解いて国を救った英雄が、全ては年老いた母親の知恵と告白した事で、御触れは撤回され、年寄りを敬い大事にする国になりましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
仏教由来の話では天神が難題を持ってくるので、その流れに乗ってみました。
マッチポンプとか言っちゃダメ!
この後蛇神様による息子への『人の子を孕みとうなった』という異種婚展開もありだと思うのですが、誰か書きませんか(他力本願)?
次回は『大工と鬼六』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。