食わず女房 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第七十四弾です。
昨日は色々あって、急遽予定と違うものを投稿してしまい、すみませんでした。
今日こそ予告通り『食わず女房』で書きました。
どうぞお楽しみください。
昔々ある村に、ケチな男がいました。
無駄な事が嫌いで、節約したり値切ったりしてはお金やお米を溜め込んでいました。
家族もなく一人暮らしだったので、周りの人は結婚を勧めたりもしましたが、
「結婚したら嫁に飯を食わせなきゃならねぇ。服もねだったりするだろう。そんな無駄を喜んでする気がしれねぇ。ま、飯を食わねぇ嫁ならもらってやってもいいがな」
と言って取り合いません。
そんなある日、男の元に一人の美しい女がやってきました。
「あの、あなたは飯を食わない嫁が欲しいとおっしゃっていると聞きました」
「おう、それがどうした?」
「私は飯を食わなくても良い身体なのですが、それが不気味だと前の嫁ぎ先を追い出されました」
「ほう!」
「どうかお嫁さんにしてもらえませんでしょうか?」
「本当に飯を食わねぇなら、嫁にしてやらんでもない」
「ありがとうございます」
「それと服も買わねぇぞ? それでもいいか?」
「はい、構いません」
そうして女は男の家に住むようになりました。
女は朝早く起きては家の仕事をまめまめしく行いました。
しかも食事は全くしないので、男は、
(これは良い嫁をもらったぞ……)
とほくそ笑みました。
しかしある時、溜め込んだお金やお米の量を数えていた男は、お米の量が明らかに以前より減っている事に気が付きました。
(……泥棒か……? いや、なら金に手をつけてねぇのはおかしい……)
不審に思った男は、ある日仕事に出るふりをして蔵の屋根裏に隠れました。
しばらく待っていると蔵の扉が開き、女が入ってきました。
(……? 嫁が蔵に一体何の用だ?)
女は持ってきたタライに米俵からたっぷり米を移すと、蔵を出ていきました。
男は屋根裏から降り、静かにその後をつけると、家に戻った女は米を研ぎ、かまどに火を起こし、米を炊き始めました。
米が炊き上がると、その大量のご飯をおにぎりにしていきました。
「!」
男は驚いて息を呑みました。
女が下を向くと、頭の後ろにぱっくりと大きな口が開いたのです。
女は作ったおにぎりを、その口へとぽんぽん放り込んでいきます。
たくさんあったおにぎりはあっという間に無くなりました。
「おい!」
「!?」
男は扉を開けて叫びました。
女は驚いて目を見開きます。
「お、お前様……、お、お仕事は……?」
「蔵の米が減っていたから、何事かと思って隠れて見てあったんじゃ」
「……そう、ですか……。なら、すべて知ってしまったのですね……! ならば食」
「なしてそんな特技隠しとったんじゃ!」
「って、え!? 特技!?」
思わぬ言葉に女が怯んでいると、男は駆け寄ってその手を取りました。
「おらが金を貯めていたのは、日本中を旅するためじゃった! じゃがお前さんがいれば、各地の大食い大会の賞金で旅ができる! さ! すぐに旅支度じゃ!」
「え、あの、私が怖くないの、ですか……?」
女のおずおずとした問いに、男はきょとんと目を丸くしました。
「怖い? 飯をたくさん食えるのはありがてぇし、頭の後ろに口があるのは珍しいが、個性じゃろ?」
「……個、性……?」
ぽかんと開いた女の目に、涙がじわりと滲みます。
自分の正体を知ってもなお側にいる事を許されたのは、今回が初めてだったのです。
「……では、私はお前様の側にいてよろしいのですか?」
「何を言う! いてもらわねば困る!」
「ありがとうございます! 一生付いて行きます!」
この後、日本中の大食い大会を総なめにする夫婦の旅人が世間を騒がせる事になるのですが、それはまた別のお話。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
割れ鍋に綴じ蓋。
まぁ二人が幸せならそれで……。
各地の大食い大会の参加者はとんだ災難ですけどね。
次回は『桃太郎』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。