笠地蔵 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第七十一弾。
今回は『笠地蔵』でお送りします。
基本は原作準拠ですが、ちょっとスパイスを入れております。
どうぞお楽しみください。
昔々、ある山奥におじいさんとおばあさんが住んでいました。
二人は真面目に働き、質素な生活をしていましたが、何故か貧乏な暮らしから抜け出せずにいました。
年の瀬も近いある日、おじいさんはせっせと編んだ笠を持って町へと行きました。
新年を迎えるための餅が買えればと思ったのですが、雪が多い日だった事もあってか笠は売れず、おじいさんはとぼとぼと家へと帰りました。
その途中の事です。
「おや、これはこれは……」
おじいさんは道端に並んでいる六体のお地蔵さんに気が付きました。
折からの雪でお地蔵さんは頭に肩に、雪が積もっていました。
「これはこれは、お寒い事じゃろう」
おじいさんはお地蔵さんの頭や肩の雪を払い落とし、
「売れ残りで申し訳ねぇけど、ねぇよりマシだべ」
売り物の笠を被せていきました。
「あ、一つ足りねぇだな。ワシので申し訳ねぇが……」
最後のお地蔵さんには、自分が雪除けに被っていた手拭いを頭に巻いてあげました。
そして家に帰ったおじいさんは、おばあさんに笠が売れなかった事、その笠をお地蔵さんに被せてきた事を話しました。
「じい様、そりゃあえぇ事をしたのう」
「あぁ、餅が買えなかったのは残念だったが、なくとも年は迎えられるべ」
二人は爽やかな気持ちで笑い合いました。
するとその時です。
『くくく、餅は買えなかったか……。これで歳神はここには来れん……。ようやくこの家を支配できる……!』
『げへへ、うまくいきましたぜ』
不気味な声と共に、黒い外套を纏った男と、みすぼらしい服装の老人とが現れました。
「ひ、ひぃ……。なんじゃあ……」
「ば、ばけもんじゃ……」
『化け物とは失礼なばあさんだ。これでも神の一柱。もっとも厄神ではあるがな』
『儂は貧乏神じゃ。お前らは贅沢をしないから大分苦労させられたが、ようやく餅を買えないところまで追い込めた。歳神の加護がなければ、厄神様の天下よ!』
「そ、そんな……」
「わ、ワシらどうなるんじゃ……」
怯える二人に、厄神はにたりと微笑みかけます。
『なぁに。お前達には何もせん。ここを拠点に周囲の町や村に厄災をばら撒くだけだ。それによる負の感情が、私の力の源……』
『儂がいる限り貧乏じゃが、命があるだけ有り難いと思うんじゃな』
「そ、そんな……」
「や、やめてくだせぇ……! 町の人も村の人も、こんなじじばばに親切にしてくださる優しい方達でごぜぇます!」
『くくく……。いいぞ、その絶望の感情、心地良いな』
厄神が勝ち誇ったその時です。
「そこまでだ厄神!」
『何!?』
家の扉が開かれ、そこには六つの人影が凛と立っていました。
「悪を滅ぼす聖なる炎! ショウネツレッド!」
「悪を切り裂く黄金の刃! キョウカンイエロー!」
「悪を罰する蒼き涼風! トウカツブルー!」
「悪を捕らえる黒き縛縄! コクジョウブラック!」
「悪を惑わす桃色の香り! シュウゴウピンク!」
「そして悪を凍らす銀の吹雪! ハチカンシルバー!」
「六人揃って! 地獄戦隊エンマシックス!」
高らかに名乗った六人は、厄神と貧乏神に向かって構えを取ります。
「人々を脅かす悪神達よ! お前達の好きにはさせない!」
『ちっ、後一歩というところで……』
『や、厄神様、どうなさるのじゃ!?』
『知れた事! 我らの力を地獄に知らしめるまで!』
『む、無茶じゃ! 奴等地獄の直轄戦隊じゃぞ!?』
『何ほどの事がある! 我は厄神であるぞ! 続け貧乏神!』
『わ、儂は戦闘向きではありませんのにー!』
エンマシックスと厄神達はおじいさんとおばあさんの家を飛び出し、雪の舞う中激しい戦いを繰り広げます。
おじいさんとおばあさんは魂を抜かれたかのように、呆然とその様子を眺めていました。
「蒼き睡蓮よ! 悪を捕らえよ! ウバラフリーズ!」
ハチカンシルバーが地面に手を当てた瞬間、厄神と貧乏神の足元を氷の睡蓮が包み込みました。
『しまった!』
『う、動けんのじゃ……!』
「今だ!」
ハチカンシルバーの声に、五人が力を合わせて高めます。
頭上に現れた大きな釜が形を変えて、大砲の形になりました。
そこに鬼の金棒が装填されます。
「必殺! カナボウストライク!」
放たれた金棒は五色の光をまとって輝き、厄神と貧乏神を直撃しました。
『ぐわぁ!』
『ぎゃあ!』
大爆発と共に、厄神と貧乏神は消滅しました。
「……ばあさんや、これは、夢かの……?」
「そうかも、しれませんねぇ……」
呆然とする二人に、エンマシックスが近寄っていきます。
「ご安心ください。厄神と貧乏神は滅びました」
「まぁ時間が経てば、どこかで復活するでしょうけど……」
「貧乏神が去った事で、あなた方の暮らし向きも良くなる事でしょう」
「当座を凌ぐために、いくらかお米とお金、それにお餅をお持ちしました」
「これで良い年をお迎えくださいね」
「あ、ありがとうございます……。でも、何でこんなに親切にしてくだすったんで……?」
呆気に取られるおじいさんの言葉に、ハチカンシルバーがその手をそっと取りました。
「親切には親切を。我々は当たり前の事をしたまでです」
「親切……? し、失礼ですが、どこかでお会いした事がありましたかのう……?」
「これですよ」
目を白黒させるおじいさんに、ハチカンシルバーは首に巻いた布を見せました。
「あ! これはお地蔵様に巻いたワシの手拭い……! で、ではあなた方は……!」
「では良い年を!」
そう言い残すと、エンマシックスは夜の闇へと消えていきました。
「……ばあさん。あの方々は、さっき話したお地蔵様じゃあ……」
「何と……! じい様の功徳で助かったんじゃな……」
その後二人はそれまでの貧乏が嘘のように豊かになり、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
ハチカンシルバーは追加加入の強キャラ設定。
一人だけ装備が違うのがまた良いですよね。
「お地蔵さんなのに何で地獄?」と思われた方もいるかと思いますが、実は閻魔大王と地蔵菩薩は同一の存在とされているので、今回はその設定を活かしてみました。
カラーリングが現行戦隊と被ったのは偶然です。
地獄は色が乏しいんですよ……。
次話は『大きなかぶ』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。