シンデレラ その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第六十九弾。
今回は『シンデレラ』で書きました。
以前のシンデレラとかぶっている気もしますが、気にせず楽しんでもらえると嬉しいです。
昔々、あるところにそれはそれは美しい少女がいました。
少女の名前はエラ。
優しいお父さんとお母さんの元、幸せに暮らしていました。
しかしある時お母さんが亡くなり、少しして新しいお母さんと二人のお姉さんがやってきました。
「あんたがエラ!? 何て地味な服装!」
「お洒落ってものをご存知ないのですわ。あぁ可哀想」
「お前達、エラを可愛がってやるんだよ?」
「はいお母様!」
「たっぷり可愛がって差し上げますわ」
悪い事は続くもので、お父さんも病気で亡くなってしまいました。
エラは新しいお母さんと、二人のお姉さんの四人で暮らす事になりました。
エラは自分の部屋をもらえず、居間の暖炉の前で寝るように言われました。
そのせいで『灰かぶりのエラ』と呼ばれるようになったのです。
「あんたに部屋なんてあげないわ! あたし達と居間で寝るのよ! 肉親を失ったばかりで一人になると、悪い事ばっかり考えるんだから!」
「エラみたいに細いと風邪を引いた時の万が一が心配なので、暖炉の近くに寄せたベッドで寝る事。良いですわね?」
「エラ、もし嫌な夢を見たら、誰でもいいからすぐに起こしなさい。朝まで我慢するような事をしたら承知しませんからね」
その後も新しいお母さんとお姉さんは、シンデレラに厳しく接しました。
「エラ。貴女は将来行儀見習いとして王宮に上がらせます。その時に卓越した技能で、高貴な方から覚えめでたくなるのです。厳しく指導しますから覚悟なさい」
「社交界や王宮と縁がないと、良い結婚は難しいんですの。如何に見た目が美しくても、良縁は一瞬の好機を掴むかどうかで決まるのですから、努力と準備をしておかないと」
「エラの可愛さなら引く手数多だから、普段は地味な格好をしておきなさい! それでも変なのが絡んで来たら、絶対あたし達に言うのよ! 黙ってたら許さないから!」
そうしてシンデレラは質素な服を着させられ、家の仕事を全てやらされ、しかも毎日あれやこれやと文句を言われる事になったのでした。
お掃除をすれば、上のお姉さんが花瓶の後ろまで覗き込みます。
「エラ! 掃除は見えない所まで丁寧にやるのよ! そしてその仕事に気が付き、褒めてくれる人を忘れないように! 細やかな気遣いができる方との縁は一生の宝よ!」
食事を作れば、下のお姉さんが文句を言います。
「エラ。肉は強火で表面を焼き固めないと、肉汁が逃げてしまいますわ。万が一焦がしても私達が全て無駄にせず食べますから、もっと強気で焼きなさい!」
洗濯をすれば、上のお姉さんが横から手を出してきます。
「もう! 下手ね! 洗濯の上達は必要だけど、その綺麗な手が傷だらけになったら意味ないじゃない! 鈍臭いわね! 貸しなさい! 洗濯板はこうやって使うのよ!」
食器を洗えば、下のお姉さんがその手を無理に止めさせました。
「エラったら、漬け置きも知らないんですの? お皿を桶に漬けたら汚れが浮くまで、暖炉で手を暖めなさい。その間、私がマナーを教えますからサボりにはなりません」
こうしてシンデレラは、家の仕事ばかりをさせられる日々を送りました。
そんなある日、お城で王子様のお嫁さんを探す舞踏会が開かれるという知らせが舞い込みました。
しかし新しいお母さんとお姉さんは、シンデレラに家に残るよう言いました。
「いいかいエラ。これは予定外の事態。今からでは舞踏会を踊り切る程の技量は身に付かない。ですから奇策に打って出ます。題して、遅れてやって来た主人公大作戦!」
「ダンスはあたしがみっちり仕込んであげるわ! 厳しく行くから、辛さや痛みがあったらすぐに言いなさい! 本番までベストコンディションを保ったまま鍛えるわよ!」
「私は馬車の手配と時間管理をいたしますわ。エラが到着する直前に私かお姉様が王子様の相手になるように。そして数曲踊ったら十二時の鐘が鳴るように」
そして舞踏会の夜、やってきた魔法使いのお陰で、素敵なドレスとカボチャの馬車が用意されました。
馬車に乗ったシンデレラは、城へと到着しました。
「! 予定との誤差二分。上々ですわ。お姉様に合図を送りましょう」
「……! 王子様、大変楽しい時間でしたわ。あら、今頃到着した令嬢がいらっしゃっるようですわ。こんな時間に来るなんて……、ま……! 何て美しい……!」
「さぁ行きなさいエラ。若干狙いとはずれましたが、それでもここまで私達の指導をやり遂げた自分を信じるのです。そして幸せを掴み取りなさい」
シンデレラと王子様は手を取り合って踊り、夢のような時間を過ごしました。
そして十二時の鐘が鳴りました。
シンデレラは王子様から離れ、お城の出口へと急ぎます。
「何してるのエラ! あんたは限界まで頑張ったんだから、自力で走ろうとしないでおんぶされなさい! ……ばっかねぇ! あんたが重いわけないでしょ!?」
「全くエラはしょうがない子だね。もたもたしてるから追いつかれそうじゃない。私が足止めします。大丈夫、後から必ず追いつきますから」
「お母様……。王子様にヒントとして残す、エラの靴です。……ご武運を……」
シンデレラの靴を手に入れた王子様は、翌日から国中にお触れを出し、シンデレラを探し始めました。
「あらあら。王子様ったら必死ですわね。でもまだまだ焦らさないといけませんわね。二度と手放したくないと思えるくらいに」
「見た見た!? お城でエラを追おうとしていた時の必死な顔! あれはもう落ちたも同然だと思うけど!?」
「落ち着きなさい二人とも。ここでエラと王子様が会えば、それが今生の別れとなるやもしれません。家族としての最後の時間を、噛み締めて暮らすのです」
そして王子様はシンデレラの家に辿り着きました。
王子様が差し出した靴は、シンデレラの足にぴったりはまりました。
喜んだ王子様はシンデレラにプロポーズをしました。
涙を流しながら喜んだシンデレラはプロポーズを受け入れ、お城でいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
げ、原作準拠……(震え声)。
ちなみに厳しいようでいて優しい義姉妹と義母を書こうと思っていたら、とある漫画に引っ張られました。
わかった人は僕と握手!
次回は七十回。キリ番企画です。
元ネタを隠してのお話となりますので、推理しつつお楽しみください。