表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/171

人魚姫 その三

遅くなりましたが日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第六十八弾。

今回の話は『人魚姫』です。

以前は力業で片付けてしまいましたので、今回は原作に寄せてみました。

ハッピーエンドは相変わらずです。

どうぞお楽しみください。

 昔々ある海の底に、海の生き物の国がありました。

 その国には美しい人魚姫がいました。

 人魚姫は時々海を通る船から落ちる、人間の世界の物に興味津々。

 様々な物を集めてはコレクションにしていました。

 そんなある日の事。


「嵐だわ。こういう日には、人間は積荷を海に渡してくれる事があるのよね」


 人魚姫は海の上に顔を出してみました。

 折しも大きな船が、近くを通っているところでした。


「あ! 人が!」


 人魚姫は嵐に荒れる海をものともせず、波間でもがく青年を助け上げました。


「わぷっ! はぁ、はぁ……。た、助かった……?」

「わ、素敵な人……」


 人魚姫はその青年の美しさに目を奪われました。

 すると船から叫び声が聞こえました。


「王子ー! 大丈夫ですか王子ー! 誰か! 早くお助けしろ!」


(……! この人は王子様なのね……)


「き、君は……? 何故海に……?」


 人魚姫は意識が朦朧としている王子様をじっと見つめると、悲しそうな顔をしました。


(このまま一緒にいたいけど、あなたは海の中じゃ暮らせないものね……。でも私じゃ船の上まで上げられないから、岸に連れて行きましょう)


 人魚姫は、王子様を抱えて泳ぎ始めました。


「お、おい! 誰かが王子を連れて岸に向かっているぞ! 急いで追え!」

「し、しかしこの嵐では……!」

「王子を海で見失ったなんて知れたら、本当の意味で首が飛ぶぞ! 何としてでも追いかけろ!」

「はいぃ!」


 船が方向転換に四苦八苦する間に、人魚姫は王子様を抱えてすいすいと泳いでいきました。


「……あ、ありがと、ぶはっ……?」

「喋ると水を飲んでしまうわ。必ず岸に送り届けるから安心して」

「……何て、美しい、声……」

「!」


 王子様はそう言うと、気を失いました。

 人魚姫は王子様を岸まで届けると、じっとその顔を見つめます。


「あ! 波打ち際に誰かいる! おーい! 何かあったかー!?」

「!」


 人の声に人魚姫は海へと帰って行きました。

 しかしその後も王子様の事が忘れられません。

 そこで海の底の魔女に相談しに行きました。


「……陸に上がりたい、だって……? 陸かぶれもそこまで来たかい……。ヒレを足に変える薬はあるけど、ただでは上げられないねえ……」

「何をあげれば良いですか?」

「その声を寄越しな」

「!」


 王子様が美しいと褒めてくれた声。

 一瞬ためらいましたが、人魚姫は決断しました。


「声をあげます。だから薬をください」

「……そこまでして陸に上がりたいかねぇ……。わかったよ」


 魔女は不機嫌そうにそう言うと、人魚姫の声を魔法で抜き取り、薬を渡しました。

 人魚姫は王子様を届けた岸に行き、もらった薬を飲むと、ヒレが足に変わりました。


(これで王子様に会いに行ける……!)


 折しも王子様が、嵐の日に助けてくれた美しい声の女性を海岸で探していました。


「あ! あそこにいる人はもしかして!」


 王子様は人魚姫を見つけて駆け寄りました。

 人魚姫も王子様に会えて喜びました。

 しかし声が出せません。


「可哀想に……。私も以前溺れた時は、塩水のせいか、喉を痛めたものだ。とりあえず城で手当てをしよう」


 王子様は人魚姫をお城へと連れて行きました。

 暖かな手当てを受けた人魚姫でしたが、魔女に取られた声が戻る事はありません。


「困ったな……。どこの誰かわかれば、送り届けてあげられるのに……。君、字は書けるかい?」


 王子様は蝋板ろうばんを人魚姫に渡しました。

 蝋板とは、枠を取り付けた板に蝋を厚く塗ったものです。

 尖筆せんぴつという尖った道具で字を書ける道具でした。


「!」


 海の生き物の国では、字を書くという習慣がありませんでした。

 しかし人魚姫は、海に沈んだ荷物を集めていたので、蝋板を使った事がありました。


(あっ! これ海の底で使ったものだわ!)


 そこに人魚姫は、沈んできた荷物に書いてあった文字を片っ端から書いてみました。


「あ! 字が書けるんだね! ……でも『東帝国から西教国へ』……? 『塩漬け肉 金貨十枚分』……? 何だこれ……?」


 人魚姫はただ図形のように字を覚えていたので、王子様に人魚姫の事情は伝わりません。

 しかしある文字で、王子様の表情が変わりました。


「『海の神よ このほこを納め 怒りを鎮めたまえ』……。これは去年の海神祭で海に贈った鉾に彫った文字……。神聖なものだから厳重に封印して沈めたのに……」


 その時王子様の脳に電流が走ります。


「まさか君は海の底に住むという人魚……!?」

「! !」


 頷く人魚姫に、王子様は目を見開きます。


「嵐の日に僕を助けてくれたのも、もしかして君か……?」

「! !」


 人魚姫の激しい頷きに、王子様の顔が驚きと喜びに満ちます。


「あの時は本当にありがとう! 君が助けてくれなかったら僕の命はなかっただろう! 本当にありがとう!」

「〜〜〜!」


 伝わった嬉しさを言葉で表現できない人魚姫は、王子様の胸に飛び込みました。

 驚きながらも王子様は人魚姫を抱き止めます。


「……も、もしかして、だけど、僕に会うために人間の姿になってくれたのかい? 声が出ないのもそのせいで……?」

「……!」


 答えの代わりに人魚姫は王子様を強く抱きしめます。


「そう、なんだ……。僕もだ。ずっと君に会いたかった……。お礼もそうだけど、その、あの時からずっと君の事が……!」

「!」


 二人はじっと見つめ合い、そのまま吸い寄せられるようにキスを交わしました。




 この後、王子様から文字を教わった人魚姫は、海の生き物達にも文字を伝え、相互の理解と交流を深めました。

 それにより、人間の国と海の生き物の国は国交を樹立しました。


「……あんた、国を捨てたんじゃなかったんだね。ここまで海の国のために働くなんて……。じゃあこいつは返すよ。……まぁ結婚祝いだと思って受け取りな」


 魔女に声も返してもらい、王子様と結婚した人魚姫は、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。

 

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


王子様に意思を伝えるのが、その一ではダンス、その二では筋肉だったので、今回は知的にまとめてみました。

最初は人魚姫が地上の言葉をマスターしている設定にしようかと思いましたが、文字だけで意味まで理解して使いこなすのは無理があると思い、こうなりました。

結果王子様の察する能力がエスパー並みになりましたが、鈍感系王子様だったら泡になるしかないじゃない!なのでお許しください。

王子様のお祖父様が名探偵の可能性が微粒子レベルで存在する……?



次回は『シンデレラ』で書こうと思います。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最初、人魚姫が積み荷を海に渡してくれると言っていたり、コレクションにしているとあったので、王子様も美しいからコレクションにしましょう、とならなくて良かったです(笑) 王子様もとても良い人…
[一言] いい感じで終わりましたね! なんか、悪役がいないディズニーアニメみたいな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ