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ヘンゼルとグレーテル その二

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第六十七弾。

今回は『ヘンゼルとグレーテル』です。

これまでの比じゃないくらい遊んでますが、どうかご容赦ください。

 昔々、ある貧しい村に、ヘンゼルとグレーテルという兄妹が住んでいました。

 二人はある父娘に養われていました。

 ある日の事。


「あー! 狩人(ハンター)って言っても、こうも依頼がねぇんじゃ商売あがったりだぜ!」

「大丈夫よお父さん! 私が樹を蹴り倒して薪にして売ってくるから!」


 そんな話をしていた父アーキラーと娘ワカーニャに、ヘンゼルは子どもらしい声で言いました。


「ねーねーおじさん、ワカ姉ちゃん。ボク、グレーテルと森に行ってきてもいいかなー?」

「ダメよヘンゼル君! 森の中には子どもを食べる悪い魔女がいるって噂があるんだから!」

「大丈夫だよー。危ないところには行かないからー。ねー、いいでしょー?」


 ヘンゼルのおねだりに、アーキラーは茶を飲み干しながら言いました。


「けっ! その生意気なガキなら平気だろうよ! 何たって『帰らずの森』の奥から妹連れて出てきたくらいだしよ! 全く薄気味悪いガキだぜ!」

「お父さん! そんな言い方ないでしょ!?」

「ハハハ……。じゃあボク達行ってくるねー」

「あっ、ヘンゼル君! ……もう!」


 ヘンゼルはグレーテルの手を取って、森へと駆けて行きました。

 少し行くと、手を振り払ったグレーテルが、冷たい声で言いました。


「で? これからどうするの? まさか食い扶持を減らすための家出ってわけじゃないんでしょう?」

「バッキャロー。そんな事したらおっちゃんはともかく、ワカーニャが悲しむだろ」

「そうね。あのお人好しっぷりは底なしだもの」

「……オメー、ワカーニャの事嫌いなのか?」

「嫌いじゃないわ。好きでもないけど」

「……ったく……」


 やれやれと息を吐くヘンゼルに、グレーテルが更に言葉を続けます。


「で? 何をするつもり? 今の子どもの身体じゃ大した事はできないわよ?」

「今ワカーニャから聞いたばかりだろ? 森に住む子どもを食う魔女の噂。そいつは財宝を大量に溜め込んでいるらしい……」

「……まさか、それを奪ってあの家に与えるつもりじゃないでしょうね」

「奪うわけじゃねーよ! ただ捕まえておっちゃん名義で衛兵に引き渡したら、没収した財宝からいくらか謝礼が出るだろう? それ狙いだよ」

「呆れた……。そもそも魔女の居場所を知ってるの?」


 呆れ果てた声を出すグレーテルに、ヘンゼルはにやりと笑いました。


「……バッキャロー。オレ達が魔女を探すんじゃねーよ。あっちに見つけてもらうのさ」

「……成程。それならこの子どもの姿が最適ね」

「そういう事。……お、噂をすれば……」


 魔法による隠蔽が解け、二人の行手にお菓子でできた家が現れました。


「で、作戦は?」

「ここに来るまでに結界魔法を練り込んだパンクズを置いてきている。そいつを発動すれば……」

「成程、結界同士が交差する形で別の結界を張れば、お互い干渉して打ち消し合うわけね」

「そう。そしてこいつさ」


 ヘンゼルは筒を地面に置くと、さっと火をつけます。

 するとそこから赤い煙が真っ直ぐに立ち上りました。


「成程。衛兵達は魔女の居場所探しに躍起になってる。そこに不審な赤い煙が上がれば……」

「サフリン隊長か、その部下のワタール隊士辺りが出張ってくるだろうな。で、結界さえなければここを見つけるのは簡単だ」

「でもこれじゃあ衛兵の手柄になるだけじゃない?」

「このままなら、な」


 ヘンゼルはニヤリと笑いました。




「あれれ〜? お菓子の家だけにおっかし〜な〜?」


 ヘンゼルの不自然に明るい声を聞いた魔女は、ニヤリと笑いました。


(ククク、来た来た……。何も知らない子どもが二人も……。さぁ、このお菓子の家の魅力に溺れるがいい!)


「お菓子の家なのに、虫が全然寄って来てないよ〜? これはきっと偽物なんだな〜」

「そうね。本物だとしても、雨風にさらされたお菓子なんて身体に悪そうだわ」


(な、何!? そんな細かいところ気にする!? こまっしゃくれたガキ共めぇ……! こうなったら直接家に引っ張り込んで……!)


 焦った魔女は扉を開けて出てきました。


「やぁ坊や達。道に迷ったのかい? よければこの家で休んで行くかい?」

「本当〜?」

「あぁ、遠慮する事はないよ」

「わーい」

「……お邪魔するわ」


 二人を招き入れて魔女はほくそ笑みました。


(さぁ、後は捕まえて太らせて、金持ちの好事家に売っ払う! 魔法でこの場所は絶対見つからないし、最高の商売だ!)


「ねーねー、おばあさーん」

「な、何だい坊や?」

「……未成年者を保護者の同意なく家に入れる行為が、誘拐罪になるって知ってる?」

「!?」


 突然低く重くなったヘンゼルの声とその内容に、魔女は耳を疑いました。


「しかも誘拐はその目的によっても罪の重さが変化する。子どもを食べようなんて理由だったら、裁判でも重い罪が課せられるだろうね」

「た、食べようとなんてしていない! 私は子どもを欲しがる金持ちに高値で売り払って……!」

「……へぇ……?」

「はっ!?」


 口を抑える魔女に、ヘンゼルは不敵な笑みを浮かべます。


「やっぱり営利誘拐が目的か。となると顧客名簿があるはずだな」

「ぐっ……!」

「グレーテル、その引き出しだ。おそらく二重底になっている」

「はいはい、妹使いの荒いお兄様だコト」


 魔女の視線を読んだヘンゼルの指示に、グレーテルは素早く動きます。


「あっ、待て……!」

「おっと、通さねーよ」


 ヘンゼルが立ち塞がり時間を稼いだ隙に、グレーテルは引き出しの鍵を解除し、中から書類を見つけ出しました。


「これね。……あらあら、随分と有名な名前が載っているわね。私達にかかっている子ども化魔法を開発した『悪夢の賢者(ナイトメア・ワイズ)』に繋がる情報はなさそうだけど」

「そりゃあこんな小物がアイツらと繋がってるワケねぇっての」

「お、おのれ……! 何だかわからんが、それを知られたからには生かして帰さんぞ……!」

「無駄な抵抗は諦めな。結界は解除した上に、狼煙を上げている。もうすぐ衛兵が押し寄せて……、お、噂をすれば蹄の音だ」

「なっ……!?」


 怒りで真っ赤になっていた魔女の顔が、遠くから聞こえてくる地響きのような音に蒼白になりました。


「ば、馬鹿な……! あの結界をどうやって……!?」

「結界を交差させる形で発動すれば、その強さに関わらず対消滅させる事ができるのさ。知らなかったのか?」

「そ、そんな……。お、お前一体何者……?」


 膝をつき、絶望の表情を浮かべる魔女の言葉に、ヘンゼルは眼鏡を光らせて答えます。


「ヘンゼル・エドガー。狩人ハンターさ」

「……!」


 魔女は自分の犯罪が『狩り(ハント)』された事を知り、がっくりと膝をつきました。




「ヘンゼル君! グレーテルちゃん! 大丈夫だった!?」

「わ、ワカ姉ちゃん……」

「……」


 衛兵からの知らせを聞いて駆けつけたワカーニャに抱きしめられ、慌てるヘンゼルと迷惑そうなグレーテル。


「どこも怪我はない!? 痛いとか苦しいとかない!?」


 言いながら抱きしめるワカーニャに、ヘンゼルは若干顔を緩めます。


(苦しいっていうなら今このハグだけど、この柔らかさは捨てがたい……)


「ふんっ」

「痛って! 何すんだグレーテル!」

「……」


 足を踏まれ、思わずワカーニャの腕から逃れて怒鳴るヘンゼルに、グレーテルはそっぽを向きました。


「良かった、元気そうで……」

「ごめんねワカ姉ちゃん、心配かけて……」

「ううん、二人が無事ならそれで……」

「ワカ姉ちゃん……」


 涙ぐむワカーニャを、じっと見つめるヘンゼル。

 その頭に、拳が打ち下ろされました。


「こんのガキィ! なぁにが危ないとこには行かない、だ! サフリン隊長殿に迷惑をかけやがって!」

「ちょっとお父さん!」

「痛って〜……」

「自業自得ね」


 ヘンゼルは涙目になりながら、コブの生えた頭を押さえます。

 そこに魔女の移送の手続きを終えた、衛兵隊長のサフリンがやってきました。


「おぉ、ここにいたかアーキラー君!」

「はっ! サフリン隊長殿! この度はご迷惑を……!」

「迷惑? 何の事だね? お手柄だったじゃないか!」

「へ?」


 目が点になるアーキラーに、サフリンが首を傾げます。


「おや? 今回の犯人は君が居場所を推理し、ヘンゼル君とグレーテルちゃんが君の名で自首を勧めに来たら観念したと聞いたが……、違うのか?」


 ヘンゼルが魔女に『罪が軽くなる』と言い含めた話に、身に覚えのないアーキラーは戸惑いながらも頷きました。


「え、えーっと、そ、そうです! この程度の事件など、この名狩人(ハンター)アーキラー・モリーにかかればチョチョイで解決であります! だーっはっはっはっ!」

「おおー! さすがはアーキラー君だ! ではこれは解決の報酬だ! 受け取りたまえ!」


 調子良く胸を張るアーキラーに、サフリンが金貨の入った袋を渡します。


「こ、こんなに!?」

「何を言っとるんだ君ぃ。これまで衛兵総出でも、尻尾の掴めなかった難事件を即解決(ハント)したんだからな! 流石名狩人(ハンター)! 今後も頼りにしておるよ!」

「お、お任せください隊長殿!」

「ではワシらはこれで失礼するよ」

「お気をつけて!」


 衛兵達が立ち去るのを見送って、アーキラーはヘンゼルに目を向けました。


(得体の知れないガキだが、コイツを預かってから色々うまくいくなぁ……。追い出そうかと思ってたけど、しばらく様子を見るか……)


 そして手の中の金貨袋の重みに、にへっと表情を崩します。


「よぉーし! 今日は無事にヘンゼルとグレーテルが戻って来た祝いだ! ぱーっと飲みに行くぞー! ぱーっと!」

「ちょ、お父さん!?」

「お前達にもご馳走食わせてやるぞー! さぁ付いてこーい!」


 そんな浮かれるアーキラーを眺めながら、ヘンゼルはジト目で呟きました。


「ハハ……、調子いーな、おっちゃん……。ま、お相伴に預かるとすっか!」


 そんなヘンゼルをグレーテルの肘がつつきます。


「浮かれるのも結構だけど、『悪夢の賢者(ナイトメア・ワイズ)』を捕まえて元の姿に戻る目的を忘れないでほしいものね」

「バッキャロー、忘れちゃいねーよ。これでおっちゃんの名声が高まればアイツらの情報だって掴める可能性が出てくるだろ?」

「そ。ならいいけど、あんまりワカーニャに鼻の下を伸ばさないようにね、お・に・い・さ・ま」

「ば、バッキャロー! 誰が鼻の下伸ばしてるって言うんだ!」


 小声で言い合うヘンゼルとグレーテルに、ワカーニャが手を振りました。


「ヘンゼルくーん! グレーテルちゃーん! 早くおいでー!」

「……だとよ。さ、行こうぜグレーテル」

「はいはい、子どものフリも楽じゃないわね」


 この後の捜査で子どもを買った金持ちが芋づる式に検挙され、子ども達は皆無事に親元に帰されましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


……妙だな。

「あれれ〜? お菓子の家だけにおっかし〜な〜?」

それだけのために四千字も書く必要があったのか……?


ないです(迫真)。


なおヘンゼルは『悪夢の賢者(ナイトメア・ワイズ)』を追っている最中、子ども化魔法をかけられた狩人ハンターです。

グレーテルは『悪夢の賢者(ナイトメア・ワイズ)』に所属する魔道士でしたが、その残酷な方針に嫌気がさして、解除方法がまだ確立していない子ども化魔法を自分にかけて離脱しました。

実の兄妹ではないのですが、都合が良いのでこういう役割になってます。


関係ないですけど、指示語だけで会話が成立する現象を私は『名探偵症候群』と読んでいます。


「おい、あれ気付いたか?」

「あぁ、何であの人はあの時あんな事を言ったんだろうな」

「せや! そこなんや! ……つまりあの人はあれをまだ見つけとらんっちゅー事や」

「つまりあれさえ先に見つければ……」

「動かぬ証拠になるっちゅー話やな……」

(悪い顔する二人)


ね?

関係ないですけど。


次回は『人魚姫』で書きたいと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 子ども化とか、エドガー、探偵ではなく、何故かアーキラーとサフリンのやり取りでパロディ元がようやく分かりました(笑) ヘンゼルとグレーテル以外の名前の元ネタは各キャラの声優さん、アーキラー…
[一言] あれ? グレーテルって・・・ 灰原みたいだ・・・
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