泣いた赤鬼 その二
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第六十二弾です。
今回は『泣いた赤鬼』ですが、若干お子様向けではない表現が含まれております。
お気をつけてお楽しみください。
「茶番はそこまでだ」
凛とした女性の声に、取っ組み合いをしていた赤鬼と青鬼は動きを止めました。
声のした方に顔を向けると、巫女の装束を纏った二十歳前後の女性が腕を組んで立っていました。
「茶番だと? 女ぁ! 何をふざけた事を言っている!」
本質をあっさり看破された動揺を隠しつつ、青鬼が凄みますが、巫女は動じた様子もなく、側の十代後半と見える巫女を呼びます。
「珊瑚。村の被害は?」
「はい瑠璃姉様。死者なし。怪我人なし。壊されたのは朽ちた桶が三つと、使い物にならない荷車一台です」
「だそうだ」
瑠璃と呼ばれた巫女は、青鬼に向かって鼻で笑います。
「人を攻撃しない威嚇だけの大暴れ。価値のないものだけを選んだ破壊行為。お互いに怪我をしないように手加減をした取っ組み合い。これが茶番でないなら何だ?」
「ぐっ……!」
言葉に詰まる青鬼に、瑠璃は勝ち誇った目を向けます。
「大方そちらの赤鬼を英雄に仕立てて、村に潜り込ませようとしていたのだろう。何が目的だ?」
「お、おらのせいだ……」
言い逃れはできないと観念した赤鬼が、ぽつぽつと話し始めました。
「おらが人間と仲良くしてぇって言ったから、こいつが一芝居打とうって言ってくれたんだ……。悪いのはおらなんだ……」
「こいつは普通に仲良くしようと、お茶やお菓子を用意したり、家の前に看板を立てたりしたが避けられていたんだ! ……やり方が悪かったのは謝る……」
項垂れる二人の鬼に、瑠璃はにたりと笑いました。
「害意がないのはわかった。だが村の役に立たないものを受け入れる余地などない」
「な、何でもするだ! きっと役に立つだ! だから……!」
「俺からも頼む! こいつは乱暴な鬼の中では生きられないくらい、気のいい奴なんだ!」
「よかろう。では明日、山の中腹にある神社まで来い。そこでお前達を見極めるとしよう。今日のところは立ち去れ」
そう言い捨てると、瑠璃は珊瑚を伴って去っていきました。
翌日。
「何をさせられるんだろうなおら達……」
「何、人間の出す課題など、鬼の力なら簡単に超えられる。無理なら他の村を目指せばいいだけだ」
「そ、そうだな!」
二人はそんな話をしながら、山の中腹にある神社までやって来ました。
「あの、言われた通り来まし」
「だーかーら! 青攻めの赤受けが自然だって言ってるの! 気弱な赤を青が導くのの何が悪いの!?」
「瑠璃姉様は王道にこだわりすぎです! 赤が気弱の裏に隠し持っていた激しい気持ちを、青が戸惑いながらも受け止めていく様が美しいのでしょう!?」
「む……! そ、それはそれで意外性はあるかも知れないけど、青が赤のために自分が罪を被る心意気がまるで表現できていないのよ!」
「う……。それを言われると……。で、でも青の覚悟を知った赤に強い気持ちが芽生えたとしたら、それはそれで説得力があるのではないですか?」
「た、確かに……。こうなったら二人が来たところで実際に……! あ! 丁度いいところに!」
昨日の凛とした様子とは打って変わった激しい雰囲気に、赤鬼も青鬼もドン引きでした。
「と、取り込み中ならまた改めて……」
「そ、そうだな。ではこれにて失礼する……」
「待ちなさい!」
『はい!』
瑠璃の凄まじい気迫に、鬼二人は直立不動になりました。
「まずは赤鬼! そこの壁に背をつけて!」
「は、はい!」
「で、青鬼は赤鬼が逃げられないように、手を壁に背を押しつけて!」
「こ、こうか?」
「赤は気恥ずかしそうに目を逸らして、青は逸らす事を許さないように軽く覗き込む! ほーら見なさい! この絵になる構図! やはり青赤よ!」
「ぐぬぬ、やはり瑠璃姉様は良い絵を描く……! でも私も負けていられない!」
勝ち誇る瑠璃に悔しげにうめくと、珊瑚も鬼二人に指示を飛ばします。
「青が寝そべって、その上に赤が覆いかぶさって! 赤は思い詰めた顔で、青は驚いた後優しく微笑んで! どうですか瑠璃姉様! このえも言われぬ姿は!」
「くっ……! 流石ね珊瑚……! 確かにこの絵も美しい……! ならば! 二人とも立ち上がって、青が赤の顎を指先でくいっと持ち上げて!」
「あ! ずるい! それは私がやろうと思っていたのに!」
「珊瑚は赤攻め青受けなのだから、赤に青の顎をくいってやらせればいいでしょう!? 私の真似をしないでよ!」
「違いますー! 一度赤が想いのあまり抱きついて、青の戸惑いを受けて『おら気持ち悪いだな……』って落ち込んだ赤の顎をくいってするんですー! 全然違いますー!」
言い争う巫女姉妹に、赤鬼と青鬼は溜息をこぼしました。
「おら達、何やらされているんだ……?」
「……わからんが、逆らえる気がしない……」
絶望の薄ら笑いを浮かべる二人に、巫女姉妹は容赦なく言葉を飛ばします。
「ほらほら! 早く立って顎にくいってやりなさい! 次の絵草紙の内容が決まらないでしょ!?」
「決まるまでは何度でもやってもらいますからね!」
『あはは……』
二人は乾いた笑いと共に、二筋の涙を流しましたとさ。
読了ありがとうございます。
腐ってやがる……!
遅すぎたんだ……!
なお姉妹巫女の名前は宝石からと思いきや、花から取りました。
姉は瑠璃唐草。
妹は壷珊瑚。
花の色の対比で選びました。
ちなみに私自身にはBL趣味はありませんが、大学時代の後輩が詳しく、色々と語られました。
人生何がどこで役に立つかわからない……。
とはいえこのままでは赤鬼青鬼が可哀想な気もするので、次回は子どもに語れるバージョンをもう一つお送りしたいと思います。
よろしくお願いいたします。