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雪白と薔薇紅 その一

お待たせしました。

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第五十九弾。

今回は『雪白と薔薇紅』です。

ややマイナーかなと思いましたので、中盤までは原作に寄せてみました。

原作に寄せると、どうしても長くなりますね……。

後半は思いっきり遊んでます。

どうぞお楽しみください。

 昔々あるところに、雪白ゆきしろ薔薇紅ばらべにという姉妹がいました。

 二人は森の中で、お母さんと三人で暮らしていました。

 二人はとても心優しい女の子で、森の動物達にもとても親切でした。


「はい、ウサギさん。クローバーの葉っぱよ」

「リスさんはどんぐりね」


 動物達もこの姉妹が大好きでした。


「今日はあったかいね」

「お昼寝していこうか」


 と二人で寄り添って眠るのを『尊い……』と眺めたり、


「ウサギさん、あったかくて柔らかい……」

「んもう、薔薇紅。私だって負けてないもん」


 と薔薇紅を抱きしめる雪白を『尊い……』と眺めたり、


「あ、雪白。ほっぺにサンドイッチのソース付いてる」

「え、どこ? やだ、薔薇紅、くすぐったいよ」


 と雪白の頬を舐める薔薇紅を『尊い……』と眺めたりしていました。

 さて冬のある日。

 暖炉の側でお母さんに二人が本を読んでもらっていた時の事です。

 表の戸がどんどんと叩かれました。


「こ、こんな時間に誰だろう……」

「だ、大丈夫……! 雪白とお母さんは、わ、私が守るから……!」


 身を寄せ合う二人を『尊い……』と思いながら、お母さんが戸を開けると、そこには熊がいました。


「きゃー! 熊! 熊よ! 雪白! 逃げて!」

「わ、私を食べてもいいから、薔薇紅とお母さんは助けて!」


 熊は二人がかばい合う姿を見て『尊い……』と思いながら、慌てて弁明しました。


「あの、僕はあなた方に危害を加えるつもりはありません。少しだけ暖炉の側で暖まりたいだけなのです」

「そうでしたの。雪白、薔薇紅。熊さんの雪を落としておあげ」


 お母さんにそう言われて、二人は恐る恐る熊に近付きました。

 そしてその優しそうな目を見上げて少し安心した二人は、箒で熊の雪を払ってあげました。


「ありがとう。可愛くて優しいお嬢さん」

「そうでしょ! 薔薇紅は自慢の妹なんだから!」

「雪白! 熊さんは雪白の事を誉めたのよ! 私よりうーんと可愛くて優しいお姉ちゃんだもの!」

「あ、いえ、二人とも同じくらい可愛くて優しいです」


 熊が慌てて言うと、二人はにっこり笑いました。


「同じくらいだってー」

「お揃いだねー」


 熊は『尊い……』と思いながら、暖炉の近くに座りました。

 すると雪白が熊の膝に、薔薇紅が熊の背中に乗りました。


「毛皮もふもふー」

「おっきい背中ー」


 熊は尊さのあまり死にそうになるのを辛うじて堪えながら、暖炉に当たっていました。

 その後も熊はたびたび三人の家を訪れては、雪白と薔薇紅と遊んだり、薪などの重たいものを運んだりして過ごしました。

 あっという間に冬は過ぎて春。

 熊は三人に別れを告げました。


「雪が溶けたら、悪い小人が現れるんだ。僕はそいつと戦わなくちゃいけない」

「行っちゃやだよー」

「熊さんいないと寂しいよー」

「ふぐぅ」


 熊は目に涙を溜める雪白と薔薇紅の姿に血を吐きそうになるほど悩みましたが、ぎりぎり踏みとどまって家を去りました。


「また来てねー!」

「約束だよー!」




 熊を見送った数日後、二人が森の中を歩いていると、


「うぎー! くそー! 抜けろー!」


 何やら必死に叫ぶ声が聞こえました。

 二人が駆け寄ると、小人が長い髭を木に挟まれてもがいているのが見えました。


「どうしたの小人さん?」

「大丈夫?」

「これが大丈夫に見えるかこの間抜けめ! 木を切ろうとしたら楔が抜けて、髭が挟まったんじゃ! ぼさっとしとらんで助けんか!」

「あ、ごめんなさい……」

「す、すぐ助けます……」


 雪白と薔薇紅は慌てて助けに入りました。

 しかしがっちり挟まっていて、髭は抜けそうにありません。


「えぇい! うすのろめ! 早く助けんか!」


 仕方なく雪白はポケットからハサミを出して、小人の髭を切りました。

 すると解放された小人はぷりぷり怒りました。


「ワシの自慢の髭を切るとは、センスの欠片もない奴め! 罰でも当たれ!」


 悪態をつくと、金でいっぱいの袋を担いでどこかへ行ってしまいました。




 また別の日、雪白と薔薇紅が川沿いの道を歩いていると、


「えぇい! くそ! 離せ! 離さんか!」


 川に向かって叫ぶ小人を見つけました。

 よく見ると小人は、手に持った釣り竿の糸と髭が絡まり、しかもその針が大きな魚に引っかかり、今にも川に引きずり込まれそうでした。


「大変! 薔薇紅! 小人さんを支えて!」

「わかった!」


 急いで駆け寄ると、薔薇紅は小人の身体を掴んで支え、雪白がハサミで糸と髭を切りました。

 すると魚はそのまま川底へと去っていきました。


「間に合って良かったー」

「小人さん、大丈夫?」


 しかし助けられた小人は、ぷりぷりと怒りました。


「全くお前達ときたら、またこの大事な髭を切りおって!」

「で、でもそうしないと小人さんが川に落ちちゃうって思って……」

「だからといってこんなに切る奴があるか! 全く咄嗟の判断ができん奴は、碌な大人にならないぞ!」

「ひどい! 雪白はあなたを助けるために一生懸命だったのに!」

「はっ! 何を言っている! 完璧に助けたならまだしも、こっちに損害を与えておいて一生懸命やったから良いだろうとは傲慢な!」

「そ、そんなつもりは……」

「それとも礼が欲しいから助けたのか! とんだ偽善者だな!」

「う、うぅ……」


 小人は悪態をつくと、真珠がたくさん詰まった袋を手に走り去っていきました。




 また別の日。

 雪白と薔薇紅は岩の多い道を歩いていました。

 空には大きな鷲が飛んでいました。

 その鷲が降りてきたかと思ったら、


「おい! 何をする! 離せこのバカ鳥が!」


 その鷲は小人を掴んで飛び上がろうとしていました。

 小人は岩にしがみつきましたが、今にも連れ去られそうです。


「雪白!」

「うん!」


 二人は駆け出すと、雪白が小人の身体を抑え、薔薇紅が鷲を説得しました。


「私達のご飯をあげるから、この人を離してあげて」


 そう言って薔薇紅がお弁当を差し出すと、鷲は小人を離し、弁当を掴んで飛んで行きました。


「良かったね」

「うん」


 しかし小人はまたも文句を言いました。


「何が良かったね、じゃ! あの鷲はお前達が差し向けたんだろう! 全くお陰で服にこんなに穴が空いてしまったわい! お前ら程根性の悪い奴らは見た事がない!」

「私達、そんな事していません!」

「どうだかな! 大方ワシの宝を狙っていたのだろう! じゃがそんな小細工をしても、ワシは絶対に宝を譲らんからな!」


 そう言うと小人は宝石の詰まった袋を担いで、あっという間に逃げていってしまいました。




 数日後。

 雪白と薔薇紅が岩壁に沿って歩いていると、切り株の上で宝石を並べている小人がいました。

 二人に気付くと、小人は大慌てで袋に宝石を入れました。

 そして大声で怒鳴ります。


「何だ盗人め! ワシの宝石をちょろまかそうったってそうはいかないぞ! とっととどっかに行け!」

「いえ、私達はそんな事……」

「いーや! その卑しい目つきは、宝石を欲しがっている目じゃ! 何と浅ましい! 親の教育が悪いんじゃな! こうはなりたくないものじゃ!」

「ち、違う……。私、そんなつもりじゃ……」

「お母さんを悪く言わないで……」


 雪白と薔薇紅は、ぽろぽろと涙をこぼしました。

 すると森の動物達が集まって来ました。


「泣かせたな? 雪白ちゃんと薔薇紅ちゃんを泣かせたな?」

「駆逐してやる……!」

「さあ、戦争の時間だ」

「てめーは俺を怒らせた」

「悲鳴をあげろ。豚のような」

「お仕置きの時間だよベイビー」

「ハイクを読め。カイシャクしてやる」

「倒すけどいいよね? 答えは聞いてない!」

「君が! 泣くまで! 殴るのを! やめない!」

「小便はすませたか? 神様にお祈りは? 部屋の隅でガタガタふるえて命乞いする心の準備はOK?」

「ひ、ひぃ……!」


 その動物達の囲みを割って、大きな影が現れました。


「熊さん……?」

「熊さんだ!」


 熊は嬉しそうな雪白と薔薇紅に優しく手を振ると、腰を抜かしている小人に向き直りました。


「私に魔法をかけた事、多くの宝を奪った事、これだけでも許せないが、この二人を泣かせた事、それが何よりも許されざる罪だっ! 死んで贖えっ!」


 熊がその太い腕を振り上げました。


「ぎゃあああぁぁぁ! 助けてえええぇぇぇ!」

「ま、待って!」

「熊さん! ひどい事しちゃ駄目だよ!」

「!?」


 雪白と薔薇紅の声に、熊の手が止まりました。


「……何故そいつをかばうのです? 君達を盗人呼ばわりして、あまつさえお母様を侮辱したそいつを……」

「……うん、それは悲しかった……。でも言葉で言われただけだもん」

「ぶったり蹴ったりしたらきっと痛いし、可哀想だよ……」

「雪白ちゃん、薔薇紅ちゃん……」

「天使だ、天使がいる……!」

「何という慈悲……! まさに聖女……!」

「ここに神殿を建てよう」


 二人の優しさに、動物達の攻撃色が収まっていきました。


「小人さん、もう嫌な事言わないでね」

「そうしたら私達、きっと仲良しになれるから」

「……!」


 その言葉に、小人の身体が光に包まれました。

 みるみるその身体は伸び、立派な青年の姿になりました。

 それと同時に熊も身体の毛がごっそり抜けて、精悍な青年の姿になりました。


「あ、兄上……!」

「弟よ! お前が私を熊に変えた小人だったのか……!」

「申し訳ない兄上! 私は王位を継ぐ兄上への嫉妬を悪魔につけ込まれ、邪悪な小人に変えられていたのです! しかし二人の優しさが私の呪いを解いてくれました……!」

「そうか……! いや、悪魔の仕業なれば僕はお前を責めまい! 無事で良かった……!」


 そして二人の王子は、雪白と薔薇紅に深く頭を下げました。


「雪白。薔薇紅。ありがとう。君達がいなかったら、私は実の弟を手にかけていただろう。感謝する」

「君達の優しさのおかげで、心まで意地悪に変えてしまう魔法が解けたんだ。本当にありがとう!」


 雪白と薔薇紅は目をぱちくり。


「熊さんが、男の人になっちゃった……」

「小人さんも……。王子様みたいな素敵な服着てる……」

「みたい、じゃなくて王子なんだけどね」

「僕達は兄弟で、この国の王様の子どもなんだ」


 苦笑いした兄王子は雪白の、弟王子は薔薇紅の手を取りました。


「君達にお礼がしたい。良ければお城に来てくれないか?」

「豪華な食事と素敵な衣装を用意するよ」

「お城に? 行ってみたい!」

「素敵! お姫様みたい!」


 はしゃぐ二人に、王子達は『尊い……』と思いながら、さらに言葉を続けようとしました。


「お姫様になりたいなら、僕達とけっ」

「おい王子様。そこまでだ」

「我々の雪白ちゃんと薔薇紅ちゃんに何するつもりだい?」

「どうしても嫁に欲しいと言うなら、俺達全員を敵に回す覚悟をするんだな」

「あ、あはは……。はい……」


 王子二人は動物達の殺気に青ざめましたが、


「お母さんも一緒に行っていい?」

「きっと大喜びするから!」

「あ、あぁ、勿論! 暖炉を借りた恩もあるしね!」

「歓迎するよ!」

「やったー! これも薔薇紅のおかげよ! ありがとう!」

「何言ってるの! 雪白が優しかったからよ! ありがとう!」


 可愛い二人の様子に動物達共々『尊い……』と、幸せな空気に包まれましたとさ。

 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


原作では熊が小人をやっつけ王子の姿に戻り、雪白が王子と、薔薇紅がその弟と結婚する、という話だったので、弟も大胆に組み込んでみました。

話に全く絡んでないキャラと、最後に数合わせみたいに結婚させられるの可哀想ですし。


『雪白と薔薇紅』は美しくて優しく、仲良しな二人が順当に幸せになる物語だったので、『尊い……』で遊んでみました。

ブチギレ動物達のセリフも楽しかったです。

あんな動物達に結婚を認めさせるのは大変でしょうけど、頑張れ王子様ズ。


次回は六十回記念で、タイトルを隠して書きたいと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] よくよく考えれば、「欧米版・天邪鬼」みたいな結末のような感じですね。
[良い点] 姉妹の可愛らしさ、仲の良さ、とても尊かったです。 そして呪いが解けた王子兄弟も尊かったです。 原作を読むと本当に弟がどこから出てきた?みたいな登場の仕方をするので、こちらの方が面白いと思…
[一言] 何という大胆さ! 小人が弟だなんて! 小人はツンデレ(←違うかな?)みたいないいキャラですね。 次回も楽しみです!
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