雪の女王 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第五十五弾。
今回は『雪の女王』でお送りします。
原作では、悪魔の鏡のかけらのせいで心が凍り、雪の女王に連れて行かれた少年カイを、幼馴染のゲルダが大冒険の果てに救い出すお話です。
大冒険は端折りましたが、それ以外は原作に寄せてみました。
……若干甘いかな?
どうぞお楽しみください。
昔々、ある街に、カイという男の子とゲルダという女の子が住んでいました。
二人の家は、窓を伝って行き来できるほど近いお隣で、二人はまるで双子のように仲良く育ちました。
その街は冬になると雪が多く降り、天気の良い日はそり遊びなどをしますが、一度吹雪になると外では遊べなくなります。
そんな日にカイとゲルダは一緒に暖炉の前で、おばあさんの話を聞くのが常でした。
「この街のずっと北には、一年中雪と氷に覆われた国があってね、そこには雪の女王が住んでいるのだよ」
「へぇ、じょうおうはさむくないのかな」
ゲルダの質問に、おばあさんは首を振りました。
「逆さ。女王の心が凍ってしまったから、その国は凍ってしまったのさ。その心が溶けたら、国にも暖かな日差しが差す事だろう」
「ふーん」
「おれは、ずっとゆきのくにっていいな。ずっとそりであそべるもん」
「カイはそりあそびすきだね。わたしはおはながいっぱいさく、はるのほうがすきだなぁ」
そんなある日の事。
悪戯好きな悪魔が、魔法の鏡を作りました。
それは綺麗なもの、美しいものがつまらなく見え、嫌なものがことさらはっきり見えるという鏡でした。
それで色々なものを映しては楽しんでいた悪魔は、それを美しいものばかりと評判の天国に持って行って、天使や神様をからかおうと思いました。
「どんな風に映るかなぁ。楽しみだなぁ。地獄よりもひどい光景になったりして……。ぷっ、うぷぷ……!」
想像して笑った拍子に、魔法の鏡は悪魔の手から離れて、山の天辺にぶつかってしまいました。
粉々に砕けた魔法の鏡のかけらは、世界中に飛び散ってしまいました。
「あちゃー、やっちゃった……」
飛び散ったかけらは、それでも魔法の力を失わず、人の目に入るとひねくれた見方をするようになったり、心に入ると人に冷たく当たったりするようになるのでした。
悪魔はその様子が面白くて、鏡のかけらが入った人を眺めて楽しむ事にしました。
「お、あんな子どもにも……!」
悪魔が見つけたのは、カイとゲルダでした。
カイの目と心にかけらが入り込み、ゲルダに冷たくし出したのを見て、悪魔はにやにやと笑います。
しかも雪の精霊達から、「ずっとゆきのくにっていいな」とカイが言っていたのを聞いた雪の女王が、カイの心が冷たくなったのを見て、連れ去ろうと近付いていたのです。
「こりゃ面白くなりそうだぞ……!」
そんな事とは知らないゲルダは、カイの様子がおかしい事をおばあさんに相談しました。
「ねぇ、おばあさん。カイがさいきんへんなの。いっしょにあそんでくれないし、あってもいやなこというの」
「そうかい……」
そこでおばあさんは、ゲルダにアドバイスをしました。
「それはね、カイがゲルダの事を本当に好きになったんだよ」
「え? すきになるといじわるするの?」
「男ってのはみんなそうなのさ」
「でもわたし、いじわるなカイきらい」
「そうだろうねぇ。それが男にはわからないのさ。でも優しくて素直なカイなら好きだろう?」
「うん!」
「なら良い事を教えてあげるよ」
おばあさんから話を聞いたゲルダは、カイの元は行きました。
「カイ!」
「なんだよブス。へちゃむくれ」
魔法の鏡のかけらのせいで、カイはやっぱり悪口を言います。
そんなカイに、ゲルダはにっこり笑って、
「わたし、カイのことだーいすき!」
大きな声で言いました。
カイは目を丸くしました。
「は、はぁ!? お、おまえ、な、なにいってんの!?」
「わたしがカイをだいすきってこと!」
「い、いや、そうじゃなくて、その……」
おばあさんの言った通り慌てふためくカイの手を、ゲルダはぎゅっと握ります。
「お、おまえ、や、やめろよ! は、はずかしいだろ!?」
「なんで? カイとてをつなぐと、ぽかぽかしてすき」
「ま、また……! お、おれはおまえのことなんか……!」
しかしカイは手を振り解こうとはしません。
その反応もおばあさんの言った通りだと思ったゲルダは、最後の一手を打ちます。
「げ、ゲルダ!?」
「こうするともっとぽかぽかする……」
抱きしめられたカイの中で、赤い何かが弾けました。
その衝撃は凄まじく、カイの中に入った魔法の鏡のかけらは、しめやかに爆発四散しました。
「……お、おれもゲルダのこと、す、すきだよ……」
「ほんと? うれしい! これからもずっといっしょだね!」
「う、うん……」
ゲルダに更に強く抱きしめられて、カイの顔は真紅のバラよりも真っ赤になりました。
その様子を見ていた雪の女王は、我知らず涙をこぼしました。
「これが、涙……。泣いてるのは、私?」
「おやおや、カイとゲルダのためのお節介が、よその人の心まで動かすとはねぇ」
おばあさんがにこにこしながら、雪の女王に声をかけました。
「この気持ちは、何……? 涙が流れるのに、悲しくない……。暖かい……」
「それはね、『尊い』という気持ちだよ」
「尊い……」
おばあさんの言葉に、雪の女王はぎゅっと胸を押さえます。
「もっと、この気持ちを味わいたい……」
「そうかい。じゃあうちに住むと良い。この先あの二人のやり取りは、そりゃあ初々しくて尊いもんになるだろうからさ」
「……わかった。一緒に暮らす……」
雪の女王はおばあさんと暮らす事にしました。
もう一人、ここに住む事を決めた者がいました。
「俺の鏡の魔力があんな小娘に破られた!? 嘘だ! 信じないぞ! 何かの間違いだ! まだ俺の力は負けてないはずだ!」
自分の作った鏡が負けた事を、認められない悪魔でした。
口の端から砂糖をこぼしながらも、カイがゲルダに意地悪をするのを待つ事にしたのでした。
こうして仲良しに戻ったカイとゲルダ。
無邪気なゲルダの好意と、それに照れたり喜んだりするカイの姿に、尊さを噛み締めるおばあさんと雪の女王。
そして屋根の上で砂糖を吐きながら、いつかは意地悪に戻ると信じる悪魔という構図ができあがりました。
この後、心の氷の溶けた雪の女王が復興した国に、大人になったカイとゲルダ、そして甘党になった悪魔が移り住む事になるのですが、それはまた別のお話……。
読了ありがとうございます。
つまりツンデレは魔法の鏡のかけらのせいだったんだよ!
ΩΩ Ω<な、なんだってー!?
う そ で す
`d(´∀`*)b’
でも【混ぜるな危険】に使えそうな気がする……。
やめて! 魔法の鏡のかけらの特殊能力でツンデレを量産されたら、甘い話に耐性のない悪魔の精神まで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないで悪魔! あんたが今ここで倒れたら、天使や神様をからかおうとした野望はどうなっちゃうの? 血糖値はまだ残ってる。ここを耐えれば、甘々に勝てるんだから!
次回、「悪魔キュン死す」。デュエルスタンバイ!
こ れ も う そ で す
`d(´∀`*)b’
次回は『かえるの王子様』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。