【混ぜるな危険】親指姫 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第五十三弾です。
東海道に並びました。
今回は『親指姫』を【混ぜるな危険】でお送りします。
まずは洋風で仕上げましたので、どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、子どもが大好きな女の人がいました。
しかしどうすれば子どもが授かれるのかわかりません。
そこである時、森に住む魔法使いのお婆さんに相談しました。
「お婆さん、私子どもが欲しいんだけど、どうしたら良いかしら?」
「は?」
お婆さんはこのぽやんとした女の人を、まじまじと見つめました。
「……お前さん、結婚は?」
「まだです」
「……恋人は?」
「いた事ないですね」
「……」
冗談やふざけている様子はなかったので、お婆さんは内心で頭を抱えました。
(ここで保健体育の話をするのも吝かじゃあないが、それでこの娘が無責任な男の子でも授かったら罪悪感がやばそうだね……。ここは一つ魔法の力で……)
そう決めると、お婆さんは麦の種を一つ瓶に入れると、魔法をかけました。
「この麦を鉢に植えてごらん。きっと望みが叶うよ」
「ありがとうございます!」
女の人はお礼を支払うと、種を家に持って帰りました。
言われた通りに種を植えると、あっという間にチューリップが生え、つぼみがつきました。
「ありのまま今起こった事を話すわ! 私は麦を植えたと思ったら、いつの間にかチューリップが生えていた! でも可愛いから良いわ!」
女の人は嬉しさのあまり、そのつぼみにキスをしました。
するとつぼみが開き、花の真ん中に親指程の大きさの女の子がいるのが見えました。
「まぁ! なんて可愛いの!」
女の人は、『親指くらいの大きさで、お姫様みたいに可愛い』という事で、『親指姫』と名付けました。
そして人形用の服や食器を揃え、それはそれは大切にしました。
そんなある日の事です。
「ゲロゲロ……。まぁこんなところに可愛い娘がいるわぁ」
ヒキガエルのおばさんが、窓際で眠る親指姫を見つけました。
「小さくて可愛くて、うちのむちゅこたんのお嫁さんにぴったりねぇ」
そう言うとヒキガエルのおばさんは、窓をよじ登り、換気窓から入ってきました。
くるみのベッドに眠る親指姫をしげしげと眺め、ベッドごと連れて行こうとしたその時です。
「待てーい!」
高らかな声に、ヒキガエルのおばさんは思わず叫びました。
「な、何奴!」
「幼気な女の子を、本人と保護者の同意なく連れ出そうとは不届き千万! 隣家の事とはいえ見過ごすわけにはいかん!」
「そーだそーだ!」
「いけないんだぞー!」
梁の上から姿を現したのは、隣の家に住む小人達でした。
「くっ、うちのむちゅこたんの嫁取りを邪魔するなら、容赦しないよ!」
「容赦しない? それはこちらの台詞だ! その子に手を出すと言うなら、お前の皮を剥いで靴の材料にしてやるぞ!」
「ひっ……!」
そう言って梁から飛び降りる小人達。
その手に持ったハサミや針を見て、ヒキガエルのおばさんは慌てて換気窓から逃げて行きました。
姿が見えなくなったのを確認して、小人のリーダーはぺたんと腰を落としました。
「……こ、怖かったぁ……。脅しで引いてくれて本当に良かった……」
「リーダーかっこよかったー」
「リーダーすごーい」
小人達がわいわいと盛り上がっていると、親指姫が目を覚ましました。
「あら? 私と同じくらいの大きさの人がいっぱい……」
きょろきょろする親指姫に、立ち上がった小人のリーダーがびしっとお辞儀をしました。
「お嬢さん、私達は隣の家に住む小人です。あなたをさらおうとするヒキガエルがいたので、追い返しました」
「まぁ。ありがとうございます」
「窓際は寝やすいでしょうが、危険もあります。お家の人に相談して、安全なところで休まれるといいでしょう」
「わかりました。何から何までありがとうございます」
「っ」
親指姫の可愛い笑顔に、リーダーは赤くなりました。
「リーダー顔まっかー」
「照れてるー」
「う、うるさいうるさい! 引き上げるぞ!」
小人達は柱をよじ登り、風のように去って行きました。
翌朝、親指姫は、昨夜の事を女の人に話しました。
「まぁ! 大変だったのね! 無事で良かったわ!」
「それでお隣の小人さんにお礼がしたいんだけど……」
「わかったわ。ケーキを焼きましょう」
親指姫と女の人は、二人でケーキを作って靴屋へと持って行きました。
「こんにちは」
「あぁどうもお隣さん。こんにちは」
「こんにちは」
「えっ、こ、小人……?」
「親指姫と申します」
「あ、ど、どうも、初めまして……」
靴屋は女の人の肩に乗った親指姫に驚きながら、挨拶をしました。
「実はうちの親指姫が、お宅の小人さん達に助けてもらいまして……」
「えっ、何があったんですか?」
「昨日私が寝ている時に……」
親指姫が事情を話すと、靴屋は嬉しそうに笑いました。
「そうですか、彼らが……」
「!」
その優しい笑顔に、女の人の顔がぽっと赤くなりました。
それを見た親指姫は、良い事を思い付きました。
(二人が結婚したら、小人さん達とずっと一緒に暮らせるわ。靴屋さんも独身みたいだし、小人さん達にも協力してもらいましょう)
親指姫は、幸せな未来を想像して、にっこりと笑いましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
大冒険は始まらない。
しかし恋物語は突然に始まるかもしれません。
さて靴屋が先か、リーダーが先か……。
次回は『【混ぜるな危険】親指姫』を和のテイストでお送りします。
洋風が小人なら和風は……?
もはや何の昔話と混ぜるかバレた気もしますが、どうぞお楽しみに。