鶴の恩返し その三
三が日の元気なご挨拶。
パロディ昔話第五十二弾。
お正月の雰囲気に合わせてめでたい鶴をテーマにしようと、『鶴の恩返し』にしてみました。
今回は『そもそも機織り機ってどこの家にもあったの?』という疑問から話を作りました。
なかった場合の恩返しの行方や如何に。
どうぞお楽しみください。
昔々、あるところに炭焼きの若者がおりました。
ある時山に入ると、猟師の罠にかかった鶴を見つけました。
「おぉ、これは可哀想に。どれ、今助けてやるからな」
心優しい男は鶴を罠から外してやり、怪我の手当てをしてやりました。
鶴は感謝を伝えるかのように頭を下げると、空高く飛び上がっていきました。
「元気でなぁ。もう捕まるでねぇぞぉ」
その晩の事です。
男の炭焼き小屋の戸を叩く音がしました。
「ん? 誰じゃ?」
「旅の者ですが道に迷ってしまい、一晩宿をお借りできないでしょうか?」
「おぉ、それはお困りじゃろう。何もないあばら家じゃが、夜露くらいはしのげるで、遠慮なく上がってくれ」
「ありがたく存じます」
扉が開き、若く美しい娘が入って来ました。
男は囲炉裏の火を強くして、娘を暖めてやり、あるものの範囲で精一杯もてなしました。
翌朝、娘は男に丁寧に礼を言いました。
「大変お世話になりました。ご恩返しをしたいと思うのですが、機織り機をお借りできますでしょうか?」
「ねぇよ」
「……え?」
「ここは炭焼き小屋で、機織りなんかする事ぁないから、置いてねぇんだ」
「え、あ、そ、そうなんですか……。えっと、な、何かご恩返しをしたいのですが、してほしい事とかありませんか?」
娘の必死な様子に、男は腕を組んで考え込みました。
「そうじゃなぁ。家の仕事をしてもらえると助かるが、お前さん旅の途中なんじゃろ? 気を遣わんでえぇぞ?」
「いえ! 急ぐ旅ではありませんので、ご恩返しをさせてください!」
そうして娘は炭焼き小屋で、家事をして暮らす事になりました。
しかし。
「何じゃ、飯炊いた事ないんか。なら教えてやるべ」
「すみません……」
「包丁も持った事ねぇだか。良いとこのお嬢さんなんだべなぁ」
「すみません……」
「あーあー、洗濯板で指こすっちまったか。慣れねぇとよくやるやつだなぁ」
「すみません……」
「掃除は上からじゃ。埃が落ちたら二度手間になるでよ」
「すみません……」
「茶碗に張り付いて固まった米は、水でうるかさんと刺さるでなぁ。ほれ、血止めするから手ぇ出しな」
「すみません……」
娘は何から何まで男の世話になる自分が、情けなくて申し訳なくてなりません。
しかし男は責める事もなく、何度も優しく丁寧に教えてくれました。
お陰で娘は半年もすると、一通りの家事はこなせるようになりました。
「お前様、ご飯の支度ができました」
「お、すまねぇな。いただきます。……うん、うめぇ。良い炊き加減だ」
「良かった……」
「掃除も洗濯も洗いもんもしてもらって大助かりじゃ。ありがとさん」
「そんな……。何もかもお前様に教えてもらった事ばかり……。これでは何の恩返しにもなりませぬ……」
落ち込む娘に、男は優しくその背中を撫でます。
「恩返しなんて気にせんでえぇ。独り身のおらには、仕事の後に家にあったけぇ飯があるってだけで、ありがてぇもんじゃ」
「……! じゃ、じゃあこれからも、ずっとここにいても良いのですか!?」
娘の言葉に、男の顔にぽっと朱が昇ります。
「えっ、そ、それはお前さん、おらと夫婦になるちゅう事か……?」
「あ……!」
娘も真っ赤になりましたが、そのままこくんと頷きました。
「お、おらなんかでえぇのか……?」
「……や、優しいお前様となら……」
男と娘はきゅっと手を握りました。
数年後。
生まれた赤ん坊が人に変身できる鶴だったので男は驚きましたが、優しい男は妻が鶴という事実も丸ごと受け入れ、その後も子宝に恵まれ、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
はい、単なるラブストーリーになりました。
べただっていいじゃない
しょうがつだもの
つよし
独身男性には美人の嫁って最高の恩返しだと思います。
種族の違い?
広大無辺の仏心から見たら些細な事だ。
次回は『親指姫』を混ぜるな危険シリーズでやりたいと思います。
日本のと西洋のと二バージョンあるのですが、どっちにしようかな……。
次回もよろしくお願いいたします!