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王の怒りは孤独を呼んで

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第五十弾。

思えば遠くに来たものです。

今回はキリ番記念で、元話は伏せております。

必要はないかもしれませんが、推理しつつお楽しみください。

「おのれ! おのれおのれおのれ!」


 自分の部屋に戻った王様は、怒りに任せて王冠を床に叩きつけました。

 甲高く響いた音が、王様の心を更に波立たせます。


「許さん……! 絶対に許さんぞおおおぉぉぉ!」


 火を吹くような怒りが、腹の底から飛び出しました。

 扉の外の近侍達は真っ青な顔でがたがたと震えています。


「近侍長! 近侍長はおるか!」

「は、はい! お部屋の前に控えてございます!」

「あの詐欺師はまだ捕まらんのか!」


 扉越しでも伝わる怒りに、近侍長は心臓を掴まれたような恐怖を感じました。

 喉が強張りそうになる中、必死に声を張り上げます。


「も、申し訳ございません! 国境警備の者には早馬を走らせましたが、未だ発見の報告はありません!」

「何としても見つけ出せ! さもなくば貴様の首が飛ぶと思え!」

「は、はい! 兵士達も動員して捜索に当たらせます!」


 近侍長は血相を変えて走っていきました。

 思い通りにならない現状に、王様の怒りはマグマのようにぐらぐらと煮立っています。


「許さん……! 儂を騙したあの詐欺師……! それに含み笑いをしよった妹婿……! 王子も儂を笑いおった……!」


 王様は、床も抜けよと足を踏み鳴らしました。

 奥歯は砕けんばかりに食いしばられています。


「妹など『よくお似合いです』などとぬけぬけと……! 妹の子も同罪だ……! 妃よ! 何故私を諌めなかった……! 大臣め! 何が忠誠だ! 何が賢臣だ!」


 怒りが限界を超えた王様は、大きく息を吐くと笑い始めました。


「……ふふっ、くくく、ふははははは! そうだ! 当たり前ではないか! 誰もが自分が可愛い! 自らが傷付かないためなら人を裏切れるのが人間だ!」


 扉の外では王様の急変に、近侍達の顔は恐怖に塗り潰されます。

 しかし王様は更に笑い続けていました。


「ひゃはははは! わかった! わかったぞこの世の真理が! 何も信じず、何にも頼らず、己一人で生きていくのだ! そうか! 何と清々しい気分だ! ひゃはははは!」


 甲高く笑った王様は、扉を開けます。

 近侍達はその悪魔のような笑顔に恐れ慄きました。


「貴様等、儂を恐れているな? ならば良い。恐れているなら歯向かう気も起きまい。くくく、そうだ! 儂を恐れよ! 逆らう者、歯向かう者、皆処刑してくれるわ!」


 王様の狂気を止められる者は、この場には誰もいませんでした。

 ここから若者二人の真なる友情に心打たれるまで、国を恐怖が包み込むのでした。





「儂は何という事を……!」


 王様は悲嘆に暮れていました。

 嘲笑うために用意した処刑場で、人の真なる絆に打ちのめされた王様は、狂気から解き放たれました。

 しかし狂気は去っても、自らの行いまで消えるわけではありません。


「妃……、王子……、妹……、妹婿……、大臣……。その他にも多くの者の命を奪ってしまった……」


 落ち込む王様の元に、近侍長がおずおずとやってきました。


「王様……。あの……」

「あぁ、近侍長か……。お主には酷い仕事をさせてしまった……。済まない……」

「そ、その事で、お詫びがございます……」

「詫びる事など何もない……。処刑は儂の命令だ……。悪いのは儂一人……」

「……私はそのご命令に逆らいました……」


 うなだれた王様の顔が、上がります。


「逆らった……? 何を申しておる……? 儂の命令通り、磔にして処刑をしたではないか……。儂もこの目で見届けておるのに……」

「……気弱な私はどうしても皆様を手にかける事ができず、執行人に金を握らせ、腹に血袋を入れてそれを突き刺させ、刑を執行したかのように見せかけました……」

「な……! では皆生きておるのか……!?」

「……はい。小さな村で匿ってございます。……王様を欺いた罪、どのようにでも償いをいた」

「よくやってくれた! よくぞ騙してくれた!」


 王様は玉座から飛び上がるように立ち上がり、近侍長を抱きしめました。


「お、王様……!? わ、私は命令に背き、処刑したと嘘をついたのですよ……!? それも詐欺師を捕まえられなかった自分に怒りが向かないために……!」

「そうさせたのは儂だ! 儂の過ちだ! それを正してくれたお主に何の罪があろうか! ありがとう! ありがとう!」

「王様……!」


 奇しくもそれは、処刑場で王様の心を打った若者二人の姿と同じでした。




 少しして落ち着いた王様は、近侍長に笑いかけました。


「いやー、そうとわかれば、皆を早く呼び戻さねばな。色々手配はしてくれたのだろうが、儂に気付かれないようにしなければならない以上不便もあったであろうからな」


 その言葉に、近侍長の顔に不安の影がさっとよぎります。


「……あの、よろしいのですか? その、笑われた件は……」

「あの若者は友のため、裸になっても走り続けた。あれを見た今では、儂の恥など小さく思えておる」

「そ、そうですよね! あのインパクトに比べたら、王様のなんて大した事ないですよね!」

「……お主、処刑するぞ?」

「ひぃっ! すみません!」

「はっはっは、冗談だ」

「王様のは冗談になっていないんですよ……」


 玉座の間に久し振りに穏やかな笑い声が響き渡りましたとさ。


 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


名作昔話から名作小説に繋げる超荒技。

激怒しないでくださいお願いします。


なお王様が処刑しっぱなしだと、その後の国がったがただよなぁと思い、蛇足もつけました。

最後のやり取り、地味に好きです。


次回は今回のお話をもっとコミカルに仕上げようと思います。

答えがわからなかった方は来週をお楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです! 前半の昔話と後半の名作小説の繋ぎが凄く自然で、一つのお話として見事に完結していて凄いです。 王様が狂気に至ってそこから正気に戻ったときの近侍長を抱きしめたシーンがとて…
[良い点] 走れ!裸のメロス様! たしかに、王様の立場からしたら、そりゃ激怒しますよね。 2つの作品をうまく混ぜ込んで、きっちり締めてて面白かったです♪
[一言] あれ? 「裸の王様」をベースに、「メロス」入ってます?
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