一寸法師 その一
パロディ昔話第五弾。今回は一寸法師です。
鬼退治の話からすると、桃太郎の次に有名かと思います。金太郎の鬼退治エピソード、知られてなさすぎる……。
オーソドックスな鬼退治のお話、お楽しみください。
昔々あるところに、一寸法師という男の子がいました。
一寸法師はとても身体が小さく、背の高さは一寸(約3センチ)程しかありませんでした。
しかし身体は小さくても、夢は大きく、
「都に行って立派なお侍さんになる!」
そう言って、針の剣を腰に差し、お椀の船に箸の櫂で、川を下っていきました。
川は流れ、海へと注ぎ、そこで小舟に乗った麦わら帽子の少年に出会い、
「お前、俺の仲間にならないか? 俺は海賊王になる男だ!」
なんて事はなく、一寸法師は無事都に着きました。
早速一寸法師はあちこちのお屋敷に行ってみましたが、どこのお屋敷でも小さな一寸法師は相手にしてもらえません。
世間の風の冷たさに打ちひしがれていたところ、お寺詣りの帰りだった貴族のお姫様が通りがかりました。
「まぁ、可愛らしいお方」
「可愛いなどとは失礼な。私は武人でありますぞ」
「そうでしたか。失礼しました。では私の帰り道の護衛をお願い出来ますか?」
「喜んで」
そこに鬼が現れました。
「ぐはは、旨そうな女だ」
「は、はわわ……」
腰を抜かすお姫様。散り散りに逃げる姫の護衛と都の人々。
一寸法師だけが勇敢に立ち塞がりました。
「姫に手出しはさせないぞ!」
「生意気なチビめ。お前から食ってやる」
鬼に口の中に放り込まれた一寸法師は、お腹の中に降りて、針の剣でそこここを突き回ります。
「ぎゃあ! いてて! いてて!」
鬼はたまらず一寸法師を吐き出しました。その時、鬼の腰から『打出の小槌』という宝物が落ちました。
「大丈夫ですか、姫!」
「ありがとう! お陰で助かりました!」
しかし鬼は、まだ諦めていませんでした。
山のように大きくなると、暴れ始めました。
「くっ、どうしたら!」
「この打出の小槌を使えば、貴方も大きくなれます!」
「分かりました! お願いします!」
一寸法師も山のように大きくなりました。
「覚悟っ!」
鬼と一寸法師はがっちり組み合いました。
一寸法師の投げに、鬼は尻餅をつきます。
起き上がった鬼の突進に、一寸法師は吹き飛ばされました。
一寸法師のチョップ、チョップ、チョップ!
鬼の頭突き! よろける一寸法師!
まるでプロレスのような手に汗握る熱い戦いです。
「む!」
打出の小槌が点滅し始めました。もう時間がありません。
一寸法師が腕を交差させると、光がほとばしりました。
直撃を受けた鬼は地響きと共に倒れ、爆発四散しました。
「はぁっ!」
一寸法師はそれを見届けると、一つ大きく頷いて夕焼けの空に飛んで行きました。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
プロレスバトルから必殺技での勝利、オーソドックスでしたね。
それにしても、鬼がよく噛んで食べるタイプの鬼だったら、進撃の◯人みたいになってたんじゃないでしょうか。
さて次回は鶴の恩返しで書きたいと思います。よろしくお願いいたします。