こびとの靴屋 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第四十七弾。都道府県と並びました。
今回は『こびとの靴屋』でお送りいたします。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、小さな靴屋がありました。
靴屋の主人は仕事は真面目で丁寧でしたが、買いに来る人が貧乏だと代金をおまけしたり、ただで修理してあげたりするので、とても忙しいのに貧乏でした。
周りの人が心配して、もっとお金を取るように言いましたが、
「靴がなくて足を怪我したら、働くどころじゃないからね。仕事ができるようになって余裕ができたら、払ってもらうから大丈夫。心配してくれてありがとう」
靴屋がにっこり笑うとそれ以上言えず、食べ物を分けてあげたりするのが精一杯でした。
さてある時、たくさんの修理の依頼が入り、靴屋は大忙しでした。
やっとの事で修理を終え、さぁ新しい靴を作ろうと材料を台に乗せましたが、腕はくたくた、目はしょぼしょぼ、とても良い仕事ができそうにありません。
「明日早く起きて作ろう……。ふぁ〜」
靴屋は大きなあくびをすると、作業場の明かりを落としてベッドに入りました。
翌朝の事です。
「え……?」
朝ご飯を食べて作業場に入った靴屋は、目を丸くして固まりました。
昨日材料を置いたはずの作業台に、出来上がった靴が置いてあったのですから。
「……昨日寝ぼけて作ったかな……? それにしては綺麗な縫い目だ……」
靴屋がその靴を手に取って見てみましたが、縫い目は細かく丁寧で、自分で作ろうと思ったら、一日がかりの仕事となるでしょう。
「泥棒……、が靴を作って置いて行くわけもないしな……。材料は確かに昨日用意したものだし、売ってもいい、のかな?」
首を傾げながら、修理の終わった靴と一緒にお店に出しました。
「おい、あの靴、随分良い出来だな」
「そうかい? ありがとう」
「ねぇ、あの靴値段が付いてないけど、売らないのかい?」
「あぁ、まだいくらにするか決めてなくて……」
「おっちゃん! この靴かっけーな!」
「ありがとう」
お店に来るお客さんが、皆その不思議な靴を褒めました。
すると噂が広がったのか、大きなお屋敷の旦那さんがやって来ました。
「何やら素晴らしい靴を作ったそうですね。見せてもらえますかな?」
「は、はい。これです」
「ふぅむ……」
旦那さんは眼鏡を押し上げながら、じっくり靴を見ました。
「……いい仕事してますねぇ」
「あ、ありがとうございます……」
「是非買わせてもらいたいのですが、おいくらで譲ってもらえますか?」
「えっと、実は……」
靴屋は寝ている間に出来上がった不思議な靴の事を説明しました。
旦那さんは目を丸くして聞いていました。
「……にわかには信じがたいですが、この見事な出来を自分の仕事でないと嘘をつく理由もありませんね……」
「信じてもらえて良かったです」
「それで値段をつけていないと。では私が値段をつけて良いですか?」
「お願いします」
旦那さんが紙に赤いインクで、値段を一の位から書いていきます。
「一、十、百、千……!? まだゼロが……?」
「私の鑑定結果はこちらです」
「こ、こんなに!?」
「この出来、そしてその不思議なエピソード、好きな人ならもう一桁上がってもおかしくないですよ」
「あわ、あわわ……」
「買わせていただいてよろしいですか?」
「も、もちろんです!」
旦那さんからたくさんのお金をもらい、靴屋は大喜び。
新しい靴がたくさん作れる、と材料をたくさん買いました。
素晴らしい出来の靴を手に取ったからか、靴屋の仕事ははかどりました。
新しい靴を三足作り、靴屋は満足した気持ちで眠りにつきました。
そして翌日の朝。
「ま、また出来てる……!」
作業台の上に並べられた出来上がった靴を見て、靴屋は驚きました。
昨日と同じように、丁寧で素晴らしい出来。
しかも七つも。
靴屋の作った物も真面目にしっかり作った物でしたが、不思議な靴はその緻密さのレベルが違いました。
しかも一晩でこれだけの数を揃えるのは、大きな工房並みの仕事です。
「……どうしよう、これ……」
旦那さんが大金を出して買ってくれた靴を、翌日に安く売るわけにはいきません。
しかし昨日と同じ値段で売るのも気が引けます。
悩んだ靴屋は、旦那さんに相談しに行きました。
「ふぅむ、それは小人の仕業かもしれませんね」
「小人?」
「はい。家に住み着き、いたずらをしたり、かと思えば家の仕事を手伝ったりと、気まぐれな存在だそうです」
「小人か……。それならこの細かい細工も頷けますね」
「小人はお菓子を好むと聞きます。お礼にそういったものを用意すると喜ばれるかもしれませんよ」
「ありがとうございます!」
靴屋は早速色々なお菓子を買って、小さくしたクッキーやマドレーヌなどを作業台に置きました。
翌朝。
作業台のお菓子がなくなっているのを見て、靴屋は喜びました。
そしてまたお菓子を買っては、夜寝る前に作業台に置くようにしました。
半月ほどしたある夜の事。
「……ぃ。……ぉぃ……。おい!」
「!?」
靴屋が耳元の声に驚いて目を覚ますと、枕元に小さな人間のような生き物が立っているのが見えました。
(これが小人……)
まじまじと見ていると、小人達は何やら手に旗やら横断幕やらを持っています。
目を凝らすと、
『労働条件改善要求!』
『我々の声を聞け!』
『断固として闘うぞ!』
などと書かれていました。
(そうか、あれだけでは足りないのか……。それもそうだ。あれほどの仕事にちょっとしたお菓子では割に合わないだろう……)
「……君達の要求には出来るだけ応じます。話してもらえませんか?」
「おお、いい心掛けだ。では我々の要求を伝える。労働条件についてだ」
「……はい」
小人の代表は鼻息荒く言いました。
「何だあのお菓子は!」
「すみません! お気に召しませんでしたか!」
「召さないわけではない!」
「え? あ、すみません!」
「我々はここに住まわせてもらっている! 何かの折に家賃代わりにお返しができないかと、あなたの仕事を見てきた!」
「は、はぁ、ありがとう、ございます……?」
「そして先日材料を使わせてもらい、靴を完成させ、これまでの家賃分の仕事はしたと自負している!」
「そうだったんだ……。十分すぎるほどいただきました……」
「なのにあのお菓子だ!」
「すみません!」
「あんな美味しいものをもらっては、労働と見合わないだろう!」
「へ?」
目を点にする靴屋に、小人達は口々に声を上げます。
「家賃に食事までもらったら、もっと働かないと!」
「でもあれからお菓子ばっかりで靴の材料は置いてくれない! 美味しいけど!」
「不当だ! 美味しいけど!」
「我々に労働を! お菓子に見合った労働を!」
「えっと……」
目を白黒させながら、靴屋は言葉を搾り出します。
「つまり、仕事がしたいんですか?」
「そうだ!」
「いいんですか? あんな素晴らしい靴を作ってもらって……」
「作る事が許可されないなら、交渉は決裂だ! 大変遺憾ながら我々は、家賃未払いでこの家から退去せざるを得ない!」
「そ、そんな事は言ってませんけど……」
何とか話を飲み込んだ靴屋は、代表に頭を下げました。
「それでは明日から、靴の材料を置かせてもらいます。いくつがいいですか?」
「誠意ある回答、感謝する! そうだな、一日に十は作れるが、余裕を見て十五はほしい!」
「わかりました。それとお菓子は何がお好きですか?」
「うむ! チョコレートブラウ……、待て! 差し入れをされると仕事を増やさないといけない!」
「いや、大丈夫ですよ」
「そうはいかない! 差し入れをするなら、何か新たに仕事を要求する!」
「なら……」
靴屋は小人に手を差し出しかけて引っ込め、人差し指を出しました。
「晩ご飯の時間に来て、新しい靴のデザインを相談させてくれませんか? お菓子はその報酬という事で」
「新しい靴のデザイン!? それは面白……、やりがいのありそうな仕事だな! わかった! 持ち帰って検討する!」
「えー、いいじゃんやろうよー」
「面白そうだしー」
「お菓子ももらえるしー」
「えぇい! こういう時は、一旦こう言うのが決まりなんだ!」
代表は騒ぐ仲間にそう言うと、靴屋の指をきゅっと握り、ぺこりと頭を下げました。
「今回は実りある交渉、感謝する」
「あ、いや、こちらこそ……」
「今回締結した内容を遵守してもらう事を期待する! では失礼する!」
小人達はベッドから降りて部屋を出て行きました。
靴屋はその背中を見送ると、小人がつけたであろうランプの灯りを消して、再び頭を枕に預けました。
今日はきっと良い夢が見られる事でしょう。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
最初は小人達が、
「寝てばかりいないでお前も働け!」
だったのに、どうしてこうなった……。
可愛いからヨシ!
次回は『鴨取り権兵衛』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。




