浦島太郎【混ぜるな危険】 その一
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第四十六弾。今回は【混ぜるな危険】シリーズで『浦島太郎』を書きました。
ベタな融合ですが、楽しんでいただけましたら幸いです。
どうぞお楽しみください。
昔々あるところに、浦島太郎という漁師がおりました。
ある時、仕事をしようと浜辺を歩いていると、子ども達が何やら騒いでおりました。
「はて、何だろう」
近付いてみると、一匹の大きな亀を寄ってたかって蹴ったり叩いたりしていました。
「これこれ、生き物をいじめるのは良くない。小遣いをやるから離しておあげ」
「うん、わかった」
子ども達はもらった小遣いを握りしめて、団子でも買おうと言いながら走って行きました。
「さ、お前さんも海へお帰り」
亀は何度も振り返るようにしながら、海に帰っていきました。
その晩の事です。
「ん? 誰じゃ?」
戸を叩く音に、浦島太郎は食事の手を止めて玄関を開けました。
するとそこには美しく若い娘が立っておりました。
「旅の者ですが道に迷い、日が暮れてしまいました。ご迷惑かと存じますが一晩の宿をお貸しくださいませんか……?」
「も、勿論じゃ!」
美女が家に泊まる事に、若い浦島太郎は二つ返事で頷きました。
しかし、
「ではこの部屋をお借りしますが、どうか私が出てくるまで、決して中を見ないでくださいね」
「え……」
ぴしゃりと戸を閉められて、浦島太郎の淡い期待は波の花のように砕けて散りました。
その晩、何かを削るような音を聞きながら、浦島太郎は悶々とした夜を過ごしました。
翌朝。
「こちらをどうぞ。泊めていただいたお礼でございます」
「おお! これは見事な鼈甲細工!」
娘が差し出したのは鼈甲細工の簪でした。
素材である亀の甲羅の質は最上級。
その造りは精緻かつ芸術的。
素人の浦島太郎が見ても、素晴らしい品でした。
「どうぞこれを売って、お金に換えてくださいませ」
「おお! すまんな!」
「いえ、泊めていただいたお礼ですから」
浦島太郎は、その鼈甲の簪を町で売りに行きました。
町の簪屋は目を丸くして、大金で買ってくれました。
喜んだ浦島太郎は、娘へのお土産をたくさん買って、家へと戻りました。
「お前さんが作ってくれた簪、えらい高値で売れたぞ!」
「それはようございました」
「うまいもん買ってきた! 食ってくれ!」
「ありがとうございます」
浦島太郎のはしゃぐ様子に、娘も満足そうに微笑みました。
その後も娘は浦島太郎の家に住み、鼈甲の簪や櫛を作り続けました。
お陰で浦島太郎の家は大金持ちになりました。
しかし娘が日に日に痩せていくのが、浦島太郎は心配でなりません。
「飯も食っとるし、疲れさせるような事もさせとらん。とすると、部屋で一人の時に何かをしとる……?」
気になった浦島太郎は、娘の部屋を覗いてしまいました。
そこには大きな一匹の亀が、自分の甲羅を削っているのが見えました。
音を立てないように戸を閉めましたが、動悸がおさまりません。
(あの亀、もしや……!)
しばらくして娘が出てきました。
「本日の分でございます」
「あ、あぁ、うん……」
「……?」
困ったような、悲しそうな、複雑な表情で簪を受け取ろうとしない浦島太郎の様子に、娘は全てを察し、目を伏せました。
「……見て、しまわれたのですね……」
「……」
沈黙が全てを語っていました。
娘は悲しそうな顔をして、頭を下げました。
「お察しの通り、私は先日海辺で助けていただいた亀でございます。ご恩返しにと娘に姿を変えて、この身から鼈甲を削り出して差し上げてまいりました……」
「それでやつれて……!」
「正体を知られたからには、もうここには居れません」
「そ、そんな……!」
「……私の作った鼈甲細工を売ったお金を、ご自分のみならず私や村の方に分け与える優しさ……。あなたと過ごした日々は、楽しゅうございました」
「ま、待ってくれ! これで別れだなんて……!」
「……さようなら……」
言うと娘は亀の姿になり、のたのたと玄関に向かいます。
「……」のたのた
「……」
「……」のたのた
「……」
「……」のたのた
「……はっ!」
放心していた浦島太郎が我に返るには十分な時間でした。
浦島太郎はぎゅっと亀を抱きしめます。
「え、あの、浦島様……?」
「お前が亀だろうと何だろうと関係ない。もう鼈甲細工も作らんでいい。ずっと一緒におってくれ……!」
「……! よろしいのですか……?」
「もちろんじゃ!」
こうして浦島太郎と亀は結婚して、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
という訳で『鶴の恩返し』をトレースしてみました。
飛び去れないとこうなりますよね。
原作も鶴になって亀と云々というバージョンもあるので、まぁこんなのもありかと。
娘の姿で出ていけば良かったじゃんとか言っちゃダメ!
さて次回は『こびとの靴屋』で書こうと思います。
また来週よろしくお願いいたします。