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ブレーメンの音楽隊 その一

日曜の元気なご挨拶。

パロディ昔話第四十四弾。今回は『ブレーメンの音楽隊』です。

原作ではブレーメンにたどり着かず、音楽隊にもならないお話ですが、そんな原作に出来る限り寄せてみました。


どうぞお楽しみください。

 昔々、あるところにロバがいました。

 ロバは長い間仕事をしていたのですが、歳を取って今まで通りに働けなくなったので、これまで働いていた場所を去る事にしました。

 そこにイヌがやってきました。


「おやロバさん。仕事はどうしたんだい?」

「ははは。私もこの歳だ。仕事でしくじって迷惑をかけるわけにもいかないので、暇をもらう事にしたのさ」

「成程。俺も随分働いたもんだが、ここらが潮時かもな。俺も暇をもらうとしよう」


 イヌも話をしてきて、仕事を辞めました。


「これからどこに行くつもりだ?」

「あては特になかったが、君が一緒ならブレーメンまで行って音楽隊などをやるのも悪くないと思ってる。確か君はティンパニを叩けただろう」

「昔の話だが悪くはないな。君はリュートを弾くのかい?」

「かつてはよく弾いたものだが、今ではどうだかな」


 そんな事を言いながら歩いていると、ネコに出会いました。


「あらお二人さん。今日は仕事はおしまい?」

「あぁ、おしまいだな」

「明日からもずっとだがね」

「どういう事?」

「この歳だ。仕事をしくじって迷惑をかける前に、後進に道を譲ろうと思ってね」

「それで俺と二人、ブレーメンで音楽隊でもやろうという話になって、これから行くところさ」


 その話を聞いて、ネコもふむと頷きました。


「あたしもいい歳だし、あなた達のように仕事を離れるいい時期かもしれないわね。あたしも仲間にいれてもらえるかしら」

「勿論さ。以前君が小夜曲セレナーデを歌っているのを聴いた事があるよ」

「懐かしい話ね」

「おぉ! むさくるしい仲間に一輪の花が!」

「花は花でもドライフラワーよ。じゃ、ちょっと待ってて」


 ネコもさっと話をつけてくると、仲間に加わりました。

 談笑しながら進んでいくと、オンドリに会いました。


「これはこれはお揃いでどちらに?」

「ブレーメンに音楽隊になりに行くのさ」

「……? ロバさん、何の冗談で?」

「ロバさんも意地が悪い。そう言われてわかるはずもないだろう。くくく」

「ははは。これは失敬」

「あたしたちはね、仕事を引退したのよ。セカンドライフとして、ブレーメンで音楽隊をやろうって話になったの」

「それは素敵ですねぇ! 僕も是非仲間に加えていただきたい!」

「君の目覚めを告げる声なら、私達の拙い演奏でも彩ってくれるだろう」

「是非参加してもらいたいね」

「よし、では行きましょう!」

「ちょっと、挨拶はちゃんと済ませてきなさいよ」

「おっとこれはしたり」


 別れの挨拶を済ませたオンドリを加えた一行は、森に差しかかりました。


「日が暮れそうだ。この辺りで休むとしようか」

「野宿なんて久しぶりだなぁ」

「あら? 森の中に灯りが見えるわ」

「炭焼き小屋でもあるんでしょうか?」


 一行は、同じ休むでも屋根のあるところで、と明かりに向かって進みます。


「ん?」

「イヌ君、どうした?」

「……複数の人間、そして火薬の匂いだ」

「炭焼き職人ではなさそうね」

「こんな森の中に集まる火薬を持つ連中……。いやー、ろくなものじゃなさそうですねぇ」

「慎重に進もう」


 やがて古びた小屋が見えてきました。

 木を切る職人達の作業場だったのか、簡素ですが広い作りになっています。

 中では柄の悪そうな男達が、酒を飲みながら金貨や宝石を弄んでいました。


「やはり強盗の一味か」

「人から奪ったもので飲む酒が旨いものかよ……!」

「どうする? あたし達はもう引退した身だけど……」

「そうは言っても、いきなり切り替わるものでもないでしょう? 僕は見過ごせませんね」

「……そうだな」


 その言葉を受けて、ロバは大きく頷きました。


「それでは諸君」


 凛とした呼びかけに、全員の目が光ります。


「『仕事』といこう」




「げへへ。平和な世の中さまざまだな! ちょいと銃をチラつかせりゃ、みんなビビって金を出しやがる!」

「国を守る騎士様衛士様ありがとさんってな! がはははは!」


 盗賊達が下卑た笑い声を上げた瞬間、ドアが激しい音を立てて、蹴り開けられました。


「な、何だ! 手入れか!」


 鍵だけを壊す絶妙なロバの蹴りで開かれた入口から、イヌ、ネコ、オンドリが滑り込みます。


「くらいな!」

「ぐわぁ!」

「ぎえぇ!」


 身を縮めたイヌがそのバネを解き放ち、盗賊達を吹き飛ばしました。


「ぬうっ! あれは『天破丹スカイ・ブレイカー』!」

「知っているのかボルトン!」


 窓際にいて無事だった盗賊二人が、驚きの声を上げます。


「あぁ、聞いた事がある……」


 ヒゲの盗賊が濃い目の顔をしかめながら、技を放ったイヌを見つめました。


「丹田に力を溜め、全身のバネと共に解き放つ事で、衝撃波をまとった体当たりを放つ大技。だが天をも衝くと言われたこの技、使い手が活躍したのは二十年近く前のはず……」

「へっ、俺もとうに過去の人か。世知辛いねぇ」


 次にネコが、立ち上がろうとする盗賊達の背中や腰を軽く突きます。


「はい、ちくっとするわよー」

「ぐわっ! しびれる……!」

「う、動けねぇ……!」


 痙攣する仲間を見て、やはり無事だった盗賊二人が驚きの声を上げます。


「むうっ! あれは『精霊撫で(スピリット・タッチ)』!」

「知っているのかボルトン!」

「あぁ、聞いた事がある……。神経系に正確無比な突きを入れる事で相手を麻痺させる妙技。受けた者は、まるで雷の精霊に撫でられたように感じるという……」

「ふふっ、久しぶりだからドキドキしちゃったわ」


 続いて大きく息を吸い込んだオンドリが、朗々と歌い出しました。

 身動きの取れない盗賊達が、涙を流しながらもがいています。

 間一髪耳を押さえられた盗賊二人が、驚きの声を上げました。


「うぐっ! こ、これは『愛飢威吼(モーニング・コール)』!」

「し、知っているのかボルトン……!」

「あ、あぁ、聞いた事がある……」


 耳をふさぎながらも、読唇術で会話ができる盗賊の解説は続きます。


「聴く者の心を揺さぶり、罪悪感を強制的に目覚めさせる秘技。この歌を聴いた罪人は愛に飢えた子どものように泣き叫び、ともすれば自害に至る事さえあるという……」

「そ。だからネコさんとかに拘束してもらわないと危ないんですよ。僕の歌は」

「ぬ! 今だ! 逃げるぞ!」

「はい!」


 オンドリの歌が途切れた隙に、盗賊二人はドアから逃げ出そうとしました。

 しかし。


「逃がすわけにはいかないな」


 ドアの外にいたロバが足を振るいます。

 盗賊二人のベルトの金具が砕け散り、ズボンがストンと落ちました。

 傷どころか衝撃すら感じられなかった二人は、驚きの声を上げます。


「まさかっ! これは『竜屠エンド・オブ・ドラゴン』……!」

「知っているのかボルトン!」

「あぁ、聞いた事がある……。鉄すら砕く凄まじい威力の蹴りを正確無比に操る事で、竜すらほふると言われた絶技……! 間違いない、こいつらは……!」


 盗賊の震える声が、


「国から独自の捜査権を許され、動物の名を暗号名コード・ネームとして名乗り、王国の牙とも爪とも称される一騎当千の王国騎士団『牙爪楽団オーケストラ』!」


 真実を射抜きました。


「まぁ今日辞めてきたばかりだがな」

「俺達まだまだやれるもんだなぁ」

「こういう小悪党限定でしょうけどね」

「どうでしょう? この小屋を拠点に、盗賊退治で稼いでいくっていうのは」


 オンドリの言葉に、三人はポンと手を打ちました。


「成程、悪くないな」

「国のためにもなるしな。俺達だけの『牙爪楽団オーケストラ』結成ってわけだ」

「四人だから『四獣奏カルテット』ってところかしらね」

「いいですね! 格好良い!」

「では『四獣奏カルテット』の初仕事だ。彼らを詰所に連行しよう」

「ひ、ひぃ……」


 震える盗賊に抵抗のすべはありませんでした。

 この後ブレーメンに行かなかった音楽隊『四獣奏カルテット』の手で、多くの盗賊団が滅亡確認されるのですが、それはまた別のお話……。

読了ありがとうございます。


二つ名バナーの影響で、ルビをフル活用してみました。

ちなみに原作でロバがリュート、イヌがティンパニ、猫がセレナーデ(夜の歌とも)が割り当てられていたので、それを技名にしていましたが、オンドリには特に割り当てがなかったので、目覚めの声=awakeという事で、暴走族みたいな当て字をしてみました。

……『クックドゥードゥルドゥ』で作ろうと思った時はどうかしてたと思います。


ちなみにオーケストラは『管弦楽団』で当てるべきところでしたが、動物を絡めるのが難しく、『合奏』をオーケストラと読む場合もあるとの事で採用しました。

おとなは逃げたわけではないのです。

ただ妥協を知っているだけなのです……。


次回は『三年寝太郎』で書きたいと思います。

よろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 動物名がコードネームだったなんて、読み終わっても動物で想像してましたので騙されました(笑) ネコが撫でてる姿を想像して可愛いと思ってたのに(笑) [一言] ボルトン、盗賊にしておくには惜し…
[一言] ボルトン、知り過ぎていた男。
[良い点] なるほど、コードネーム。 叙述トリックの一種ですね。 お見事です。 [一言] カルテットの皆さん、カッコいい!
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