アリとキリギリス その二
日曜の元気なご挨拶。パロディ昔話第四十二弾。
今回は『アリとキリギリス』を新たな構成でお送りします。
ご注意とお詫びを。
・ほぼ出オチです。
・種族や生態なんて関係ありませんよ ファンタジーやメルヘンなんですから
・流行りを試してみたくてやった 今は反省している
木枯らし吹く季節ですが、どうか暖かい気持ちでお読みください。
バフマスターのバイオリン弾き 〜役立たずと追放されたけど、僕の音楽は世界最高のバフまで進化していたみたいなので、新しい仲間と刺激的な日々を送ります〜
「キリギリス、あなたクビよ」
「えっ!?」
冬を前にした森の中。
キリギリスは女王アリの言葉に耳を疑いました。
「ど、どうしてですか! 夏の間、あんなに音楽で皆さんの仕事を応援したじゃないですか!」
「そんなもの、大した助けじゃなかったのよ。実際に苦労して食料を集めたのは、私達アリの力。あなたは歌って遊んでいただけの役立たず」
「そ、それは……」
確かにキリギリスは、食料集めを手伝ってはいなかったので、それを言われると何も言い返せませんでした。
「そんなに音楽がすごいなら、それで冬を過ごせば良いのよ。頑張れば音楽でお腹も満たせるわ、そうでしょう?」
「う……」
高笑いする女王アリの言葉に、キリギリスはうめく事しかできません。
「じゃあさよならキリギリスさん。春にまたお会いしましょう」
「待っ……」
無情にも巣穴は閉じられ、キリギリスは途方に暮れました。
冷たい北風がキリギリスを撫でていきます。
その冷たさと絶望感に、キリギリスは身震いしました。
「このままじゃ凍死しちゃう……。とりあえず『体温上昇』と『空腹無効』の旋律で……」
奏でる音色が不思議な力を纏い、キリギリスを寒さと飢えから守ります。
「ひとまずはこれでいいか。でも寝てる内に効果が切れたら死んじゃうから、寝床を何とかしないと……」
「何これ! あんなに寒かったのに急に寒くなくなったわ! しかもお腹もいっぱいに……! 一体何が……?」
「!」
近くの茂みから上がった澄んだ声に、キリギリスは飛び上がるほど驚きました。
近くに他の生き物がいるとは思わなかったのです。
「あの、驚かせてすみません! それ僕の音楽のせいなんです!」
「え、何!? 貴方が何かしたの!?」
「本当にすみません! 二時間もすれば効果は消えますので……!」
「二時間!? ……貴方、魔法使いか何か?」
「いえ、ただの音楽家です……」
「音楽家……? つまり貴方が演奏する音楽には、身体を温めたり、お腹を満たす力があるの……?」
「ま、まぁ……。他にも力を強くしたり、身体を頑丈にしたり、まぁ色々と……」
「……貴方、種族は?」
「き、キリギリス、です」
「……そう……」
茂みの声が一度沈み、そして意を決したように声を上げました。
「……私、ハチなの。スズメバチ」
「スズメバチ!?」
キリギリスは比喩でなく飛び上がりました。
森の最強のハンター。
逆らった虫は命がないと言われる恐ろしい存在。
しかし大型の動物を撃退し、森を守る存在でもあるため、虫達は恐れながらも頼り、嫌悪しながらも従う、不思議な関係を築いていたのでした。
「待って! 逃げないで! その、いきなり姿を見せたら驚くと思って……! 脅かすつもりじゃないの!」
「は、はぁ……」
必死なスズメバチの声に、キリギリスはぎりぎり踏みとどまりました。
「あの、貴方の力、すごいと思うの。これからの季節、私達は寒さで活動を停止するわ。そうすると、大型の獣達が他の虫達を襲うの……」
「あぁ、うん、そうだよね……」
自然の摂理とはいえ、冬の間に仲間が消えていくのは辛いものがありました。
そしていつかは自分も、という恐怖が、キリギリスが必死にアリ達の手伝いをした理由でもありました。
「何とか森の虫達を守りたい……。でも寒さに震える中じゃまともに戦えない……。でも貴方の力があれば戦える! 守れる! お願い、力を貸して……!」
「……」
絶対的強者だと思っていたスズメバチの懇願に、キリギリスは戸惑いました。
それと同時に自分の力を求められている事に、喜びと高揚も感じていました。
女王アリの心ない言葉で傷ついた心が、癒されるように感じたのです。
「……僕なんかで、良ければ……」
「……! ありがとう! あの、じゃあそっちに行くけど、その、怖がらないでね……」
「う、うん……」
茂みが揺れます。
キリギリスは深呼吸して待ちます。
「!」
キリギリスは固まりました。
恐怖ではなく驚きで。
「……その、ごめんね? 戦闘用の格好だから、いかつい、でしょ……?」
恥ずかしそうに言うスズメバチの身体は、確かに鎧に包まれ、鋭い槍を携えてはいましたが、そこには凶暴さはなく、むしろ洗練された美しさがありました。
「いえ……、その……、きれいだと、思います……」
「なっ……!」
スズメバチの顔が、紅葉の葉よりも赤く染まります。
「ば、馬鹿な事言ってないでついてきて! 仲間に紹介するから!」
「は、はい……!」
その顔を隠すように、背を向けて歩き出すスズメバチ。
キリギリスはその後を慌てて追いかけます。
「……私、ルドニー。貴方、名前は?」
「ぼ、僕はディローメ」
「……よろしくディローメ」
「こ、こちらこそ。……ルドニー」
これが後に伝説となる『貫けぬものなき槍』ルドニーと『聴く者に祝福を』ディローメの出会いでした。
ちなみにその冬のアリの巣は。
「だるーい」
「動きたくなーい」
「働いたら負けかなと思ってる」
キリギリスの音楽がなくなった途端だらけ出した子ども達を前に、女王アリは青ざめていました。
「春になったらあのキリギリスを呼び戻さないと……!」
読了ありがとうございます。
春「もう遅い」
関係ないですけど、私のモ◯ハンのメイン武器は笛です。
関係ないですけど。
次回は『王様の耳はロバの耳』で書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。