復讐屋十三(じゅうぞう)
パロディ昔話四十回記念。
また元の昔話を伏せて書かせてもらいました。
超長期連載のあの漫画風になっております。
よろしければお楽しみください。
「……そろそろか……」
指定された飯屋の横で、青年は落ち着かない様子で待ち合わせ相手を待っていた。
傍から見たら、逢引きの待ち合わせに見えた事だろう。
しかし彼が待つのは、そんな色気のある話とは正反対だ。
「『復讐屋 十三』……。一体どんな人なんだろう……」
彼は期待と不安、そして復讐という昏い焔を抱えたまま辺りを見回していた。
「……振り向くな。そのまま周りを見ていろ」
「!?」
音もなく後ろの路地に現れた気配が、小さく重く、しかし耳に残る鋭い声を投げかけてきた。
青年は息を呑みながらも、必死に言葉を絞り出した。
「あ、あなたが『復讐屋』の十三さん、ですか……?」
「……自分からそう名乗った事はない……。だが俺がお前の依頼を受けた十三だ……」
「おおっ……!」
十三の得体の知れない圧力に怯えながらも、男は出会えた事に喜びの声を上げた。
それを嗜めるかのように、十三は重い声で話を進める。
「……用件を聞こう」
「は、はい。ある男を懲らしめてほしいのです……!」
「……理由は」
「そいつは私の母を騙して働かせた挙げ句、その収益を騙し取り、それに文句を言った母に暴行を加えました……!」
(……)
「母は今なお床から起き上がれないでいます。なのにそいつは事故だと言い張り、司法の手を逃れたのです……!」
(……)
「お願いです! その男を殺さずに懲らしめてください!」
「……殺すのではなく、罰を与えろ、と……?」
「……はい。母が殺されていたなら、死をもって償わせるところでしたが、幸い一命は取り留めましたので……」
(……)
しばしの沈黙。
そして十三は小さく頷いた。
「……わかった。引き受けよう」
「おおっ……! ありがとうございます!」
「……報酬は指定した通りに用意しろ。……確認でき次第仕事に入る」
「わ、わかりました!」
「……俺は依頼人には二度会わない。仕事の後、俺を探そうとするな……」
「は、はい!」
青年が答えると、もうそこには十三の気配はなかった。
男は狐につままれたような気持ちで、それでも確かな高揚を感じながら家へと帰った。
ここはとある工房。
老人が何かをいじっているところに、十三が姿を現した。
「おお、あんたか。今日は何がご入用じゃな?」
「……耐熱小型クラスター、水空両用の超小型ドローン、トラップ用ジェル、それとサンドバッグを貰いたい……」
「? そりゃ二日もあれば用意できるが、何に使うんじゃそんなもの……?」
(……)
「おっと! あんたの仕事は詮索しない約束じゃったな! 任せてくれ!」
「……二日後にまた来る……」
十三が出ていくと、老人は大きく溜息をついた。
「いやー、うっかりしておった。あやつに詮索は厳禁じゃというのに……。しかしクラスターにドローン、ジェルにサンドバッグ……? 何に使うんじゃろうな……?」
老人は首を傾げながら、仕事に取り掛かった。
「ふう、今日も馬鹿共から巻き上げた飯が旨い! いやいや、これだから詐欺ってのはやめられねぇなぁ!」
男が囲炉裏端で、食事をしていたその時。
十三が囲炉裏に仕込んでいた耐熱小型クラスターが炸裂し、熱された球が男の顔を直撃した。
「ぎゃあーっ! な、何だ! あちぃ! 痛ぇ!」
男は大慌てで台所へ向かい、水で顔を冷やそうと水瓶の蓋を開けた。
すると中からドローンが飛び出し、男を鋭い針でところ構わず突き刺した。
「痛ぇ! 痛ぇ! 何だこれ! 蜂が!? 鳥か!?」
男は手をめちゃくちゃに振り回しながら家から出ようとする。
その足元には、トラップ用のジェルが敷かれていた。
男は足を滑らせてうつ伏せに転んだ。
「ぐえっ! 何だ!? 何かぬるっと滑って……!?」
男が足元の滑ったものの正体を知る前に、屋根の上からサンドバッグが落とされた。
計算し尽くされたサンドバッグは、男の上に正確に落ちた。
「ぐはっ! な、何だ! 重い! 苦しい……!」
もがく男の耳に、重く鋭い声が響いた。
「……依頼主からの条件で、今回は殺さずにおく」
「な、何!? 依頼!? ちくしょう! 一体誰が……!」
「……行動を改めなければ、また依頼が来る事だろう。……次は『殺すな』という条件があるかわからないが」
「ひ、ひいぃーっ! わ、わかった! 詐欺はもうやめる! 被害者にも謝る! だから許してくれー!」
男の悲痛な叫びが響くが、十三は既にその場からその姿を消していた……。
「母さん! あの男が謝りに来たよ!」
「……先日は大変失礼をいたしました……。これからは心を入れ替えて、おたくの柿の収穫もきちんとお手伝いしますので、どうか……」
別人のようにしおらしくなり、必死に頭を下げる男を見ながら、青年は復讐屋への感謝の思いを新たにするのであった。
(ありがとう、十三さん……!)
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
元々考えていたネタだったのですが、この時期に書くのはどうかと迷い、、しかし別ネタも思いつかなかったので、そのまま書いてしまいました。
追悼なんて生意気なこ事を言うつもりはありません。
ただ一ファンとして、心よりご冥福をお祈りいたします。
ちなみに元ネタはわかりましたでしょうか?
あぁ、眉毛の太い方ではなくて。
あの話、『桃栗三年柿八年』と言われる柿を、数日で実らすチートをベースに書いても面白くなるかもしれませんね。
さて次回は、『わらしべ長者』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。