アリとキリギリス その一
パロディ昔話第三十八弾。今回は『アリとキリギリス』です。
以前冬童話2021の『アリさんの さがしもの』で題材にしてはいたのですが、今回はラブコメ風にしてみました。
種族の壁とか細けぇこたぁいいんだよ!の精神でお楽しみください。
「……何してんのよ」
「いやぁ参った参った。こんなに冬が早く来るなんてね」
アリの北風より冷たい視線に、キリギリスは照れたように笑います。
「だから毎年毎年冬の備えをしなさいって言ってるじゃない」
「いやぁ面目ない。今年の秋は実りがたくさんあるから、何とかなる気がしてたんだよね」
「……で、うちに来てどうするつもりよ」
「悪いんだけど春まで泊めてくれない?」
悪いと思っていなさそうな顔のキリギリスに、アリは深々と溜息を吐きました。
「あのね、毎っ回言ってるけど、うちはお母様の方針で、そうそう余所者のあんたを泊めるわけにはいかないの!」
「だからこっそり、いつもの倉庫でいいからさ、ね?」
「もう無理! お母様やお姉様、妹達を誤魔化し切れないわよ!」
「……じゃあ仕方ない……。この寒空をしのげるとも思えないし、春になったら僕のお墓を作っておくれ……」
「〜〜〜っ!」
キリギリスの情けない声に、アリは頭をがしがしかくと、キリギリスの襟首を掴みました。
「これが最後だから! 来年は絶対自分で冬を越しなさいよ!」
「勿論だよ! ありがとう!」
「……うー、去年もこんなやりとりをしたような……」
ぶつぶつ言いながら、アリはこっそりキリギリスを巣の中へと入れました。
春です。
森の神様が恐ろしい顔で、アリの巣にやってきました。
アリの巣は上へ下への大騒ぎになりました。
その様子を聞いた女王アリは、慌てて巣から飛び出しました。
「か、神様! 新しい春の到来を心よりお祝い申し上げます!」
「……」
「おかげさまで無事に冬を越せました!」
「……」
「……あ、あの……」
「アリの女王よ。お前達は無事冬を越せたか。だがそのためにどれほどの生き物がこの冬、寒くひもじい思いをしたか、わかっているのか」
「え、あ、それは、その……」
「この神の目を節穴とでも思っていたのか」
女王アリは震え上がりました。
冬を贅沢に過ごすために、必要以上の食べ物や資材を集めていたのは事実でした。
「他者に分け与えず、独り占めする者に、この森で生きる資格なし!」
「お、お許しください! これからは心を入れ替えますから!」
「ならぬ! 何年も見続けてきたが、他の生き物の訴えを聞こうともしなかったではないか! 更生の余地なし! アリ一族はこの森から追放する!」
「そ、そんな……」
女王アリが絶望に打ちひしがれたその時です。
「お待ちください神様!」
キリギリスが神様の前に立ちました。
「わ! バカ! やめろ!」
キリギリスをこっそりかくまっていたアリが慌てました。
神様に意見するなんて、即刻追放でもおかしくありません。
(あんたはここにいない事になってるんだから、倉庫に隠れてれば良かったのに……!)
そんなアリの気持ちをよそに、キリギリスは神様に話を続けます。
「この巣のアリ達は、夏歌って遊んでいた僕に、食べ物と住処を提供してくれました!」
「何……?」
「そうしてもらえなければ私は死んでいたでしょう! しかも懲りない私を見捨てず何年も!」
「え、何年も……?」
「お姉様やるぅ!」
「あの子ったら……。お母様、怒るわよ?」
「あのきりぎりすさん、おにいさまになるの?」
「……っ」
ざわつく姉妹達に、アリは気が気ではありません。
「この巣のアリ達には、分け与える心もあるのです! どうか今一度お考え直しを!」
「ふむ……」
神様は少し考えて、大きく頷きました。
「よかろう。今一度だけ猶予を与えよう。これから先、森の生き物達と分け合いながら生きるならよし、さもなくば今回の罰が下る事、ゆめゆめ忘れるでないぞ」
「あ、ありがとうございます!」
「……ありがとうございます」
神様は去っていきました。
巣の前には、アリ達とキリギリスが残されました。
家族の視線に、アリはいたたまれません。
「……お、お母様、その、ご、ごめんなさ」
「ありがとう我が娘。あなたの優しさがこの巣を救いました」
「えっ、いや、その……」
「私が間違っていました。家族だけが幸せであればいいと……。それが他の生き物に迷惑をかけている事を知っていながら……」
「お母様……」
「いやぁ間違ってないですよ」
キリギリスがいつもの軽い調子で割り込んできました。
「森のみんなを家族と思えばいいだけですから」
「……そうね。ありがとうキリギリスさん。ならあなたも家族の一員ね」
「お、お母様!? それってどういう……!?」
慌てるアリの顔を、キリギリスがにやにやしながら覗き込みます。
「あれぇ? 今の流れだと森の仲間としての家族だと思うんだけど、アリちゃんは何で真っ赤になって慌ててるのかなぁ?」
「〜〜〜っ! うっさい!」
「ふべっ!」
アリの渾身のストレートがキリギリスを吹き飛ばす音が、晴れ渡った春の空に響き渡りましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
ちょっと姥捨山が混ざりました。てへ。
チャラいダメ男が漢を見せる展開は胸熱。
でもちょっと考えてみましょう。
働きアリは基本メス。
つまりこの先はハーレム展開という事になりますねキリギリスさん?
照れ隠しに暴力を振るうヒロインはあまり好きではないのですが、今回は許します。
アリちゃん、強めにやっちゃってください。
次回は『マッチ売りの少女』でいきたいと思います。
よろしくお願いいたします。