表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/171

アリとキリギリス その一

パロディ昔話第三十八弾。今回は『アリとキリギリス』です。

以前冬童話2021の『アリさんの さがしもの』で題材にしてはいたのですが、今回はラブコメ風にしてみました。

種族の壁とか細けぇこたぁいいんだよ!の精神でお楽しみください。

「……何してんのよ」

「いやぁ参った参った。こんなに冬が早く来るなんてね」


 アリの北風より冷たい視線に、キリギリスは照れたように笑います。


「だから毎年毎年冬の備えをしなさいって言ってるじゃない」

「いやぁ面目ない。今年の秋は実りがたくさんあるから、何とかなる気がしてたんだよね」

「……で、うちに来てどうするつもりよ」

「悪いんだけど春まで泊めてくれない?」


 悪いと思っていなさそうな顔のキリギリスに、アリは深々と溜息を吐きました。


「あのね、毎っ回言ってるけど、うちはお母様の方針で、そうそう余所者のあんたを泊めるわけにはいかないの!」

「だからこっそり、いつもの倉庫でいいからさ、ね?」

「もう無理! お母様やお姉様、妹達を誤魔化し切れないわよ!」

「……じゃあ仕方ない……。この寒空をしのげるとも思えないし、春になったら僕のお墓を作っておくれ……」

「〜〜〜っ!」


 キリギリスの情けない声に、アリは頭をがしがしかくと、キリギリスの襟首を掴みました。


「これが最後だから! 来年は絶対自分で冬を越しなさいよ!」

「勿論だよ! ありがとう!」

「……うー、去年もこんなやりとりをしたような……」


 ぶつぶつ言いながら、アリはこっそりキリギリスを巣の中へと入れました。




 春です。

 森の神様が恐ろしい顔で、アリの巣にやってきました。

 アリの巣は上へ下への大騒ぎになりました。

 その様子を聞いた女王アリは、慌てて巣から飛び出しました。


「か、神様! 新しい春の到来を心よりお祝い申し上げます!」

「……」

「おかげさまで無事に冬を越せました!」

「……」

「……あ、あの……」

「アリの女王よ。お前達は無事冬を越せたか。だがそのためにどれほどの生き物がこの冬、寒くひもじい思いをしたか、わかっているのか」

「え、あ、それは、その……」

「この神の目を節穴とでも思っていたのか」


 女王アリは震え上がりました。

 冬を贅沢に過ごすために、必要以上の食べ物や資材を集めていたのは事実でした。


「他者に分け与えず、独り占めする者に、この森で生きる資格なし!」

「お、お許しください! これからは心を入れ替えますから!」

「ならぬ! 何年も見続けてきたが、他の生き物の訴えを聞こうともしなかったではないか! 更生の余地なし! アリ一族はこの森から追放する!」

「そ、そんな……」


 女王アリが絶望に打ちひしがれたその時です。


「お待ちください神様!」


 キリギリスが神様の前に立ちました。


「わ! バカ! やめろ!」


 キリギリスをこっそりかくまっていたアリが慌てました。

 神様に意見するなんて、即刻追放でもおかしくありません。


(あんたはここにいない事になってるんだから、倉庫に隠れてれば良かったのに……!)


 そんなアリの気持ちをよそに、キリギリスは神様に話を続けます。


「この巣のアリ達は、夏歌って遊んでいた僕に、食べ物と住処すみかを提供してくれました!」

「何……?」

「そうしてもらえなければ私は死んでいたでしょう! しかも懲りない私を見捨てず何年も!」

「え、何年も……?」

「お姉様やるぅ!」

「あの子ったら……。お母様、怒るわよ?」

「あのきりぎりすさん、おにいさまになるの?」

「……っ」


 ざわつく姉妹達に、アリは気が気ではありません。


「この巣のアリ達には、分け与える心もあるのです! どうか今一度お考え直しを!」

「ふむ……」


 神様は少し考えて、大きく頷きました。


「よかろう。今一度だけ猶予を与えよう。これから先、森の生き物達と分け合いながら生きるならよし、さもなくば今回の罰が下る事、ゆめゆめ忘れるでないぞ」

「あ、ありがとうございます!」

「……ありがとうございます」


 神様は去っていきました。

 巣の前には、アリ達とキリギリスが残されました。

 家族の視線に、アリはいたたまれません。


「……お、お母様、その、ご、ごめんなさ」

「ありがとう我が娘。あなたの優しさがこの巣を救いました」

「えっ、いや、その……」

「私が間違っていました。家族だけが幸せであればいいと……。それが他の生き物に迷惑をかけている事を知っていながら……」

「お母様……」

「いやぁ間違ってないですよ」


 キリギリスがいつもの軽い調子で割り込んできました。


「森のみんなを家族と思えばいいだけですから」

「……そうね。ありがとうキリギリスさん。ならあなたも家族の一員ね」

「お、お母様!? それってどういう……!?」


 慌てるアリの顔を、キリギリスがにやにやしながら覗き込みます。


「あれぇ? 今の流れだと森の仲間としての家族だと思うんだけど、アリちゃんは何で真っ赤になって慌ててるのかなぁ?」

「〜〜〜っ! うっさい!」

「ふべっ!」


 アリの渾身のストレートがキリギリスを吹き飛ばす音が、晴れ渡った春の空に響き渡りましたとさ。


 めでたしめでたし。

読了ありがとうございます。


ちょっと姥捨山が混ざりました。てへ。


チャラいダメ男が漢を見せる展開は胸熱。

でもちょっと考えてみましょう。

働きアリは基本メス。

つまりこの先はハーレム展開という事になりますねキリギリスさん?

照れ隠しに暴力を振るうヒロインはあまり好きではないのですが、今回は許します。

アリちゃん、強めにやっちゃってください。


次回は『マッチ売りの少女』でいきたいと思います。

よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] チャラい男でも命を掛けるべきシーンで男を見せるのは格好良いですよね! そういうときって普段より2割増で男前に見えたりして、アリちゃんも惚れ直したことでしょう。 [気になる点] キリギリス…
[一言] なんていうか……。 でもさ、キリギリスがお亡くなりになったら、アリたちは、みなで美味しくいただいちゃうんだよね。 (書いてなんだけど、かなり怖い状況) そういうハーレム、なんだよね。
[一言] まあ、この場合のキリギリスは福利厚生担当でしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ