おむすびころりん その一
パロディ昔話第三十七弾。今回は『おむすびころりん』です。
今回は型式を変えて、一人称語りで話が進みます。
一風変わった作風をお楽しみください。
さぁ始まりました世紀の挑戦!
今日は誰の耳に「おむすびころりん すっとんとん」が響き渡るのか!
前回は矢指慈三さんが見事にネズミ穴におにぎりをホールインワンして、素晴らしい宝物の数々を持ち帰った事は、記憶に新しいでしょう。
今回は三人の猛者が、宝物を夢見てこの山の休憩所へと集まりました!
おむすびころりんセカンドシーズン!
微笑むのは天使か悪魔か!
実況は私、新太刀二郎がお送りいたします。
ここでルールをおさらいいたします。
挑戦者は規定のラインの後ろから、おにぎりを転がす、投げる、蹴る、打つなどして、およそ十メートル先のネズミ穴に入れば成功となります。
試技は一回のみという過酷な挑戦。
だからこそ勝ち取った時の栄誉は、勝者の頭上に燦然と輝くのです!
さて最初の挑戦者は、ボウリング歴三十五年!
ベストスコアは194!
後一歩が届かない男、十柱玉吉!
今日はそんな汚名を払拭できるのか!
この競技にスペアはありません。
ストライク・オア・ガーター。
一度の投球で運命が決まります。
十柱、呼吸を整えて……。
……さぁ行った。
どうだ、どうだ!?
弧を描いて穴に向かうおにぎり。
良いコースだ。良いコースだ。
このまま入るか?
ストライクとなるのか?
成功一番手に名乗りを上げるのか!?
どうだ? 入るか?
あー! 崩れた! おにぎりが崩れたー!
穴を目前にして汚れなき白米が無惨に散るー!
スローで見てみましょう。
投げる瞬間、ここですね、かなり丁寧にリリースしていますが、地面に落ちた時におにぎりにヒビが入っています。
そのヒビが転がりながら広がり、穴の目前でおにぎりの崩壊を招いたようです。
やはりボウリングの玉とおにぎりでは、強度が違いすぎたー!
無念の結末に、十柱がっくり膝をつき、立ち上がれませーん!
後一歩届かない男の名が不動のものとなってしまったー!
十柱、無念のリタイアです!
さぁ続きますは舞蹴上男。
かつてはNBAのトップを君臨する事を夢見た男。
自宅の庭に設置したバスケットゴールでのシュート練習を欠かした事はありません。
奥様から毎日のように言われ続ける小言に耐えながらの練習。
プレッシャーには誰よりも強いのではないのでしょうか。
おっと? 大きな風呂敷から何かを取り出して……?
おにぎりだー! でかい! これはでかいぞ!
バスケットボール大のおにぎり!
どうやって握ったのでしょう!
重さも相当なものだと思いますが、果たして投げる事ができるのでしょうか!
……さぁ構えに入りました。
左手は添えるだけ。
諦めたらそこで試合終了。
まさに基本に忠実。
舞蹴、大きく息を吐いて……、吸い込んで、投げた!
おにぎりは重さを感じさせない美しい放物線を描いて、ネズミ穴に一直線!
これはどうだ? 入るか? どうだ?
入ったー!
リングに触れもしない完璧なシュート!
舞蹴も笑顔のガッツポーズ!
……おや? しかし成功を示す「おむすびころりん すっとんとん」の声が聞こえません。
何かあったのでしょうか。
審判のネズミが出てきて……?
何と! 大きくバツを出しました!
どういう事でしょう!?
舞蹴の表情にも、困惑の色が強くなっております。
……たった今審判団からの情報が入って参りました。
えー、「ただ今のおにぎりは、バスケットボールの表面に米粒をまぶしただけの偽物だったので、失格とする」。
何と! 何という小賢しさ!
これは失格もやむなしでしょう!
……おや? 舞蹴は何か抗議をしています。
どうやらバスケットボールを、おにぎりの具と主張しているようです。
しかし審判は大きく首を振りました!
当然でしょう!
ボールはリングを通りましたが、ルールの穴を通る事はできなかったー!
舞蹴、納得がいかない、憤懣やるかたなしと言った様子!
むしろ何故行けると思ったのでしょうか!
舞蹴怒りの退場です!
さぁ最後の挑戦者は丸五郎。
少し前までアメリカンフットボールとラグビーを逆に覚えていたという丸。
ようやく前にパスするのをやめ、シニアラグビーチームとの軋轢は解消されたそうです。
やはり持つのはラグビーボール型のおにぎり。
キックで、しかも転がりにくい形状のおにぎりを穴に入れるのは至難の業ではないでしょうか。
さぁ丸がおにぎりを抱えて、ラインに立ちました。
おや? ボールを地面に立てるためのキックティーを持っていない様子ですが、そのまま蹴るのでしょうか?
さぁ運命のキックオフ!
あー! 何と! 何と丸、走り出しました!
おにぎりを小脇に抱えて、走る! 走る! 独走状態!
しかしルールでは「ラインの後ろから」と明記されている以上、これは許されません!
試技を終えた十柱と舞蹴が「その手があったか」と言った表情で悔しがっていますが、その手はありません!
あ、今、丸がネズミ穴にトライを決めました!
やり切った笑顔! しかしそれはやらかした笑顔!
当然「おむすびころりん すっとんとん」は聞こえません!
当たり前としか言いようのない結果に、表情を変える丸!
審判に抗議をしていますが、それなら最初からルールブックを百回読んで来いと申し上げたい!
丸、問答無用の失格です!
えー、お送りしてきましたおむすびころりんセカンドシーズン、いかがでしたでしょうか。
参加者全員が失格という残念な結果に終わりましたが、おそらく成功しても「ネズミ穴の中でネコの鳴き真似をしてはいけない」という約束を守れなさそうなので、失敗して正解と言ったところでしょう。
それでは今日はこの辺でお別れとなります。
実況は私、新太刀二郎がお送りいたしました。
読了ありがとうございます。
サードシーズンはありませんので悪しからず。
最初は優しいおじいさんと意地悪じいさんの対決だったのですが、三種目二人で六パターンやってると長くなるので、こんな風になりました。
あの語り口は書いていて楽しかったです。
次回は「アリとキリギリス」で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。