すっぱいブドウ その一
パロディ昔話第三十六弾。今回は「すっぱいブドウ」です。
ブドウが取れなかったキツネが、「どうせあのブドウはすっぱい」と言い捨てるあのお話です。
短い話なので、禁断のあの方が登場。
どうぞお楽しみください。
昔々、あるところに、お腹を空かせたキツネがいました。
キツネは食べ物を探していたところ、ブドウが実っているのを見つけました。
「わぁ! 美味しそうなブドウ!」
しかしブドウは高い樹の上。
キツネが背伸びをしても届きません。
「……ちぇ、いいさ、どうせあのブドウはすっぱくてマズいに決まってる」
捨て台詞を残してキツネは立ち去ろうとしました。
「何やってんの!」
「!?」
突然響いた男の人の声に、キツネは驚いて飛び上がりました。
「何でそこで諦めちゃうんだよ! まだ全っ然君は本気を出してないじゃないか! ダメダメダメ! やらないうちに諦めるのは一番やっちゃダメ!」
「え、あの……」
「あのブドウが食べたいんだろ!? だったらその気持ちに素直になりなよ! できるかできないかじゃない! やってみたいって気持ちになるかどうかなんだよ!」
「う……」
「君はどうだ!? あのブドウ、食べたいのか! 食べたくないのか!」
男の言葉に、キツネは誤魔化そうとしていた自分の気持ちと向き合います。
「……た、食べたいよ……」
「全っ然聞こえない! 君の想いが全っ然伝わって来ないよ!」
「た、食べたいよ!」
「まだだ! 君ならもっと大きな声で言える! できるできる諦めちゃダメだ! もっと熱くなれよぉ!」
「食べたい!」
「聞こえた! 今初めて君の本気が聞こえたよ! じゃあこれ!」
男はテニスラケットとテニスボールを渡しました。
「え?」
「サーブをあのブドウに当てて落とすんだ!」
「え、そんなの無」
「無理とかやってもみないのに何でわかるんだ!? 君はまだ自分の中の可能性を信じていないのか!? だったら」
「やりますやります! やってみますから!」
初めて握るテニスラケット。
そうそう狙い通りにはいきません。
しかし男の熱く丁寧な指導で、キツネのサーブはみるみる上達しました。
そして。
「あっ! 当たった! 落ちた!」
「やった! やればできるじゃないか! これが君の可能性だよ!」
「はい! ありがとうございます!」
二人は早速落ちたブドウを拾って水で洗い、口に入れました。
「すっぱ!」
「まっず!」
二人はブドウを吹き出しました。
「……ふふふ」
「……ははは!」
二人は顔を見合わせて大笑いしました。
努力をしたからといって、必ずしもそれに見合う成果が得られるとは限りません。
でも努力をした事自体は、決して無駄にはなりません。
二人の笑顔が、それを証明していました。
ブドウはそれを教えるために、すっぱかったのかもしれませんね。
おしまい。
読了ありがとうございます。
ブドウは結局すっぱかった、と。
でもそこまで頑張ったキツネの心はきっと爽やかだったでしょう。
キツネがその後テニスの道を志すかどうかは、また別のお話……。
次回は『おむすびころりん』でいってみようと思います。
よろしくお願いいたします。