赤ずきん【混ぜるな危険】その三
日曜の元気なご挨拶。パロディ昔話第三十三弾。
今回は【混ぜるな危険】シリーズでお送りします。
シリーズって言っても赤ずきんばっかりですけど。
お楽しみいただけましたら幸いです。
昔々あるところに、赤ずきんという女の子がいました。
赤ずきんはいつも赤い頭巾を被っていたので、そう呼ばれていたのです。
ある日赤ずきんは、森に住むおばあさんのお見舞いに行くために、森の小道を歩いていました。
そこにオオカミが現れました。
「おやおや、赤ずきんちゃん、どこに行くんだい?」
「この道を道なりに行ったところにあるおばあさんの家に、お見舞いに行くの」
オオカミは心の中で舌なめずりをしました。
おばあさんの家の中なら、狩人に見つかる事なく赤ずきんとおばあさんを食べられると考えたのです。
「お見舞いにはお花がいるんじゃないかな? そこの小道を少し行ったところに、花がいっぱい咲いているよ」
「そうね。オオカミさん、ありがとう!」
赤ずきんが小道に入ったのを見て、オオカミはおばあさんの家に走りました。
「ん? こっちの方から甘い匂いがするぞ? ははぁ、おばあさんが赤ずきんにお菓子か何かを焼いているんだ。きっとこっちだな」
オオカミは甘い匂いのする方に向かいました。
「な、何じゃこりゃあああぁぁぁ!」
オオカミは家の前で、思わず太陽に吠えました。
そこには全てがお菓子でできた家があったのです。
「え、赤ずきんのおばあさん、どんな趣味だよ……」
オオカミはドン引きしましたが、赤ずきんが来るまでにおばあさんを食べ、赤ずきんを食べる支度をしなくてはなりません。
意を決してオオカミはおかしなお菓子の家に入りました。
「おやおや、道に迷ったの……、えっ、オオカミ!?」
「えっ、魔女!?」
オオカミと魔女、二人の視点が交錯し、時が一瞬止まりました。
先に動いたのはオオカミ。
室内という今の間合いが、魔女との戦いに有利である事を本能的に悟ったのです。
「くっ!」
魔女はとっさに魔法でウエハースの壁を生み出します。
「こんなもの! さくさく、ごっくん」
オオカミはあっさりと食べ尽くしました。
「食らえ!」
その間に体勢を整えた魔女は、クッキー生地の弾丸を撃ち出します。
「望み通り食らってやろう!」
オオカミは大きく口を開き、その全てを噛み砕き、飲み込みました。
「くそっ、何故貴様がここに!」
後退しながら、コーンパフスナックを弾幕のように放つ魔女。
それを片っ端から食べながら、オオカミは叫びます。
「こっちの! さくさく、セリフだ! もぐもぐ、お前が! もぐもぐ、赤ずきんの! ごっくん、おばあさんだったとは!」
「赤ずきん!? 何の話だ!」
芋けんぴの檻を生み出し、オオカミを閉じ込めましたが、オオカミは難なく食い破りました。
「俺は、ぽりぽり、赤ずきんを、もぐもぐ、食うために、もぐもぐ、ここに来た、ごっくん」
「赤ずきんなんて知らない! 私はここで子どもを捕らえようと罠を張っていただけだ!」
ビスケットの壁がオオカミの視界を遮りますが、オオカミはやすやすと噛み砕きます。
「成程、ばきばき、ならばお前を食って、もぐもぐ、ここを乗っとれば、もぐもぐ、子どもを、もぐもぐ、捕まえ放題だな、もぐもぐ」
「そうはいかない! 貴様は自分の変化に気づいていないのか!?」
「何ぃ? もぐもぐ、どういう事だ! もぐもぐ」
魔女は勝ち誇ったように言いました。
「貴様の口の中の水分はもはやゼロに近い! そんな状態では、もはや何も飲み込む事はできまい!」
「しまった! もぐもぐ」
口の中がぱっさぱさになったオオカミは、なかなかビスケットを飲み込めません。
「くそっ、もぐもぐ、水、水は……、もぐもぐ」
「今だ!」
魔女は飴細工の窓を破って、外へと飛び出しました。
台所で水を飲み、ようやくビスケットを飲み込んだオオカミが、その後を追います。
「間合いは取れた! 覚悟しろオオカミ! 私の『お菓子の家で子ども入れ食い計画』を邪魔するものは許さない!」
「自ら獲物を追う事を忘れ、罠に堕した狩人に、この俺を狩れるかな?」
「黙れ! 菓子の海に沈め! 『飴の雨!』」
「何っ!?」
魔女の発した言葉に、オオカミの余裕が崩れ、驚きの声を上げます。
「馬鹿な! その魔法は作った者のみが使えるという専用呪文のはず! まさかお前が!?」
「そうだ! 広範囲に降り注ぐ無数の飴! 回避不能の絶え間ない衝撃で削り倒してやる!」
「消費魔力の割に効果は高いのに、ネーミングがあまりにもアレだからって、誰も使わない不憫魔法を、お前が!?」
「黙れ黙れ黙れっ! 貴様絶対許さないからなっ!」
オオカミと魔女の激闘の間に、赤ずきんは無事におばあさんの家に着きました。
ヘンゼルとグレーテルは、お菓子の家にたどり着きましたが、魔女がいなかったのでお菓子の家を容赦なく蹂躙した後、宝物を発見。
迷わず盗み出したそれを元手に、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
はい、混ざっていたのは『ヘンゼルとグレーテル』でした。
オオカミと魔女のバトルに力を入れすぎたせいで、主役二人は御無体なオチ担当になってしまいましたが。
意味のわからない感じの異能力バトル、楽しいです。
次話は『北風と太陽』で書こうと思います。
よろしくお願いいたします。