ウサギとカメ その二
パロディ昔話第二十二弾。今回は『ウサギとカメ』セカンドシーズンです。
元の話では、ウサギが舐めプをしたお陰でカメが勝ちましたが、それ以外に勝ち筋がないか、色々試してみました。
カメの勝利の方程式をお楽しみください。
むかしむかし、あるところに足の速さを自慢しているウサギがいました。
ウサギはイキリ体質で、足の遅い動物をあおっては悦に入っていました。
「ぷぷぷ! カメさん、足おっそ! 世界で一番遅いんじゃないの!?」
「なら勝負します?」
「あははは! ざっこいカメさんが勝負!? ボクに勝てるわけないじゃん!」
「じゃあ私が勝負を決めてもいいですか?」
「いいよ! 何やっても僕が勝つからね!」
ゲラゲラ笑うウサギに、カメは落ち着いて勝負の場所を告げました。
「じゃあプールで」
「……は?」
「位置について、ヨーイ、スタート!」
勝敗は始まる前から明らかでした。
ウサギが十メートルくらいでジタバタしている間に、カメは二十五メートルを泳ぎ切りました。
「ちょ、ちょっと待って! 今のなし! 陸でもう一回勝負!」
「わかりました。では明日、次はあちらの小山でやりましょう」
「今度こそボクの勝ちだよ!」
次の日、ウサギとカメは小山のてっぺんに立ちました。
「位置について、ヨーイ、スタート!」
「いっくぞー!」
下り坂をウサギは駆け降りていきます。
「今度こそボクの勝……!?」
その横を黒く丸いものが、すごい勢いで転がっていきました。
「か、カメさん!?」
頭と手足を引っ込めて、丸くなったカメが、坂を転がり落ちて行きました。
「ゴール!」
カメが二勝目を挙げました。
「待って待って! ずるくない!? ちゃんと足で走ろうよ」
「わかりました。では明日、今度は平地で勝負しましょう」
「今度こそボクが勝つ!」
「ここから向こうの小山のふもとまで、どちらが先に駆け着くか、これで決着をつけましょう」
「よーし!」
「あ、熱中症が心配なんで、この飲み物をどうぞ」
「うわぁ! ありがとう! おいしい!」
そうしてウサギとカメはスタート地点に立ちました。
「位置について、ヨーイ、スタート!」
ウサギは調子よく駆け出しました。
「絶対に負けないぞ!」
勢いよく走っていくウサギ。
振り返るとカメの姿は後ろに小さく見えました。
「よし、勝てるぞ!」
その気の緩みでしょうか。
ウサギは急激な眠気に襲われました。
「……あ、れ……? 何で、こんなに、眠、いん、だ……?」
耐えきれず、ウサギは木の根元に座り込んでしまいました。
「なぜすわるんだ…………? これは! ………… もしかして あの…『飲み物』の……」
そのまま眠り込むウサギ。
その間にカメはゴールしました。
「ひ、卑怯だぞ!」
「何が不満ですか?」
「ぼ、ボクは速さの勝負をしようとしていたのに……!」
「速さの勝負はしましたよ。私は泳ぎの速さ、転がる速さ、そして頭の回転の速さ」
「うぐ……」
「速さと一口に言っても色々あります。君は足の速さだけしか見ようとせず、私に敗北しました」
「……くそ」
「ですが」
カメはウサギに手を伸ばします。
「私が君の『速さ』を手に入れる事はできませんが、君が私の持つ『速さ』を手に入れる事はできます」
「え……?」
「頭の回転の速さ、君が望むなら教えましょう。君の走りを見て、知恵と脚力を持つ究極のアスリート、その姿を見てみたいと思いましたから」
「うん! ボクがんばる!」
こうしてウサギはカメに弟子入りし、泳ぎを覚え、回転の動きを活かして自転車競技も始め、ペース配分や地形をクレバーに判断する知識を手に入れました。
のちにウサギは世界一過酷と言われるアイアンマンレースに挑むのですが、それはまた別のお話……。
読了ありがとうございます。
別にウサギの土俵で戦う必要はありませんからねぇ(ゲス顔)。
子どもに語る時は、プール、転がり、人間大砲の三段落ちで語ってます。
流石に一服盛るのは教育上良くないかな、と……。
次回は久々、オオカミに登場していただきましょう。
『三びきの子ブタ』をお楽しみに!