三峰の果て
パロディ昔話もいつの間にか二十話に!
しかも全ての話に感想を頂いています!
こんな冗談みたいな話にありがとうございます!
皆様の応援のおかげでここまで書けました!
今回は少し趣向を変えて、元の昔話は内緒で書いてみました。
何の話かは、後書きでヒントを出しつつ、少し間を開けて発表したいと思います。
刑事ドラマのラスト風ストーリーをお楽しみください。
大きな湖を一望できる崖の上。
その湖をじっと見つめる女性が一人。
「乾刑事……」
「私一人で行く」
「しかし……」
「いや、大丈夫だ」
遠巻きに止められた車から、年配の刑事が女性に向かって歩いていく。
部下は乾の言葉に、不安そうな顔で見守る事しかできない。
「どうも、稲葉さん」
「……また刑事さん、あなたですか。何の御用ですか?」
稲葉と呼ばれた女性は、湖から目を離さない。
「柵さん、意識戻ったそうですよ」
「……そうですか」
「病院で『後山って女にだまされた! 前山って女も、中山って女もグルだ! 俺は殺される!』って大騒ぎしてるそうです」
「……」
「まぁ随分なワルだったようですから、恨みを買ってるのも一人や二人じゃないみたいですけどね」
含みのある言葉に、しかし稲葉は表情を崩さない。
「確か……、稲葉さんも、お知り合いが柵さんに酷い目に遭わされて、未だ入院していらっしゃるとか……」
「それがどうかしましたか?」
はねつけるような言葉に、乾は肩をすくめる。
「私がそれを恨みに思って、柵さんを殺そうとしたと疑っているんですか」
「いやぁ、疑ってる訳じゃないんですよ」
「だったら何を」
「あなたが犯人だと確信してるんですよ」
風が二人の間を走り抜ける。
稲葉と乾の視線が激しくぶつかり合う。
「……確信、ですか」
「はい。先の柵さんの話に出てきた後山、前山、中山という女性は、どこを探しても見つからないのです。つまり偽名。容姿も喋りも不自然なほど違っていて、演技の疑いが強い」
「……それが私が犯人だという話と何の関係があるんですか?」
「さらにあなたの行動には不可思議な点があります。入院されているお知り合いへのお見舞い、あなたは一度しか行っていない。彼女の旦那さんが不思議がっていました」
「……っ」
奥歯を噛み締める稲葉。
「その間あなたは様々な物を入手している。火器、刺激物、そして水に溶ける素材。どれも柵さんへの犯行と関係があります」
「……偶然です」
「ならばあなたは、恩人の見舞いよりも何の関係もない自分の事にのめり込んでいたと、そうおっしゃるのですか?」
乾の穏やかな、しかし激しい言葉に、稲葉は堪え切れず振り向いて反論する。
「私だって! おばあさんのお見舞いを、看護をしたかった! でもできなかった……!」
「それは柵さんへの復讐を実行していたからではないのですか?」
「何ですか! 私をそんなに犯人にしたいんですか!」
「その通りです。そしてそれがあなたの復讐になるのです」
風が再び二人の髪をなびかせる。
「は……? 何を……?」
「あなたが逮捕され、裁判になれば、あなたが犯行に至った動機は記録に残ります。そうすれば今までのらりくらりと言い逃れしてきた柵を追い込む事ができるのです」
「ほ、本当に……? 本当にあの悪魔を……?」
「……私はずっとあの男を追っていました。奴の悪行の数々を知り、一生をかけて償わせてやると誓ったんです。あなたも同じ気持ちでしょう。だから殺さなかった」
「……」
「ここであなたが自首すれば、情状酌量もありますし、司法取引も用意できます。罪を償って、柵を地獄に落とし、晴々とお見舞いに行きましょう」
乾の言葉に、稲葉の目から涙がこぼれる。
「……殺せなかったから、私、自分の、した事、無意味だと、思って、いたのに……!」
「違います。確かにあなたのした事は犯罪です。私は刑事として目をつぶる事はできません。ですが決して無意味ではありません。……私が無意味になどさせません!」
「……どうか……! どうか、お願い、します……!」
肩に頭を預けて泣き崩れる稲葉。
血を吐くような嗚咽が湖畔に響き渡った。
かつては心優しかった彼女を鬼に変えた柵。
力が我知らずこもり、乾は決意を新たにした。
やがて泣き止んだ稲葉を乗せて、車が走り出す。
まだ遠い、しかし確かなハッピーエンドを目指して……。
読了ありがとうございます。
さて、答えは分かりましたでしょうか?
わからなかった人向けにヒントを。
①日本の昔話です。
これじゃあまだ絞り込めませんね。
これでわかった方は、ほぼノーヒント正解と言えるでしょう。
②大元の話はかなり凄惨でグロいです。
この話はかなりマイルドにしています。
なかなか子どもに語りにくい話ですね。
③メインの登場人物は動物です。
稲葉→因幡→???
柵→信楽→???
乾に相当するキャラは本編には登場しないので、犬のお巡りさんから取りました。
④火器は火打ち石、刺激物は辛子、水に溶ける素材は泥。
これを使った復讐劇と言えば……?
⑤最後の段落の頭文字を縦読みすると……?
それでもわからないという方は、ぜひ⑤の言葉で検索してみてください。
日本人が昔からざまぁ展開が好きなのだと分かると思います。
それでは次回『金の斧 銀の斧』セカンドシーズンでまたお会いしましょう。