オオカミと七ひきの子ヤギ その二
パロディ昔話第十七弾。オオカミと七ひきの子ヤギ、セカンドシーズンです。
母の日という事もあり、お母さんヤギにスポットを当ててみました。
深く考えてはいけない(懇願)。
気楽にお楽しみください。
昔々、お母さんヤギと七ひきの子ヤギが住んでいました。
ある日、お母さんヤギは町に出かけることになりました。
「可愛い可愛い子ども達〜。お母さんは町に行って来るわね〜。お母さんが帰るまで、決しておうちの扉を開けてはいけませんよ〜」
お母さんはそう言うと、町へ出かけて行きました。
「うへへ……。あの家には子どもだけか……」
それを見ていた悪いオオカミが舌なめずりをしました。
「よし、母親のふりをして、忘れ物をしたとか言って家に入って、あの子ヤギたちを食ってやろう」
オオカミはお家に駆け寄り、扉を叩きました。
「みんな〜。お母さんよ〜。忘れ物をしちゃったから、ここを開けて〜」
すると扉が開きました。
(何だ、チョロいな……)
「なんっっっだ貴様今のモノマネは!」
「!?」
そこには竹刀を持った長男ヤギが、すさまじい圧を放ちながら立っていました。
「え!? あ、あの……?」
「女神のように美しいお母さんの声を真似したい、その気持ちは分かる! だが! 練習が全然足りてない!」
「はぁ、その、すみません……」
竹刀を突きつけられ、オオカミは相手が小さな子ヤギという事も忘れて謝りました。
「お母さんの声はもっと高くて、透き通るような声なのよねー」
「そうそう。一点の濁りも曇りもない、ガラスのマーメイド像のような美しさなのよねー」
「あの美しさと比べたら、オオカミさんの声はドブ川みたいな声でしたわねー」
「「「ねー」」」
長女と次女と三女は、そう言って微笑み合います。
「データからすると、音域を一オクターブ半上げる必要があると考えます」
「せ、声量も、足りない……。腹式呼吸と胸式呼吸を使い分けられるようにしないと……」
次男と三男が眼鏡を光らせます。
「行こうぜ! お母さん声の高みへ!」
「へ、あ、はい……」
末っ子の差し出した手に、オオカミは訳も分からず頷きました。
「ただいま〜。あらあら〜、お客様〜?」
お母さんヤギが目にしたのは、ロウソクの火に向かってしゃべり続けているオオカミの姿でした。
「違う! 炎を揺らすな! 声は声帯の振動だ! 空気に頼らず震わせてみろ!」
「そ、そんな……」
「姿勢が悪いよねー」
「肩に力も入っているよねー」
「声の歪みは身体の歪み、徹底的に矯正しないとねー」
「あふん! そ、そこは、くすぐったハァイ!」
「今の声です。それを二十四時間三百六十五日、出せるようにするのです」
「う、裏声が地声であると、自分の意識を改変するのです……。そうすれば羞恥心も何もありません……」
「む、むちゃくちゃです……!」
「大丈夫! きっとお母さんの声にならせてみせるから! 頑張ろーぜ!」
「えぇ……」
唖然とするオオカミに、お母さんヤギが困った顔で声をかけます。
「ごめんなさいね〜。うちの子達、『お母さんガチ勢』なんですの〜」
「何ですかそのパワーワード!」
「多分私の声基準で八十点は取らないと〜、帰れないと思いますよ〜」
「お母さん、ホントに声キレイですね! え、それ基準で八十点!?」
「頑張ってくださいね〜。お布団出しておきますから〜」
「何で手慣れてるんですか!? ちょ、お母さーん!?」
「ん! 声量は少しましになったな! それを完璧にコントロールしてみせろ!」
「うわー! 助けてー!」
「違う! もっと高く! アルプスの山々を響き渡る風のように!」
「た、たすけてー?」
「その調子だ! もっと高く、天まで!」
一ヶ月後。
七ひきの子ヤギからお墨付きをもらったオオカミは、その透き通る声と演技力、何より外見のギャップで、声優界に激震を巻き起こすのですが、それはまた別のお話……。
読了ありがとうございます。
子ヤギ達のトレーニングや理論は全て適当です。良い子も悪い子も真似しない。
子どもに語った時は、些細な違いを指摘され、数十回チャレンジさせられるオオカミの話でしたが、文字に起こすと冗長なので改変しました。
書くと話すは大違い。
お母さんの声は十七才教教祖様で再生してました。
皆様お好きなお母さんキャラでどうぞ。
それでは次回、舌切りスズメでお会いしましょう。