人魚姫 その五
日曜の元気なご挨拶。
パロディ昔話第百六十九弾です。
今回は『人魚姫』で書かせていただきました。
悲恋? なんだそれうめェのか?
どうぞお楽しみください。
「姫! 貴女を追放いたします!」
「そんなっ! 何故……!?」
「わからぬはずがないでしょう!」
「っ」
大臣の言葉に、人魚姫はびくりと身体を震わせます。
「人間などという野蛮で下賎なものの命を救った挙句、恋仲になりたいなど、気高き海の王家の者とは思えません!」
「そんな……! あの方はそんな方では……!」
「お黙りなさい! 人間など川を汚し海を汚す、悪なる存在なのです! ですから……」
大臣が言葉と共に合図を出すと、人魚姫の前に短剣と小瓶が差し出されました。
「その短剣で助けた人間を殺しなさい」
「! そんな事、できる訳がありません!」
「ならばそちらの薬を飲みなさい。ヒレは足となり、声は失われ、陸上へと追放、二度と海での生活は望めなくなります」
「でしたら……!」
人魚姫はためらう事なく小瓶を取り、薬を飲み干しました。
「うっ……!」
薬の効果で気を失った人魚姫を、大臣は苛立ちを込めて見下ろしました。
「愚かな……。これが恋というものか……」
「あぁ、あの荒れ狂う海から私を救ってくれた女性は何処に……」
人魚姫に命を救われた王子様は公務の合間を縫って、自分の流れ着いた海岸を見回っていました。
王子様も人魚姫の事を想い、何とかしてまた会いたいと願っていたのでした。
「あっ!」
そんな王子様の目に、人間となり海を追放され、砂浜に横たわっている人魚姫の姿が映りました。
急ぎ駆け寄り、呼吸に問題がない事を確認した王子様は、人魚姫を自分のマントでくるみ、家来が待つ馬車へと運んだのでした。
「……?」
「気が付きましたか」
「!?」
目を覚ました人魚姫は、会いたくてたまらなかった王子様が目の前にいる事に驚きました。
しかし出会えた嬉しさを伝えようとするも、声が出ません。
「大丈夫ですか?」
「……! ……!」
王子様の問いかけに、頷く事しかできない人魚姫。
その手を王子様は優しく握りました。
「声が出ないのなら無理に出さなくて大丈夫です。貴女が元気になるまで、私がお護りしますから」
「〜〜〜っ!」
人魚姫は顔を赤くして、ただ頷く事しかできませんでした。
王子様の言葉通り、人魚姫はお城で手厚くもてなされました。
それどころか、着替えやお風呂以外は、ほとんど王子様が世話をし続けたのです。
「私の宝物を私が愛でる、それに何か問題があるのですか?」
周囲から出る不満をそう黙らせると、王子様は人魚姫と共に過ごしました。
そうするうちに人魚姫は陸での生活にも慣れ、歩けるようにもなりました。
すると王子様は、色々な所へ人魚姫を連れて行くようになりました。
城下町を共に歩き、公務にも同席させ、寝室と風呂以外は一緒と噂される程でした。
その溺愛ぶりは他の国まで広がり、それまで数多あった婚姻話はひとつ、またひとつと消えていきました。
そんなある日の事。
「ミライ」
「……!」
ミライと名付けられた人魚姫は、王子様の言葉に嬉しそうに椅子から立ち上がると、その側まで駆け寄りました。
しかし笑顔いっぱいの人魚姫と対照的に、王子様の顔は暗く曇っていました。
「……すまない」
「!?」
突然頭を下げる王子様に、人魚姫は驚きます。
ですが言葉が喋れない人魚姫は、王子様の次の言葉を待ちました。
「私は君を利用していた……。王子という立場を狙って結婚を求める女達から身を守る盾として……」
「……」
「私には心から想う女性がいる。かつて荒海に投げ出された私を助けてくれた女性。その女性を探すために……」
「……!」
「だがずっと側にいて過ごしているうちに、ミライの事を愛するようになってしまった……。あの時の女性よりもずっと……!」
「……!?」
「だからこそ、ミライを利用しようとしていた今までの自分を恥ずかしく思う……! もし叶うなら、こんな僕を許してもらえないだろうか……?」
「〜〜〜っ!」
大好きな王子様に嬉しすぎる言葉を言われ、答える言葉のない人魚姫は想いのままに抱き付きました。
「……! ありがとう……!」
そんな人魚姫に一瞬驚いた顔をした王子様は、謝罪と感謝と歓喜の涙をこぼしながら、人魚姫を抱き締めるのでした。
その後、『追放は溺愛フラグ』と思って泣く泣く追放した大臣達から、お祝いに声を取り戻す薬をもらった人魚姫。
全てを王子に伝えたところ、溺愛に更に輪がかかり、人魚姫はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
読了ありがとうございます。
「見えるか!? 貴様の曇らせとは一味違うチートを秘めた俺好きな展開が…… なろうの力をなめるなよ」
鬱展開「う……… あ……!!!」
「くらえーーー!!」
飛◯はそんな事言わない。
ちなみに人魚姫の名前の由来を検索してはいけない。
特に洗濯洗剤の名前では……。
次回は久々のキリ番。
タイトルを隠して書きたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。